11月の公共政策セミナー

2023/11/08

11月の公共政策セミナーは以下のように行われました。

◆日時: 2023年11月8日(水)13:30~16:00ごろ
(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)
◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階
公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催

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〈報告概要(敬称略・順不同)〉
◆特別枠1
三村恭子(公共政策研究分野 学術専門職員)
*今回は特別に、先日着任された三村さんに自己紹介をして頂きます。
 
◆報告1
報告者:武藤 香織(公共政策研究分野 教授)
タイトル:近況報告➕戦傷医療の倫理を考える
要旨:20世紀における人を対象とした研究倫理の礎は、戦争犯罪や戦時期における医学の問い直しから始まった。その後、平時の臨床試験の倫理や医療の倫理に関する検討が深められ、国際的に調和するルール作りが進んだ。昨今、本邦においては南西諸島有事を想定した戦傷医療体制について、本格的に検討が始められている。現代における戦傷医療の倫理では、どのような倫理的ジレンマが検討されているのか。災害時における倫理も想定しながら、考えてみたい。
⇨指定発言:永井 亜貴子(公共政策研究分野 特任研究員)

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10月の公共政策セミナー

2023/10/11

10月の公共政策セミナーは以下のように行われました。

◆日時: 2023年10月11日(水)13:30~16:00ごろ
(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)
◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階
公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催

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〈報告概要(敬称略・順不同)〉
報告1
報告者:木矢 幸孝(公共政策研究分野 特任研究員)
タイトル:認知症研究の超早期予測・予防に関する倫理的課題

要旨:日本では高齢化の進展にともない、認知症高齢者の数は増加の一途を辿っている。その数は2012年では462万人であったが、2025年には約675〜730万人(高齢者の約5人に1人)になると予測される。このような中、認知症・アルツハイマー病研究は新たな展開を迎えつつある。臨床症状が出現する前から潜在的に疾患が進行していると仮定したうえで、バイオマーカー等を利用して超早期に疾患を予測し、発症予防や症状遅延を目的とした予防法の確立が目指されている。このような超早期予測・予防は、自覚症状がない中で、長期的に人々に認知症の予測・予防を要請することになり、社会実装においては検討すべき倫理的課題が存在する。そこで本報告では、認知症・アルツハイマー病研究の超早期予測・予防が実装される社会における倫理的課題について、その背景や先行研究を整理したうえで報告する。
⇨指定発言:武藤 香織(公共政策研究分野 教授)

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9月の公共政策セミナー

2023/09/16

9月の公共政策セミナーは以下のように行われました。

◆日時: 2023年9月13日(水)13:30~16:00ごろ
(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)
◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階
公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催

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〈報告概要(敬称略・順不同)〉
◆報告1
報告者:北林 アキ(大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻博士後期課程
タイトル:患者・市民の視点を医薬品の安全な使用のために活用する際の課題の検討

要旨:近年、医薬品の開発・規制・安全な使用という一連のサイクルにおいて、医療を享受する受け身の存在であった患者が、より積極的なパートナーとして関与・参画する動きが世界的に活発化している。というのも、患者の参画によって、より患者のニーズに合った薬の開発、市販後の安全対策に繋がる等の利点が期待されるためである。しかし、我が国でのこうした取組みは比較的遅れており、特に、関係するステークホルダーの中でも規制当局への患者・市民からのインプットは極めて少ない。
この打開策を検討するべく、本研究では、主として患者・市民から規制当局への情報収集の手段について、文献研究及び調査研究(アンケート/インタビュー調査)により国内外の現状・課題を調査した。
本報告では、実施済みの調査結果の概略及び博士論文取りまとめに向けた論点(案)を共有したい。
⇨指定発言:木矢 幸孝(公共政策研究分野 特任研究員)

◆報告2
報告者:松山 涼子(大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻修士課程)
タイトル:出生コホート研究参加時の成長に伴う倫理的課題の検討

要旨:出⽣コホート研究(birth cohort study)とは、観察研究の⼿法の⼀つであり、特定の時期に⽣まれた⼈⼝集団を胎⽣期や出⽣後から成⼈期まで追跡して、⽣活環境や化学物質への曝露、遺伝などがどう⼦どもの成⻑に関係していくかを明らかにする研究⼿法である。⻑い年⽉をかけてデータを収集することで、成⼈期の健康に関して有益な洞察を提供することができる。出⽣コホート研究が⻑期に維持されるほど、有益な科学的知⾒が創出される可能性もある⼀⽅、当該コホートの維持に莫⼤な投資が必要であることや、追跡率を維持できずに選択バイアスが起きる可能性もあり、出⽣コホート研究の成功には様々な困難が伴う。
出⽣コホート研究は、⼦どもから⼤⼈に成⻑するまで続く⽣涯の研究であるという⼤きな特徴を持ち、彼らのライフステージによって検討すべき倫理的課題は異なる。参加児の年齢が上がるにつれて、配慮すべき倫理的課題が増えるため、現場が接する状況はより困難になってきていると考えられる。各出⽣コホート研究は、⼦どもを対象とした研究や疫学研究に関する既存の倫理指針等を組み合わせ、それぞれの⼯夫を取り⼊れて倫理的配慮を⾏なっている。今回の発表では、⽂献調査を通じて、出⽣コホート研究の倫理的課題を暫定的ではあるが整理したい。
⇨指定発言:楠瀬 まゆみ(大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻博士後期課程

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7月の公共政策セミナー

2023/07/12

7月の公共政策セミナーは以下のように行われました。

◆日時: 2023年7月12日(水)13:30~16:00ごろ
(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)
◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階
公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催

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〈報告概要(敬称略・順不同)〉
◆報告1
報告者:高嶋 佳代(
大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻博士後期課程
タイトル:患者対象の革新的First in human試験における倫理的課題の探索
要旨:人を対象として臨床試験のなかでも、とりわけ既存の治療法とは大きく異なる革新的な技術を用いる治療法を初めて人に応用するFirst in Human (FIH)試験の場合、その治療法の侵襲性や性質などを考慮し、患者を対象とした試験が行われる。このような試験では、治療が必要な状態である患者に対して、試験に伴う不確実性や未知のリスクへの懸念も高い安全性試験を行うことになる。したがって研究対象者となる患者に対するリスク・ベネフィットと、社会的価値とのバランスをどのように検討すべきかについては、理論と経験をもとに慎重に考究する必要があると言えよう。本博士研究では、iPS細胞を世界で初めて人に応用した試験の審査に関する議事録分析と、試験に関連したメンバーや参加した患者を対象としたインタビュー調査をもとに、検討を行っている。本報告では、本研究の構成や分析手法、並びに進捗を報告する。
⇨指定発言:松山 涼子(大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻修士課程)

◆報告2
報告者:渡部 沙織(公共政策研究分野 特任研究員)

タイトル:希少疾患のELSI課題に関する各ステークホルダーを対象とした質的調査
要旨:希少疾患を対象とする研究開発においては、患者人口の希少性がもたらす研究実施の困難さや開発の経済的市場性の低さ、患者や家族の社会的脆弱性、遺伝性疾患等に対するスティグマ、プライバシーへの繊細な配慮の必要性など、他の疾患にはみられない複雑な倫理的な課題が生じうる。国際的な希少研究のコンソーシアムであるIRDiRCで組織されたワーキンググループでは、各国が公募研究で取り組むべき希少疾患領域のELSI課題を、5つのカテゴリに分類している(Hartman et al. 2020)。本研究ではIRDiRCの分類を基にしながら、日本での具体的な課題について患者や関係者がどのような認識や概念を有しているかを探索的に検証するため、患者・家族、研究者、医療者、医薬品開発企業等、各ステークホルダーに半構造化インタビュー調査を実施した。本報告では、特に医薬品開発企業の希少疾患開発担当者のインタビューを中心に分析の結果と得られた示唆について報告する。
⇨指定発言:北林 アキ(大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻博士後期課程

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6月の公共政策セミナー

2023/06/14

6月の公共政策セミナーは以下のように行われました。

 

◆日時: 2023年6月14日(水)13:30~16:00ごろ
(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)
◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階
公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催
◆Web参加方法: 学内の方は、共有カレンダーのURLからご参加下さい。

 
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〈報告概要(敬称略・順不同)〉
◆報告1
報告者:胡 錦程(大学院学際情報学府文化・人間情報学コース修士課程)
タイトル:ポストフェミニズムにおける中国の独身女性が構築する新しい母子関係
要旨:近年、中国では婚姻率の低下と、未婚女性の出産に対する意欲の高まりが注目されている。未婚女性たちは卵子凍結や生殖補助医療を通じて積極的に出産を検討しているものの、伝統的な価値観や法的な保障の不足により、これが容易ではない。本研究では、未婚のまま子供を持つことを選択した中国の女性を対象としている。具体的には、「未来家Family」という家族の多様性や女性の選択肢をサポートするネットコミュニティのメンバーの15人に、半構造化インタビューを行う予定である。これにより、未婚女性たちがどのように出産と育児に関する権利(リプロダクティブ・ライツ)を確保し、新しい母子関係を築いているかを探る。これにより、ポストフェミニズムにおける家族形態の多様性を明らかにし、先行研究で指摘される「構築される母性」による抑圧を超え、ケアの倫理に基づいた母性の積極的な価値を見出すことを目指す。この研究は中国社会における家族の在り方と女性の未婚出産の関連研究に新しい視点を提供し、女性のリプロダクティブ・ライツを支持し、家族の多様性を促進するための政策提言につながる可能性がある。
⇨指定発言:高嶋 佳代(大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻 博士後期課程)

◆報告2
報告者:
井上 悠輔(公共政策研究分野 准教授)
タイトル:死後脳バンクをめぐる検討
要旨:精神・神経疾患の研究の一環として、疾患・健常の脳が使用される。脳は解剖によって摘出する必要があることから、その入手は研究者にとって必ずしも容易ではなく、国内外で「ブレインバンク」が設置されてきた。死後脳を対象とした研究は、その倫理的、社会的な課題のほか、死者への研究者のアクセスに関する法的な課題にも直面してきた。公的な研究倫理指針において、「死後の研究参加」に関する言及はほとんどなされておらず、古い法文の解釈や慣行、医療者・医療機関への信頼、遺族の理解によって活動は支えられていると言って良い。近年では、本人の(生前の)提供意思の登録制度に注目が集まっているが、その理論的な位置付けや社会発信のあり方には課題も残されている。これらの状況をJBBNプロジェクトを基に紹介しつつ、生前登録制度の参加者調査の進捗にも言及する。
⇨指定発言:佐藤 桃子(大学院学際情報学府文化・人間情報学コース 博士後期課程)

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5月の公共政策セミナー

2023/05/10

5月の公共政策セミナーは以下のように行われました。

 
◆日時: 2023年5月10日(水)13:30~16:00ごろ
(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)
◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階
公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催
◆Web参加方法: 学内の方は、共有カレンダーのURLからご参加下さい。


 
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〈報告概要(敬称略・順不同)〉
◆報告1
報告者:北尾 仁広(公共政策研究分野 特任研究員)

タイトル:臨床試験等における重篤な有害事象等の法的正当化をめぐる課題
要旨:治験・臨床試験(以下、「臨床試験等」)には、望ましくない副次的結果(被害者の死亡その他の重篤な有害事象等)が生じるリスクが常に随伴する。このこと自体は自明なことではあるが、この自明なリスクが現実化した場合、実験者の行為を(刑)法的に正当化するにはいくつかの困難を克服しなければならない。具体的には未必の故意に基づく故意殺人罪や、リスクの存在を認識しながら敢行したことに伴う傷害致死罪などの成立を否定するだけの明白で確固とした論拠が求められる。最も頻繁に用いられる論拠として、「インフォームド・コンセント」や「患者の同意」といった、患者側の了解が挙げられる。しかし、刑法202条(嘱託・承諾殺人)や、危険運転において好意同乗者に死傷結果が生じた場合も運転者は刑法上免責されないという支配的見解を念頭に置くと、患者側の了解それ自体を直接の論拠と見てよいか疑わしさが残る。そこで本報告では、1)「患者の同意」の法的性格を簡単に整理したうえで、2)特にいわゆる「危険引受け」の観点から臨床試験等における患者の自己決定それ自体を「優越的利益」として具体化する必要性を示す。

⇨指定発言:井上 悠輔(公共政策研究分野 准教授)


◆報告2
報告者:島﨑 美空(大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻博士後期課程

タイトル:日本のゲイの人々の子をもつ意識及び生殖補助医療に対する態度
要旨:我が国において、性的マイノリティの家族形成、特に子をもつことを保障する法律や体制は十分でなく、また性的マイノリティ当事者の見解が社会政策に反映されているかは不明である。さらに性的マイノリティの家族形成については欧米諸国や台湾で調査の実施例があるが、国内では特にゲイの人々を対象とした研究はない。そこで、未だ明らかでない日本のゲイの人々の子をもつ意識及び生殖補助医療技術 (ART: Assisted Reproductive Technology)利用に対する態度を調査した。そして当事者の意識を可視化し、どのような因子がゲイの人々の子をもつ意識に影響を及ぼしているのかを日本の社会的背景から検討することを目的とした。日本在住のゲイの人々10 名を対象として、調査参加者の子をもつ意識及び ART 利用に対する態度を明らかにするために半構造化インタビューを実施しその語りを、子をもつ願望、子をもつ意図、ART利用に対する態度の3つのトピックに分類し、それぞれについてMayringの質的内容分析を用いて分析した。なおこの研究は発表者の修士研究であり、今回のセミナーではこのインタビュー調査の結果を報告するとともに、博士研究への展望を発表する。

⇨指定発言:胡 錦程(大学院学際情報学府文化・人間情報学コース修士課程)

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3月の公共政策セミナー

2023/03/08

3月の公共政策セミナーは以下のように行われました。

◆日時: 2023年3月8日(水)13:30~16:00ごろ
(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)
◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階
公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催
◆Web参加方法: 学内の方は、共有カレンダーのURLからご参加下さい。

 
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〈報告概要(敬称略・順不同)〉
◆報告1
報告者:河田 純一(公共政策研究分野 学術専門職員)

タイトル:新たな医療カテゴリーの成立によるメンバーシップの再構成:若年がん患者からAYA世代へ
要旨:AYA世代とは、Adolescent and Young Adult(思春期・若年成人)の頭文字をとったもので、主に、15歳から30歳代までの世代を指す。このAYA世代のがん対策は、2017年に策定された「第3期がん対策推進基本計画」において初めて明記された。現在では、AYA世代に対して医療者からのサポートだけでなく、AYA世代のがん経験者自身によるピアサポートも活発に行われている。本報告では、AYA世代という新たな医療カテゴリーが、その当事者たちの自己アイデンティティに埋め込まれた過程をA.ギデンズの再帰的自己論の視座から検討する。そのために、まず、このAYA世代というカテゴリーが、がん医療、そしてわが国のがん政策においてどのように成立したのかを確認する。次に、新たにAYA世代とカテゴライズされたがん経験者たちの言説に焦点を当てる。具体的には、若年性がん患者会の会報誌において、いつ、どのように「AYA世代」が用いられるようになったのかを分析した結果を報告する。
⇨指定発言:佐藤 桃子(大学院学際情報学府文化・人間情報学コース 博士後期課程)

◆報告2
報告者:鈴木 将平(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 臨床研究センター 特任研究員)

タイトル:常染色体潜性(劣性)遺伝病の〈保因者検査〉をめぐるELSI:近現代の人の移動とアイデンティティから
要旨:常染色体潜性(劣性)遺伝病(Autosomal Recessive Disease: ARD)は、同じ遺伝子変異を持っている非発症保因者同士が子どもをもうけた場合、4分の1の確率で重篤な疾患を発症する。ARDの非発症保因者を特定するために行われる遺伝学的検査は、海外ではキャリア・スクリーニング(Carrier Screening: CS)と呼ばれており、1970年代以降、地中海地域や北米などの多民族社会で、特定の民族に頻度の高い疾患を中心に実施されてきた。さらに近年では、一般人口の低リスク集団をも対象にした拡張キャリア・スクリーニング(Expanded Carrier Screening: ECS)の導入を検討している国もある。本報告では、こうした〈保因者検査〉の特質を、歴史的経緯や国際的な動向、先行研究のレビューをふまえて整理する。また、北米でCSの対象となった東欧系ユダヤ移民の背景、そして近年の遺伝学的検査に関する商業的言説をふまえ、中長期的な人の移動やアイデンティティの複数性という観点から、〈保因者検査〉および希少難治性疾患のELSIを論じる。
⇨指定発言:李 怡然(公共政策研究分野 助教)

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2月の公共政策セミナー

2023/02/08

2月の公共政策セミナーは以下の通りでした。

日時: 2022年2月8日(水)13:30~16:00ごろ
◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階
公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催

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〈報告概要(敬称略・順不同)〉
◆報告1
報告者:
飯田 寛(新領域創成科学研究科博士課程)
タイトル:
遺伝情報に基づく差別禁止とは何か-生命保険と労働分野における制度設計
要旨:ヒトゲノム解析計画によって遺伝情報が明らかになることでの差別が懸念され、ユネスコは世界宣言で差別禁止の考え方を示した。遺伝情報だけを特別視することは遺伝子例外主義といった批判的な議論もあったものの、諸外国では遺伝情報の利用に関する法規制をつくりあげてきた。しかし、日本では現在のところ規制は存在しない。日本の先行研究では、議論が必要であることが明らかになっているが、議論の前提となる制度設計の課題などを具体的に示した研究は見当たらない。
本研究の目的は日本の遺伝情報の取扱いをめぐる議論と制度的な課題を明らかにし、より具体的な制度設計が進んでいる海外での議論の事例を取り上げて検討することで、差別の防止に向けた制度設計の枠組を提示することである。本研究の方法は文献研究より、日本の文献研究を第一研究と設定し、国内での政策的な議論の経過を明らかにし、これまで制度設計に至らなかった要因を検討、また、遺伝情報が加わった場合の差別の論点を明らかにする。海外の文献研究を第二研究と設定し、海外の議論と差別禁止の制度設計をした国々の議論を明らかにし、それらを踏まえて日本の制度設計を考察する。今回のセミナーでは、論文の構成に沿って博士論文の内容を発表する。

 

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2023年1月の公共政策セミナー

2023/01/11

2023年1月の公共政策セミナーは以下のように行われました。

◆日時: 2023年1月11日(水)13:30~16:00ごろ
◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階
公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催

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〈報告概要(敬称略・順不同)〉
◆報告1
報告者:渡部 沙織(公共政策研究分野 特任研究員)
タイトル:幹細胞研究における患者・市民参画とベネフィット・シェアリング

幹細胞研究(以下, SCR)の実用化に際して、患者・市民参画(PPI/E; Patient and Public Involvement/Engagement)への患者・家族の積極的な関与は、参加者のリスク軽減、細胞や情報の提供者の研究参加率の向上など、研究の円滑な実施に寄与する可能性がある。また、SCRの責任ある研究・イノベーション(RRI; Responsible Research and Innovation )達成のためには、細胞ドナーや介入対象である患者・家族・市民のガバナンスへの関与が、ゲノム研究等多領域で既に実施されている実践と同様に必要であると考えられる。
本報告では、SCRにおけるPPI/Eとベネフィット・シェアリングについて、患者を対象とした質問紙意識調査の分析結果からその課題について考察する。
⇨指定発言:亀山 純子(公共政策研究分野 特任研究員)

◆報告2
報告者:松山 涼子(大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻 修士課程)
タイトル:バイオバンクと提供者の関係性における文献調査
要旨:
未定
⇨指定発言:原田 香菜(公共政策研究分野 特任研究員)

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2022年度第7回公共政策セミナー

2022/12/14

12月の公共政策セミナーは以下のように行われました。

日時:2022年12月14日(水)

〈報告概要(敬称略・順不同)〉

報告1

報告者: 木矢 幸孝(公共政策研究分野 特任研究員)
タイトル: 14日ルールの再検討:一般市民と不妊治療経験者へのFGI調査から

要旨:

2021年、国際幹細胞学会(ISSCR)は「幹細胞研究・臨床応用に関するガイドライン」を改訂し、ヒト胚の受精後14日以降もしくは原始線条の形成以降の体外培養を禁止する、14日ルールを禁止項目から外した。ルールの再検討にあたっては一般市民や不妊治療経験者を含めた社会的な議論の必要性が指摘されるが(Hyun et al., 2021; McCully, 2021など)、本邦において上記の人々がヒト胚の14日を超える体外培養をどのように評価しているのか、そしてその理由は何であるのかは十分に明らかにされていない。
そこで、2022年9月~10月に一般市民と不妊治療経験者を対象にフォーカスグループインタビューを実施し、ヒト受精胚の体外培養の延長に関する評価とその理由を探った。本報告では分析中の調査の結果を共有し、調査から得られうる倫理的課題を報告する。

⇨指定発言:松山 涼子(大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻 修士課程)

報告2

報告者: 李 怡然(公共政策研究分野 助教)
タイトル: 健康医療データの利活用における子どもの権利保護を考える

要旨:

近年、未診断疾患の診断や治療法の開発、企業による創薬のために利活用できるよう、患者・市民の健康医療データを収集する大規模プロジェクトが国際的に進められている。このような医学研究では、プライバシー保護やデータの利活用ポリシー、解析結果の返却のあり方などが検討課題となるが、とりわけ子ども(小児・未成年者)が研究対象者になる場合は、成人一般と比べて追加的な保護も必要とされる。たとえば、子どもは親権者の代諾で研究に参加するため、成長後に意思確認を行うことなどが挙げられる。今日、ビッグデータやデジタルヘルスの活用も目指される中で、子どもの権利をどのように保護するかや、子どもの関与のあり方をあらためて問う時期にある。健康医療データの収集や利活用が進む時代において、子どもの権利保護をめぐってどのような論点が浮上しているかを紹介し、この問題を考える手がかりとしたい。

⇨指定発言:渡部 沙織(公共政策研究分野 特任研究員)

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2022年度第6回公共政策セミナー

2022/11/09

2022年11月の公共政策セミナーは以下のように行われました。

日時: 2022年11月9日(水)13:30~16:00
場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階
公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催

〈報告概要(敬称略・順不同)〉

報告1

報告者: 永井 亜貴子(公共政策研究分野 特任助教)
タイトル: 遺伝情報の取り扱いに対する態度と法規制のニーズ(仮)

要旨:

2019年のがん遺伝子パネル検査の保険適用など、近年、日本国内においてもゲノム医療が普及し始めている。諸外国では、個人の遺伝的な特徴に基づく不適切な取り扱いを法律で規制する国も多いが、日本ではそのような取り扱いを禁止する法律は存在しない。また、国内においては、社会における遺伝的な特徴に基づく差別の実態や、遺伝情報の利用に関する市民の懸念についての調査が少なく、その実態は明らかではない。そのような背景のもと、市民を対象として、2017年および2022年に、遺伝情報の利活用に関するインターネット調査を実施した。
本報告では、遺伝的な特徴に基づく不適切な取り扱いの経験や、遺伝情報の利用に関する懸念等の態度、遺伝情報の取り扱いに関する法規制のニーズについて、5年間の変化も含め報告する。

⇨指定発言:李 怡然(公共政策研究分野 助教)

報告2

報告者: 井上 悠輔(公共政策研究分野 准教授)
タイトル: データ研究の倫理と「グループハーム」の検討(仮)

要旨:

米国の連邦規則45CFR36は、当国の議論のみならず、我が国を含む他国の研究倫理の規範形成において大きな影響を及ぼしてきた。この規則における、許容される研究のあり方をめぐる規定については以前から議論がある。特に、研究の事前審査において「研究から得られる知識の応用による長期的影響の可能性を,その責任の範囲内の研究上の危険の要素として,考慮に入れるべきではない。」(「研究に関する倫理承認の基準」)とされる点である。研究の事前審査の段階で、研究がもたらしうる影響をあまりに広げて検討すると、研究活動自体が大きな制約を受けかねないとの発想が背景にある。一方、この点は、研究結果の影響が参加者個人にとどまらない研究(例:コミュニティ対象研究)、最近では、機械学習を用いたデータ解析の文脈から、批判されている。報告者は、この議論は日本のデータ研究を取り巻く、いくつかのトピックにも通じる点があると考える。本発表は、「グループハーム」をめぐる議論を手がかりに、この問題を振り返り、今後の検討のための論点を整理したい。

⇨指定発言:木矢 幸孝(公共政策研究分野 特任研究員)

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2022年度第5回公共政策セミナー

2022/10/12

2022年10月12日、以下のように公共政策セミナーが行われました。

〈報告概要(敬称略・順不同)〉

報告1

報告者: 武藤 香織(公共政策研究分野 教授)
タイトル: 研究への患者・市民参画(PPI/E)の現状と課題

要旨:

近年、日本でも研究への患者・市民参画(PPI/E)の必要性に関する認識が広がり、実施報告に関する学会発表や論文も見かけるようになった。日本は、研究者の自主性を重んじ、モダリティ別・疾患別での研究費や政策での記述に基づくインセンティブに頼った普及となっているが、好事例の報告等を通じて、導入の抵抗感を下げる効果も出ているといえるだろう。一方で、そろそろ研究倫理指針などにおいて、PPI/E導入に関する倫理的な根拠や研究者等の責務を明確化することも考える必要がある。また、より具体的な実務のあり方(倫理審査での取扱い、公募手続き、守秘義務、利益相反管理、費用・謝金、論文等での記載事項、評価等)の議論も深める時期であろう。本報告では、AMED『患者・市民参画(PPI)ガイドブック』(2019)発行以降の国内での概況を踏まえ、これらの課題に対して検討中の内容を報告する。

⇨指定発言:永井 亜貴子(公共政策研究分野 特任助教)

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2022年度第4回公共政策セミナー

2022/09/18

9月14日13時半から公共政策セミナーが開催されました。

報告1

報告者: 河合 香織(大学院学際情報学府文化・人間情報学コース 博士後期課程)
タイトル: ゲノム医療時代における『遺伝学的責任(genetic responsibility)』の再考

要旨:

1970年代以降、遺伝子検査(GT)に関する議論を形成してきた道徳的概念が「遺伝的責任」(genetic responsibility,GR)で、LipkinとRowley(1974)によって作られた造語である。この概念に対するもう一つのアプローチは、社会学者であるニコラス・ローズらによって提唱され、GRが個人の生活スタイルに生政治的影響を反映していると理論化した(Lemke、2006;Rose、2007)。
本報告では、このような遺伝学的責任の議論を踏まえ、日本におけるゲノム医療時代における遺伝学的責任の射程について再考するという博士課程での研究計画について発表する。

⇨指定発言:渡部 沙織(公共政策研究分野 特任研究員)

報告2

報告者: 北林 アキ(大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻 博士後期課程)
タイトル: 患者・市民の視点を医薬品の安全な使用のために活用する際の課題の検討

要旨:

医薬品には副作用等のリスクがあるため、製造販売後も引き続き副作用等の情報収集を行い、医薬品の安全かつ適正な使用のために活用することが重要である。
収集する情報源として、これまで主であった製薬企業や医療従事者からの情報に加え、患者から寄せられる情報の利点が注目され始め、医薬品の安全な使用のために当該情報を規制当局の意思決定に活用する取組みが世界的にも進んでいる。しかし、我が国でのこうした取組みは、他の先進国に比べて大きく後れている。
そこで、この打開策を検討するべく、本研究では、主として患者・市民からの情報収集の手段について、文献研究及び調査研究(アンケート調査)により国内外の現状を調査している。
本報告においては、これまでの検討を踏まえて今後実施予定の、患者・市民を対象とした調査計画(案)を共有したい。

⇨指定発言:武藤 香織(公共政策研究分野 教授)

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2022年度第3回公共政策セミナー

2022/07/18

以下のように公共政策セミナーが開催されました。

報告1

報告者: 楠瀬 まゆみ(大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻 博士後期課程)
タイトル: 医学研究におけるPHRデータ共有の共有と利活用に関する一般市民に対する意識調査

要旨:

2020年7月の閣議決定により、「データヘルス改革」の実現に向けた取り組みが進められている。そこでは、健康・医療・介護分野データの有機的連結によるパーソナルヘルスレコード(PHR)データシェアリングによる効果的・効率的な医療・介護サービスの提供や、マイナポータルなどを用いて健康・医療等情報をスマホ等で自分のパーソナルヘルスレコード(PHR)データを閲覧したり、民間企業・研究者がPHRビッグデータを研究やイノベーション創出に活用できる仕組みの構築が目指されている。
そのための一環として、国民のマイナカードの取得、健康保険証としての利用、公金受け取り口座の登録のインセンティブとして、サービスや商品と交換可能なポイントの付与をおこなっている。他方、研究の文脈においては、研究参加者への謝礼等の提供関しては、不当な誘因などの倫理的議論が存在する。
今回の発表においては、2021年におこなった医学研究におけるヘルスケアデータの提供と利活用に関する一般市民の意識調査から、特にリテラシーや、インセンティブとしてのポイント付与、一般市民の研究へのデータ提供の選好などの関係に焦点を当てて発表を行う。

⇨指定発言:河合 香織(大学院学際情報学府文化・人間情報学コース 博士後期課程)

報告2

報告者: 佐藤 桃子(大学院学際情報学府文化・人間情報学コース 博士後期課程)
タイトル: アイヌ遺骨の研究利用をめぐる政策形成過程の検討

要旨:

19世紀後半から戦後に至るまで、アイヌの人々の遺骨は人類学的関心を集め、研究者やその協力者による発掘にさらされてきた。日本は2008年に「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」を可決し、遺骨問題は内閣官房のアイヌ総合政策室で議論されている。遺骨を保管していた大学等に対する返還訴訟はしばしば紹介されることがあるものの、遺骨問題対応の政策的な決定過程に関する分析は多くない。
本発表では、アイヌ政策推進会議および作業部会の議事録から、アイヌ遺骨問題の議論の過程を検討し、特に「慰霊施設に集約した遺骨について、研究利用の可能性を残す」という方針がどのような議論を元に形成されたのかを紹介する。

⇨指定発言:北林 アキ(大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻 博士後期課程)

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2022年度第2回公共政策セミナー

2022/06/14

6月の公共政策セミナーが以下のように行われました。

〈報告概要(敬称略・順不同)〉

報告1

報告者: 高嶋 佳代(大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻 博士後期課程)
タイトル: 患者対象のFirst in human(FIH)試験における倫理的課題の探索

要旨:

治療法の臨床応用には、人を対象とした臨床試験が必要となる。とりわけ安全性検証を主目的として人で初めて実施される、いわゆるFirst in human試験(FIH試験)には不確実性や未知のリスクへの懸念が考えられ、そのリスクベネフィットの衡量はより複雑性を増すと考えられる。このような臨床試験の倫理的課題の検討は、理論研究や質的研究がなされてきているが、抗がん剤などの生命に関わる疾患を対象としたものが多く、生命の質に関わる疾患への検討はまだ十分であるとはいえない。そこで本研究では、新規性の高いFIH試験の倫理的課題を検討し、今後実施される同様の研究への一助とすることを目的として、2014年に世界で初めてiPS細胞を用いたFIH試験に焦点を当て、研究に関与した様々な立場の当事者にインタビュー調査を行なっている。
本報告では、インタビュー調査の進捗について報告する予定である。

⇨指定発言:楠瀬 まゆみ(大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻 博士後期課程)

報告2

報告者: 飯田 寛(大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻 博士後期課程)
タイトル: 日本の生命保険と労働分野における遺伝差別とは何か(博士論文の構成と概要)

要旨:

遺伝情報はその固有性、不変性、親族共有性、将来予見性などから特別な情報であるとする遺伝情報例外主義の観点から、特に生命保険と労働の分野は注目された分野であり、諸外国では生命保険や労働の分野で遺伝情報を使用することは差別であるとして法律等で禁止する動きがある。一方で、日本では個人情報保護法以外に遺伝情報について定められた規制はなく、生命保険業界ではガイドラインがいまだ公表されておらず、労働の分野も限られた厚生労働省の指針等があるだけで、遺伝情報の取扱いに関する倫理的問題に議論が進んでいない状態である。そこで、議論を進めるために日本の公的・民間保険の環境、日本の労働者の健康管理の責務・環境において、遺伝差別とはどういう形態/態様なのかを、海外との比較において具体的に示すことを本研究の目的とする。今回は本研究(博士論文)の構成・概要について報告する。

⇨指定発言:佐藤 桃子(大学院学際情報学府文化・人間情報学コース 博士後期課程)

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2022年度第1回公共政策セミナー

2022/05/11

2022年度 第1回公共政策セミナー

本日第1回公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。

◆日時: 2022年5月11日(水)13:30~16:00

発表者1: 原田 香菜(東京大学医科学研究所 公共政策研究分野 特任研究員)
タイトル: 英国の生殖補助医療・胚研究に関する制定法とヒト配偶子の位置づけの変遷~Yearworth判決を契機として

要旨:

英国では、ヒトの配偶子および胚を用いた生殖補助医療の実施、研究におけるヒト配偶子・胚の取り扱いについて、Human Fertilisation and Embryology Act 2008 (HFEA 2008と略称)により定められる。わが国でも2020年12月、ようやく生殖補助医療特例法が制定されたが、配偶子・胚の提供等についての行為規範、そして実施情報の保存・管理・開示等に関する仕組みは未整備である。英国HFEA 2008と制度の成り立ち、およびヒト配偶子の法的性質・その保管契約について示した近時の判例をとおして、今後、わが国で生殖補助医療・ヒト胚研究について横断的かつ連続的な法規制を設けることの適否、そして規律のあり方について検討する端緒としたい。

発表者2: 亀山 純子(東京大学医科学研究所 公共政策研究分野 特任研究員)
タイトル: 医療AIの研究開発・実践に伴う倫理的・法的・社会的課題に関する研究

要旨:

医療におけるAIブームの中核ともいえるディープラーニングを含むニューラルネットワークの基礎は、人工知能という言葉が生まれる以前に存在していた。1943年には、Waren S. McCullochとWalter J. Pittsによって人工ニューロンが発表されたが、この応用として注目を集め、期待されたのが医療分野であった。第3次AIブームが画像認識分野を中心に始まったことは有名であるが、超高速高精度で自律的に情報処理を可能とするAIは、医師の診断の高速化と精度向上を支援するツールとして期待されている。今後は、これまでの診断のみならず、予防や治療といった側面でのAI活用を推し進める研究開発もさらに規模を拡大していくものと思われる。一方で、AIによる解析においては、患者の個人情報の二次利用にあたって、必要な匿名加工に関して定めた「次世代医療基盤法」への適応も留意した上で慎重に進める必要がある。AI活用が、国民の理解と社会の受け入れを得られるような、より安全で有益なものとして進展されることを望む声も高まっている。今回、日本人市民を対象とした調査研究によって得られた成果を報告する。

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2021年度第10回公共政策セミナー

2022/03/09

本日第10回公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。

◆日時:3月9日13時半~16時00分頃

発表者1: 高嶋 佳代(大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻 博士後期課程)
タイトル: 患者対象のFirst in human(FIH)試験における倫理的課題の探索-リスクベネフィットの比較衡量に関する検討-

要旨:

治療法の臨床応用には、人を対象とした臨床試験が必要となる。とりわけ、前臨床試験後に安全性検証を主目的として人で初めて実施される、いわゆるFirst in human試験(FIH試験)には不確実性や未知のリスクへの懸念が考えられ、そのリスクベネフィットの衡量はより複雑性を増すと考えられる。FIH試験のリスクべネフィットへの倫理的側面に関しては、主に抗がん剤等のFIH試験を対象に議論が行われてきたが、研究参加者や研究者等さまざまな立場からの意見をもとにした検討は、十分になされているとは言えない。そこで本研究では、FIH試験の実施に関する多面的で総合的なリスクベネフィット衡量のあり方を検討し、今後のFIH試験の計画立案や倫理審査への一助とすることを目的として、iPS細胞を世界で初めて用いたFIH試験に焦点を当て、研究に関与した様々な立場の当事者にインタビュー調査を実施している。本報告では、主に対象とする臨床試験の背景を示した上で、インタビュー調査の進捗について報告する。

発表者2: 飯田 寛(大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻 博士後期課程)
タイトル: オーストラリアでの生命保険における遺伝学的検査結果の取扱い-変更の背景・経緯と自主規制の内容-

要旨:

遺伝情報はその固有性、不変性、親族共有性、将来予見性などから特別な情報であるとする遺伝情報例外主義から諸外国では遺伝情報の取扱いを制限する動きがみられる。特に生命保険は注目された分野であり、遺伝学的検査結果をもとに危険選択をすることで、生命保険の加入できない、もしくは保険料が高くなることは差別であるとしてその使用を法律等で禁止する動きがある。一方で、生命保険会社の視点では、情報を入手できなければ、逆選択として保険数理に影響があるとの反論がある。諸外国が生命保険会社での遺伝学的検査結果の使用を禁止する中で、オーストラリアはこれまで加入者に遺伝学的検査結果の告知を義務付け入手していた。しかし、2019年に期限付きで一定の保険金額については遺伝学的検査結果を入手しないとする業界の自主規制を制定した。このオーストラリアの生命保険会社の遺伝学的検査結果の取扱いの変更の背景と経緯および英国のモラトリアムと比較した自主規制の内容について報告する。

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2021年度第9回公共政策セミナー

2022/02/09

本日第9回公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。

◆日時:2月9日13時半~16時20分頃

発表者1: 楠瀬 まゆみ(大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻 博士後期課程)
タイトル: クラウド・コンピューティングを用いたゲノム研究に関する一般市民の意識調査

要旨:

近年、オープンサイエンスの推進のため、データの収集、保存、解析、共有/公開というサイクルを円滑に回すことができるデータ・エコシステムの構築が求められている。ヒトゲノム研究においては、技術の向上によりゲノム解析に要する時間やコストが減少、そこで生み出されるデータは膨大で年々増加傾向にある。ある試算によると2025年までに1億から20億のヒトゲノムデータが解析される可能性があり、その保存のためだけで2~40エクサバイトのストレージ容量が必要と言われる。また国際共同研究においては、HDD、SSD、SSHD等の大容量記憶装置を用いて物理的にデータを移動させることには限界がある。そのため国際共同研究においてはクラウド・コンピューティング(以下、クラウド)を用いる場面が多くなっている。しかしゲノム研究におけるクラウド利用には、プライバシー保護の問題、国際間での異なるデータ保護法令への対応、データ・ガバナンスの問題が指摘され、ゲノム研究におけるクラウドの活用にあたっては研究参加者や一般市民の理解の重要性も指摘されている。他方日本においては、研究におけるクラウドの利活用について言及した規制した指針や法令は無く、またゲノム研究における研究参加者や一般市民のクラウドの理解や受容についての調査も見られない。そのため、2021年3月に一般市民を対象に医学研究におけるクラウドの利活用に関する意識調査を試行した。本発表では、その意識調査の結果について発表する。

発表者2: 船橋 亜希子(東京大学医科学研究所 公共政策研究分野 特任研究員)
タイトル: ディオバン最高裁決定を読む

要旨:

2021年6月28日に出されたディオバン最高裁決定について報告する。裁判例においては一貫して、被告人がデータを改ざんし虚偽の図表等のデータを作成していた等の事実が認められている。それにもかかわらず、製薬企業及びその社員(当時)について一貫して無罪とされたのはなぜか。本事案における刑事責任とその判断構造について検討してこれを明らかにし、刑事責任追求の意義と限界を考える。検討にあたって必要な刑法の基礎的な部分についてもご紹介しながら、刑法的観点からでは検討し尽くせないように見える本事案について話題提供をする。

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2021年第8回公共政策セミナー

2022/01/12

本日第8回公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。

◆日時:1月12日13時半~16時

発表者1: 北林 アキ(大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻 博士後期課程)
タイトル: 患者・市民の視点を踏まえた医薬品情報の提供を実現するための課題の検討

要旨:

医薬品には副作用等のリスクがあり、製造販売後も引き続き情報収集することが、医薬品の安全かつ適正な使用のために重要である。収集する情報源として、これまで主であった製薬企業や医療従事者からの情報に加え、患者から寄せられる情報の利点が注目され始め、医薬品の安全な使用のために当該情報を規制当局の意思決定に活用する取組みが世界的にも進んでいる。
しかし、我が国ではこうした取組みが諸外国に比べて大きく後れているため、その原因を探り、状況の改善策の提案に繋げるべく、本研究では、①患者・市民からの情報収集、及び②患者・市民への情報発信の2つの要素について、文献研究及び調査研究(アンケート調査)により現状を調査していく予定である。本報告においては、計画中の医療従事者を対象としたアンケート調査に先立ち実施した関係者2名へのヒアリング結果を提示すると共に、それを踏まえた今後の調査計画(案)を共有する。

発表者2: 永井 亜貴子(東京大学医科学研究所 公共政策研究分野 特任助教)
タイトル: がんゲノム医療の普及に向けた情報提供のあり方に関する研究

要旨:

2019年6月にがん組織の遺伝子を一括して網羅的に調べるがん遺伝子パネル検査の保険適用が開始され、がんゲノム医療の体制整備が進められている。がん遺伝子パネル検査を受けた患者の検査データは、患者の同意に基づき、がんゲノム情報管理センター(C-CAT)に登録され、C-CAT調査結果の作成に用いられるほか、大学・企業などが研究・開発目的に利用(二次利用)するために提供される。本報告では、今後、がんゲノム医療を適切に推進していくために必要となるがんゲノム医療に関する情報提供のあり方について検討するために、がん患者を対象として実施したフォーカス・グループ・インタビュー調査の結果について報告する。

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2021年第7回公共政策セミナー

2021/12/08

本日第7回公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。

◆日時:12月8日13時半~16時半

発表者1: 佐藤 桃子(大学院学際情報学府文化・人間情報学コース 博士後期課程)
タイトル: 先住民族のゲノム研究における日本とカナダの比較

要旨:

歴史上、マイノリティや立場の弱い人々が科学研究や医学研究の名の下に搾取された事例は枚挙にいとまがないが、世界各地に居住する先住民族の人々も、同様にICの軽視やヒト資料・データの不適切な利用といった被害を被ってきた。特にゲノム研究は、バリアントをある程度共有するマイノリティのコミュニティである先住民族にとって、バイオパイラシーや結果解釈の影響など、研究参加によって不利益を被る可能性が低くない。一方近年、ゲノム研究者側からも、世界的に見てサンプルがヨーロッパ系に偏っていることから、多様な人々の研究参加を求める声が上がっている。本発表では、このような状況を踏まえ、関連した日本における状況・取り組みと、海外、特にカナダの動きを対置し、博論研究における問題意識とアプローチの足場を固めることを目指す。

発表者2: 武藤 香織(東京大学医科学研究所 公共政策研究分野 教授)
タイトル: 遺伝情報の取扱いと差別禁止について

要旨:

遺伝情報に基づく差別(genetic discrimination)とは、「実際の、もしくは推測された遺伝的特徴に基づいて、個人やその血縁者に対し不利な取り扱いを行うこと」と定義される。ゲノム医療が本格化されるなかでも、議論が進まない遺伝情報に基づく差別防止について、最近の模索を共有する。

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