11月の公共政策セミナー

2025/11/05

2025年11月の公共政策セミナーは、以下の通り、行われます。

◆日時: 2025年11月12日(水)13:30-16:00ごろ

(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)

◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階

公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催

◆Web参加方法:公共政策メンバーの方は、共有カレンダーのURLからご参加下さい。

※所外の方は、お手数ですがご参加都度、開催当日昼12時までに渡部までご連絡下さい。セミナー開始までに参加用URLと当日の資料ファイルをお送りします。

 

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〈報告概要(敬称略・順不同)〉

◆報告1

報告者:村上 文子(大学院学際情報学府文化・人間情報学コース 修士課程)

タイトル:医療に係る意思決定支援とは何か:政策における議論を中心に

要旨:増加する身寄りのない高齢者が抱える生活課題等への対応は急務となっており、そのニーズに応じる「高齢者等終身サポート事業者」(以下、事業者)は全国で推定400社を超えている。生活の様々な場面での意思決定支援の施策がすすんでいるが、医療に係る意思決定だけは国としての施策になっていない。2024年に内閣官房および8府省庁が合同で公表した「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」では、事業者に医療に係る意思決定支援への関与が認められるなど、高齢者の意思決定支援において事業者の存在が頼りにされはじめている。

本発表では、高齢者の医療に係る意思決定支援について、事業者の関与が認められるにいたるまでの、成年後見制度と臨床倫理の分野における議論の変遷を読み解く。なお、本発表は、発表者が現在執筆中の修士論文における第一研究の一部である。

指定発言:河田 純一(公共政策研究分野 特任研究員)

 

◆報告2

報告者:島﨑 美空 (大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻博士後期課程)

タイトル:出生前検査としての超音波検査の現状と倫理的課題:女性を対象としたミックスド・メソッド研究

要旨:超音波検査は低侵襲の検査で、産科領域においては妊娠経過や胎児発育の確認のために使用されている。近年では、超音波検査機器の精度向上により、詳細に胎児の形態を観察することが可能になったことで出生前検査としても提供されている。しかし、その提供の現状や倫理的課題は国内において十分に議論されていない。そこで本研究は、ミックスド・メソッドを用いて出生前検査としての超音波検査(FUSE: Fetal Ultrasound Screening Examination)の経験を解明し、FUSE経験者の視点から倫理的課題を検討することを目的に調査を実施した。ウェブ調査(N=1,236)とインタビュー調査(N=29)を実施した結果、胎児の様子を見て確認できるポジティブな体験を伴う検査であることや、受検することで不安に対処できた感覚が肯定的に評価される一方で、受検することによって惹起される心理的負担や葛藤、生命倫理の自律尊重原則に反する情報提供、意思決定支援の実情があることが見えてきた。本発表では、予備審査を経て執筆の方向性を修正中である博士論文の途中経過を報告する。

指定発言:西 千尋(公共政策研究分野 特任研究員)

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10月の公共政策セミナー

2025/10/08

2025年10月の公共政策セミナーは、以下の通り、行われました。

◆日時: 2025年10月8日(水)13:30-16:00ごろ

(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)

◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階

公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催

◆Web参加方法:公共政策メンバーの方は、共有カレンダーのURLからご参加下さい。

※所外の方は、お手数ですがご参加都度、開催当日昼12時までに渡部までご連絡下さい。セミナー開始までに参加用URLと当日の資料ファイルをお送りします。

 

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〈報告概要(敬称略・順不同)〉

◆報告1

報告者:河合 香織(大学院学際情報学府文化・人間情報学コース 博士後期課程)

タイトル:インターネットを通じた難病のゲノム医療や遺伝情報の伝え方に関する検討

要旨:近年、ゲノム医療の進展に伴い、遺伝情報の提供は患者や家族の結婚・妊娠・出産のみならず、診断後の生活設計や家族内での情報共有など多岐にわたる意思決定に影響を及ぼしている。特に希少な疾患や難病については、多くの患者や家族が身近にアクセスできるインターネット上の情報源において、欧米に比べ日本ではゲノム医療や遺伝情報についてわかりやすい情報提供が充分になされていない状況がある。また情報を伝える上で、「余命」「普通」といった配慮が必要な表現が意図せざる誤解を生じさせたり、発信者の無意識のジェンダーバイアスなどが差別や偏見を喚起するリスクも存在する。本発表ではこれまでの研究の振り返りとともに、今後開催予定の難病のゲノム医療に関するPPIワークショップのデザインを検討する。

⇨指定発言:村上 文子(大学院学際情報学府文化・人間情報学コース 修士課程)

 

◆報告2

報告者:木矢 幸孝(公共政策研究分野 助教)

タイトル:高齢者等終身サポート事業者と医療機関との関わり

要旨:単身高齢者の増加等を背景として、全国で推定400社を超える高齢者等終身サポート事業(以下、事業者)の利用が浸透しつつある。2024年6月に公表された「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」(内閣官房他)では、利用者の意思を医療機関が把握し、その希望を踏まえた医療を可能にすため、事業者による意向表明文書の作成支援が想定されている。加えて、事業者が関わる現場では利用者本人が意思表示できない場合に、事前に確認した利用者の意向を事業者が医療機関に伝える場合がある。しかし、その際、事業者が医療機関にどのように受け止められたと認識しているかについては、十分に検討されていない。事業者の語りを通じて、利用者の意向が医療現場でどのように反映され実現されているのかを捉えることは重要である。本報告では、この問題意識のもと、2024年11月および2025年1月〜7月に実施した事業者へのヒアリング調査の結果を紹介する。

指定発言:島﨑 美空 (大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻博士後期課程)

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9月の公共政策セミナー

2025/09/10

2025年9月の公共政策セミナーは、以下の通り、行われました。

 

◆日時: 2025年9月10日(水)13:30~16:00ごろ

(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)

◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階

公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催

 

 

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〈報告概要(敬称略・順不同)〉

◆報告1

報告者:三村 恭子(公共政策研究分野 学術専門職員)

タイトル:女性を「診る」人工物の政治性:産婦人科内診台および産科向け超音波画像診断装置を事例として

要旨:テクノロジーは、その開発における政治経済的文脈に基づきかたちづくられるだけでなく、より幅広い社会文化的な背景にも影響される側面がある。そして、その使用において、特定の関係性を再生産したり強化するような政治性を発現することもある。
本発表では、主に女性の身体を「視る」ために使われる医療技術(とりわけ人工物としてその場に在るモノ)が、どのような政治性を発現しているかを検討する。そのため、産婦人科内診台と産科向けの超音波画像診断技術(機器)の、2つの事例を取り上げ、それらの使用により生じる関係性や構造について考察する。また、これらの技術の開発の流れを、歴史的な観点から分析し、上記の関係性や構造の背景要因を探るとともに、開発の方向性にどのような政治性が含まれているかを考察する。
本発表は、発表者が現在執筆している博士論文の内容であり、主に考察部分の一部に焦点を当てたものである。

指定発言:李 怡然(公共政策研究分野 准教授)

 

◆報告2

報告者:渡部 沙織(公共政策研究分野 特任研究員)

タイトル:過去の医療・福祉に関する資料のアーカイブズ化と利活用に関する市民の認識 〜センシティブな過去の記録はいかに社会に開かれるか〜

要旨:本報告の目的は、過去の医療・福祉に関連する記録や資料の保存とその利活用に対して、一般市民がどのような懸念や考えを抱いているのかについて、インターネット質問票調査を用いてその認識を分析する事にある。特に、保存の必要性、保存の主体となる機関や利活用を容認する際の利用目的について、一般市民の認識を把握する。

本研究が想定する、アーカイブズ化が必要な過去の医療・福祉に関連する記録とは、患者や家族の団体が作成した記録、医療機関や福祉施設等が作成した記録や、開示された行政文書でセンシティブな情報を含む資料など、取り扱いの基準や位置付けが曖昧な領域の資料を指す。このような資料群の散逸や廃棄を防ぎ、アーカイブズ化と学術研究目的の利活用の枠組みを検討するためには、当事者や市民の懸念を把握しながら慎重に倫理的な配慮を検討する事が求められる。今回は、海外でのマイノリティや先住民族に対する優生手術記録のアーカイブズの事例やそれらへの当事者参画型の運用のあり方、幅広い医療や施設の記録の長期的保存に関する事例を参照しながら、調査結果の示唆について考察する。

⇨指定発言:木矢 幸孝(公共政策研究分野 助教)

 

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7月の公共政策セミナー

2025/07/09

2025年7月の公共政策セミナーは、以下の通り、行われました。

 

◆日時: 2025年7月9日(水)13:30~16:00ごろ

(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)

◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階

公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催

 

 

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〈報告概要(敬称略・順不同)〉
報告1
報告者:永井 亜貴子(新領域創成科学研究科 特任助教)
タイトル:ワクチン開発のためのヒトチャレンジ試験に関するインターネット調査
要旨:
ヒトチャレンジ試験とは、研究参加者に意図的に病原体を感染させて発症や経過を観察する臨床試験である。海外では治療法のある感染症での実施が進んでおり、英国ではCOVID-19の治療薬がない段階で若年層を対象に実施された。日本では感染症での実施例がなく、政府は将来の迅速なワクチン開発に備えて導入の検討を開始した。導入には市民の理解が重要だが、国内で市民を対象としたヒトチャレンジ試験への関心や態度に関する調査は行われていない。本報告では、20253月に市民を対象に実施した、ワクチンやヒトチャレンジ試験に関するインターネット調査の結果について報告する。
指定発言:三村 恭子(公共政策研究分野 学術専門職員)

報告2
報告者:胡 錦程(学際情報学府大学院学際情報学府文化・人間情報学コース 修士課程)
タイトル:ワクチン臨床試験に対するワクチン研究参加者意識と制度的ニーズの分析〜ジェンダーの視点から〜
要旨:
本報告では、202411月に実施したアンケート調査の分析進捗を共有する。調査の目的は、日本におけるワクチン臨床試験(人為的感染を伴うチャレンジ試験を含む)について、参加者の認知度や関心・参加意欲、および試験実施に求められる制度的ニーズを明らかにすることである。ワクチン接種に伴うリスク認識や接種意欲には性差があり、女性の方が慎重であることが先行研究で指摘されているため、ワクチン臨床試験の参加に関しても、男女間で意識や制度的ニーズに違いが生じる可能性があると考える公平で包括的な試験制度設計にはこうした性差の考慮が重要であることから、本研究はジェンダーの視点を重視した分析を行った。既承認のCOVID-19 mRNAワクチン臨床試験参加者112名(女性約38%)を対象に質問紙調査を実施し、分析した。その結果、チャレンジ試験への積極的意見は男性(62.3%)が女性(32.6%)を大きく上回り、女性は慎重で判断保留の傾向が強かった。また女性は、経済的補償や健康リスク管理、育児・介護支援など、多様な制度的サポートをより強く求める傾向があった。本報告では、関連するジェンダーに関する文献調査の知見も紹介し、修士論文の研究の今後の方向性を明らかにしたい。
指定発言:渡部 沙織(公共政策研究分野 特任研究員)

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6月の公共政策セミナー

2025/06/11

2025年6月の公共政策セミナーは、以下の通り、行われました。

 

◆日時: 2025年6月11日(水)13:30~16:00ごろ

(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)

◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階

公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催

 

 

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〈報告概要(敬称略・順不同)〉
◆報告1
報告者:松山 涼子(新領域創成科学研究科 博士後期課程)

タイトル:エコチル調査に参加する母親を対象としたインタビュー調査の進捗報告
要旨:
本報告では、「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」に協力する母親20名を対象に実施したインタビュー調査の分析進捗について報告する。本調査は、調査継続率の向上に資する要因を探索するとともに、今後予定している子どもを対象としたグループインタビュー調査の実施に向けた意見を収集することを目的として、2024年12月から2025年1月にかけて半構造化面接の形式で実施された。母親たちは、これまでの調査協力に対する思いや経験を語り、その語りからは、「親の代諾による研究参加から、子ども本人の同意による研究参加へと移行する過程において、母親はどのような視点を持っているのか?」という問いが導き出された。
初期結果では、①12年間の積み重ね②調査の自分ごと化③見守りへの転換という3つのテーマが構築されている。本報告では、これらの結果について、分析の進捗について報告するとともに、これまでに実施した、エコチル調査に参加する子どもやエコチル調査の現場スタッフを対象としたインタビュー調査の概要についても報告をする。
⇨指定発言:胡 錦程(大学院学際情報学府文化・人間情報学コース 修士課程)

◆報告2
報告者:李 怡然(公共政策研究分野 准教授)
タイトル:ワクチン開発の臨床試験におけるELSI:臨床研究の研究参加者の語りを通して考える
要旨:
感染症のワクチン開発にあたっては、人を対象に安全性や有効性を検証するための臨床試験が不可欠であり、研究参加者に与えうるリスク・ベネフィット評価、必要な制度や配慮を検討することが求められる。臨床試験を含む医学研究への参加経験があり、ワクチン開発に好意的な態度をもつ健康な人々の意見を反映することが研究参加者の確保の上でも重要となるが、研究参加者の経験や態度は必ずしも明らかになっていない。本研究では、国内で実施された承認済COVID-19ワクチンの臨床研究の研究参加者のうち協力を得られた方を対象に、2025年12-1月にインタビュー調査を実施した。本報告では、調査の概要と結果の一部を報告し、調査協力者はどのような理由や期待から臨床研究に参加しようとするのか、ワクチン開発の臨床試験への参加意欲など、今後の研究開発を進める上での課題を考える手がかりとしたい。
⇨指定発言:永井 亜貴子(新領域創成科学研究科 特任助教 )

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5月の公共政策セミナー

2025/05/14

2025年5月の公共政策セミナーは、以下の通り、行われました。

 

◆日時: 2025年5月14日(水)13:30~16:00ごろ

(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)

◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階

公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催

 

 

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〈報告概要(敬称略・順不同)〉

◆報告1

報告者:方 璽正(学際情報学府 修士課程)

タイトル:現代中国における転向療法を合理化する言説について

要旨:現代中国における同性愛は脱病理化が進んでおり、一般市民の同性愛者への態度は受容的・積極的になりつつある。しかし、性的マイノリティを対象とした転向療法が国際的に批判される一方で、家族が同性愛者本人の意思を尊重することなく、転向療法を志向する施設に入所させるという状況がいまだに存在し続けている。

本研究は、上述のような脱病理化と転向療法の存在のバラドックスに着目し、中国における同性愛の特殊性を踏まえながら、転向療法施設への入所を合理化する論理の価値規範を捉えるためにインタビュー調査と言説分析に取り組む。分析を通じて、同性愛が脱病理化されつつある現代中国における、同性愛に対する不可視な言説空間の認識や価値観の可視化を試みたい。

⇨指定発言:松山 涼子(新領域創成科学研究科 博士後期課程)

 

◆報告2

報告者:西 千尋(公共政策研究分野 特任研究員)

タイトル:分子生物学におけるELSI・RRI教育および科学コミュニケーション

要旨:本報告では、分子生物学におけるELSIおよびRRI(責任ある研究・イノベーション:Responsible Research and Innovation)に関する科学教育や科学コミュニケーションの分析研究および研究実践例を提示する。RRIはELSIの考え方から発展した考え方であり、研究者・開発者だけでなく市民の意見を研究の上流から取り入れようとするアップストリーム・エンゲイジメントの考えを組み込んだ枠組みである(藤垣 2018)。

報告者は、公共政策研究分野の研究室に所属する前に、分子生物学に焦点を当てたELSIや RRIに関する科学教育の分析の研究を通じて「自分のこととして議論する」重要性を論じた。さらに、分子ロボティクス分野におけるELSI・RRIに関する科学コミュニケーションの研究実践を行い、自然科学分野の研究者を対象とした読み物の作成をした。本報告では、上記の研究実践を報告者の自己紹介も加えつつ紹介する。これらの研究を踏まえて、今後、公衆衛生学分野におけるELSI論点を議論していきたい。

⇨指定発言:李 怡然(公共政策研究分野 准教授)

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3月の公共政策セミナー

2025/03/12

2025年3月の公共政策セミナーは、以下の通り、行われました。

 

◆日時: 2025年3月12日(水)13:30~16:00ごろ

(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)

◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階

公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催

 

 

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〈報告概要(敬称略・順不同)〉

◆報告1

報告者:胡錦程学際情報学府 修士課程

タイトル:ワクチン開発の臨床試験とヒトチャレンジ試験に対する意識:日本のDS-5670試験参加者を対象としたアンケート結果

要旨:本発表では、ワクチン臨床試験における健康な被験者の倫理的課題や補償制度について考察します。また、日本の臨床試験参加者を対象としたアンケート調査の結果を紹介し、ワクチン臨床試験やヒトチャレンジ試験に対する意識について議論します。修士論文の方向性について、皆様からご助言をいただけますと幸いです。

指定発言:永井亜貴子(公共政策研究分野 特任研究員)

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2月の公共政策セミナー

2025/02/12

2025年2月の公共政策セミナーは、以下の通り、行われました。

 

◆日時: 2025年2月12日(水)13:30~16:00ごろ

(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)

◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階

公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催

 

 

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〈報告概要(敬称略・順不同)〉

◆報告1

報告者:三村恭子(公共政策研究分野 学術専門職員)

タイトル:人工物使用の正統化過程をみつめる:産婦人科内診台の開発・使用の歴史から

要旨:日本国内の産婦人科の医療機関には、一般的に「内診台」(産婦人科検診台・診察台)が設置されている。内診台は、受診者を仰向け、開脚の状態に保つ機能をもつもので、様々な診療行為がこの台上で実施されている。

2005年~2008年実施の内診台に関する調査研究(1)より、自動機能がついた椅子型の内診台は、日本に特徴的な医療機器であり、その開発意図には、診療の効率化や、受診女性の羞恥心への配慮が含まれていたことが示された。
本発表では、内診台の開発・使用の歴史をみつめ、どのようにこの人工物が産婦人科医療の中で正統化legitimizeされてきたかを辿りたい。
(1)http://www.meijigakuin.ac.jp/~atsuge/naishindai/index.html

指定発言:渡部沙織(公共政策研究分野 特任研究員)

 

◆報告2

報告者:永井亜貴子(大学院新領域創成科学研究科 特任研究員)

タイトル:双方向バイオバンクプロジェクト研究参加者を対象とした調査の検討

要旨:バイオバンク・ジャパン(BBJ)では、2024年より、BBJ登録者を対象として、2024年より「バイオバンク・ジャパン登録者を対象とした双方向バイオバンクプロジェクト」を開始し、2025年1月より研究参加者の募集を開始した。

同プロジェクトでは、研究対象者がBBJの研究参加から長期間経過していることや、多くが高齢であること、BBJで初めて電磁的方法を用いたインフォームド・コンセント(IC)を行うことなどの課題が想定され、ICのプロセス、ICで用いる資料や機材などついて、患者・市民の視点を取り入れた上で検討・改善し、実際のICで利用を開始した。
本報告では、バイオバンクの参加動機に関する先行研究などを概観し、同プロジェクトの研究参加者が持つBBJおよび同プロジェクトの参加動機や動機に関連する要因を明らかにすること、開発したIC資材の評価を行うことなどを目的として計画している調査について紹介する。

⇨指定発言:河合香織(学際情報学府 博士後期課程)

 

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1月の公共政策セミナー

2025/01/08

1月の公共政策セミナーは、以下の通り、行われました。

 

◆日時: 2025年1月8日(水)13:30~15:00ごろ

(1報告、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)

◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階

公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催

 

 

〈報告概要(敬称略)〉

◆報告1

報告者:武藤 香織公共政策研究分野 教授
タイトル:被爆者・被爆二世を対象としたゲノム解析をめぐるELSI

要旨:2025年は広島と長崎に原子爆弾が投下されて終戦してから80年となる。被爆者健康手帳所持者の平均年齢は85.6歳となり、その人数も計10.7万人と漸減を続けている(2024年3月末現在)。被爆二世(両親又は両親のどちらかが被爆者健康手帳を所持しており、原爆投下後に生まれた人)も高齢期に達しているが、国は、被爆二世に対しては放射線による健康被害を認めておらず、被爆者援護法の対象外としているため、平均年齢や人数は把握されていない。しかし、厚生労働省は、被爆二世の健康不安に応え、健康状況の実態を把握する目的で、2003年より都道府県と広島市、長崎市に委託して被爆二世健康診断事業を実施してきた。

 これまで放射線影響研究所を中心に実施されてきた調査からも、被爆による遺伝的影響は報告されていない。また、被爆二世によって提起されてきた国賠訴訟の判決でも、遺伝的影響による健康被害が証明されていないことを理由とした敗訴が相次いでいる。一方で、被爆二世・三世のなかには、自身や子の結婚や出産に際して遺伝的影響への懸念が払拭されなかったため、遺伝的影響がないことをはっきりさせてほしいという要望もある。
 こうした事情から、放射線影響研究所は、2010年代より本格的なゲノム解析研究の実施を検討してきた。そして、2024年、被爆者・被爆二世を対象とした全ゲノム解析の計画が発表された。しかし、被爆二世、そして裁判所からも、ゲノム解析によって明快な結論が出せるはずとの期待が高まっていることは気がかりである。
 筆者は、放射線影響研究所が主催する日米合同でのELSIの検討の場に2回参加した。その議論を踏まえつつ、被爆者・被爆二世を対象とした全ゲノム解析に伴うELSIの課題を検討したい。

⇨指定発言:村上 文子(大学院学際情報学府 修士課程)

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12月の公共政策セミナー

2024/12/11

2024年12月の公共政策セミナーは、以下の通り、行われました。

 

◆日時: 2024年12月11日(水)13:30~15:00ごろ

(1報告、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)

◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階

公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催

 

◆報告1

報告者:李 怡然公共政策研究分野 准教授
タイトル:配偶子バンクのグローバルな展開と家族形成を考える

要旨:ドナーによる配偶子(精子・卵子)提供は、日本では婚姻関係にある男女の不妊治療の一環として医療行為として行われてきた。それに対し、諸外国では民間または公的な大規模な配偶子バンクの運営により、国境を超えたグローバルな配偶子提供が実施され、ヘテロセクシュアルのカップルに限定しない家族形成に開かれるとともに、倫理的・法制度的側面での課題も指摘される。日本ではこれまで配偶子バンクは構築されてこなかったが、近年は海外の配偶子バンクの利用やSNS等を介した個人間の提供も広がりを見せつつある。本報告では、北欧・米国を中心に配偶子バンクの状況やその諸課題を整理するとともに、今般成立が見込まれる「特定生殖補助医療法案」が、日本の今後の生殖補助医療の利用と家族形成を与えうる影響を考えたい。

⇨指定発言:三村 恭子(公共政策研究分野 学術専門職員)

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11月の公共政策セミナー

2024/11/13

2024年10月の公共政策セミナーは、以下の通り、行われました。

 

◆日時: 2024年11月13日(水)13:30~16:00ごろ

(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)

◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階

公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催

 

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〈報告概要(敬称略・順不同)〉

◆報告1

報告者:河田 純一(公共政策研究分野 特任研究員)

タイトル:双方向バイオバンクプロジェクトにおけるPPI活動の報告

要旨:バイオバンク・ジャパン(BBJ)は、研究参加者とBBJの間で、相互に情報をやりとりするオンライン上のプラットフォームを構築し、運用する「バイオバンク・ジャパン登録者を対象とした双方向バイオバンクプロジェクト」を開始した。本計画では、ICプロセスにおいても医療機関でのタブレットを用いたICなど、電磁的な仕組みを取り入れている。しかし、対象者の年齢層が高いこと、BBJに登録してから本研究へのリクルートまでの期間が長いことが課題となった。このため、ICプロセスやそこで用いる資材の作成過程に、患者・市民の視点を取り入れ、よりよいICとすることを主な目的とした患者・市民参画(PPI)の取り組みを導入した。本報告では、BBJでの新たなIC取得&ICFに関するPPI活動の実施プロセスについて、その成果と課題を検討し報告する。

⇨指定発言:胡 錦程(学際情報学府 修士課程)

 

◆報告2

報告者:渡部 沙織(公共政策研究分野 特任研究員)

タイトル:患者・市民参画(PPI)によるELSIの検討〜①難病の全ゲノム解析へのPPI・②医療・福祉アーカイブズとPAB〜

要旨:本報告では、研究への患者・市民参画(PPI)の実践を通じて得られたELSIの示唆について、2つの事例について共有したい。

①厚生労働省が推進する「全ゲノム解析等実行計画」では、これまでにない規模で難病とがんの患者・家族の全ゲノム解析を実施し、データベースを構築し、創薬や診断技術等の研究開発に活用することを目指している。また、事業の推進に際して生じるELSI(倫理的法的社会的課題)への対応と患者・市民参画(PPI)の実装を事業計画に明文化し、2025年度の事業実施組織の設立に向けて様々な取り組みが行われてきた。報告者らは難病の全ゲノム解析とゲノム医療の推進に際して、ICF(説明同意文書)と倫理的課題の検討のプロセスで、2022年より難病の患者・家族協力を得てPPIの実践を行なってきた。これまでのPPI活動を通じて明らかになった難病の全ゲノム解析の倫理的配慮の課題を報告する。
②過去のヘルスケア施策に関する倫理的課題の検証において、医療・福祉に関する資料の保管と利活用をめぐる課題はその進展の大きな障壁となってきた。過去に医療機関や福祉施設等が作成した資料や記録の保管と利活用については、公文書管理の枠組みを除いては日本では明確なルールの体系が存在せず、法令や指針が定める保管期限を過ぎた資料や記録は破棄されたり散逸していく現状がある。患者・市民にとって家族や祖先の情報が含まれる可能性があるアーカイブズをどのように公共的に利活用していくべきかについて、患者・市民アドバイザリーボード(PAB)を通じて患者・家族・当事者の視点を取り入れながら倫理的課題を焦点化していく試みを試行的に行っており、本報告ではこれまでの取り組みの背景と経過について報告する。
⇨指定発言:武藤 香織(公共政策研究分野 教授)

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10月の公共政策セミナー

2024/10/09

2024年10月の公共政策セミナーは、以下の通り、行われました。

 

◆日時: 2024年10月9日(水)13:30~16:00ごろ

(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)

◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階

公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催

 

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〈報告概要(敬称略・順不同)〉

◆報告1

報告者:松山 涼子(新領域創成科学研究科 博士後期課程)
タイトル:(仮)子どもを対象とした患者・市民参画についての文献調査

要旨:患者・市民参画(Patient and Public Involvement: PPI)は、研究参加者の権利保護と適切な研究の推進において、研究倫理の観点から重要な役割を果たす。これまでは主に成人を対象に実施されてきたが、国連の「子どもの権利条約」に基づき、子どもを対象としたPPIの実践を推進する動きも進展している。また、PPIは主に臨床研究で行われることが多いが、本研究では観察研究および出生コホート研究に焦点を当てて調査を実施した。本報告では、博士論文に向けた文献調査の暫定結果を紹介する。

指定発言:李 怡然(公共政策研究分野 准教授)

 

◆報告2

報告者:武藤 香織(公共政策研究分野 教授)

タイトル:最近の取り組みから頭を冷やして考える

要旨:当研究室で進めている取り組みや個人として関わっている研究活動について、少し頭を整理して共有する時間としたい。

(後日、更新予定)

⇨指定発言:河田 純一(公共政策研究分野 特任研究員)

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9月の公共政策セミナー

2024/09/11

2024年9月の公共政策セミナーが、以下の通り、行われました。

 

◆日時: 2024年9月11日(水)13:30~16:00ごろ

(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)

◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階

公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催

 

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〈報告概要(敬称略・順不同)〉

◆報告1

報告者:楠瀬 まゆみ(新領域創成科学研究科 博士後期課程)
タイトル:医学研究での利益共有に関する倫理的・法的・社会的課題―データ集約型研究を手掛かりに

要旨:人を対象とする医学系研究においては、研究参加者や研究参加コミュニティへの利益の共有や提供は、研究への不当な誘引や被験者保護の観点から控えられる傾向にある。他方、国際的に実施される医学系研究で、特に開発途上国において実施される研究では、利益共有の問題は中心的な議論の一つであった。

 博士課程では、先行して議論の蓄積がある「先進国による開発途上国における研究」や「国際的なヒトゲノム研究」等での「利益共有(benefit sharing)」の概念を参考にし、非侵襲・非介入の低リスクのデータ集約型研究を手掛かりに、「先進国で実施される先進国の人々を対象とする医学系研究」における研究参加者や研究参加コミュニティとの利益共有の実践に向け、以下の問題を明らかにすることに取り組んだ。

 1) 先進国で実施される医学系研究における利益共有とは何か。共有されるべき利益とは何か。
 2) 市民は、研究機関や企業が、研究開発のためにデータを提供した研究参加者と、何らかの利益の共有を行うべきであると考えているのか。また、どのような利益の共有を期待しているのか。
 3)日本の人を対象とする医学系研究において、研究参加者や研究参加コミュニティとの研究利益の共有を始めるには、どのようにすれば良いか。
 本発表では、博士論文の概要について報告を行いたい。

指定発言:松山 涼子(新領域創成科学研究科 博士後期課程)

 

◆報告2

報告者:島﨑 美空(新領域創成科学研究科 博士後期課程)

タイトル:出生前検査である胎児超音波検査に関する経験:経産婦へのFGIより

要旨:日本では、妊婦健診において定期的に提供される通常超音波検査とは別に、出生前検査として提供される胎児超音波検査がある。日本産科婦人科学会•日本産科婦人科学会医会が2023年に改訂した「産婦人科診療ガイドライン産科編」では、胎児超音波検査は特定の先天性遺伝性疾患の非確定検査であるとともに、形態異常の確定検査でもあると記載されている。これまで、同じく先天性遺伝性疾患の非確定検査であるNIPTを中心に、検査の倫理的課題が議論され、その課題に配慮した情報提供やIC、意思決定支援のあり方が示されてきた。これを参考にしながらも、胎児超音波検査については、確定検査の側面や、治療につながると言った性質があり、その特性を考慮した検査のあり方を検討する必要がある。そのためには、まず胎児超音波検査前から診断後の一連の流れの中で、どのような経験がされ、課題があるのかを妊婦、医療従事者の双方の視点から理解することが必要である。本発表では、昨年度末に行った経産婦へのFGIの結果と、発表者の博士論文の構想を共有する。

⇨指定発言:渡部 沙織(公共政策研究分野 特任研究員)

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7月の公共政策セミナー

2024/07/10

2024年7月の公共政策セミナーが、以下の通り、行われました。

 

◆日時: 2024年7月10日(水)13:30~

(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)

◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階

公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催

  

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〈報告概要(敬称略・順不同)〉

◆報告1

報告者:佐藤 桃子(公共政策研究分野 学際情報学府博士後期課程)
タイトル:日本における先住民族を対象とした科学研究の倫理的課題 :研究をめぐる言説に着目して

要旨:2019年12月、北海道アイヌ協会と日本人類学会、日本文化人類学会、日本考古学協会は「アイヌ民族に関する研究倫理指針(案)」を公表した。この指針案はまだ完成していないものの、日本で最初のエスニックマイノリティを対象とした研究の倫理ガイドラインになると考えられる。本発表では、この指針案の成立につながる議論の分析結果を報告する。その際、アイヌ民族の遺骨を対象とした研究を肯定する言説、否定する言説、当事者の中の意見の多様性に特に焦点を当てる。

指定発言:楠瀬 まゆみ(新領域創成科学研究科 博士後期課程)

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6月の公共政策セミナー

2024/06/12

2024年6月の公共政策セミナーが以下の通りに行われました。

◆日時: 2024年6月12日(水)13:30~16:00ごろ
(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)
◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階
公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催

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〈報告概要(敬称略・順不同)〉
◆報告1
報告者:木矢 幸孝(公共政策研究分野 特任研究員)
タイトル:認知症の超早期予測・予防の倫理的課題:FGIの結果からみえてきたこと
要旨:認知症研究に関する新たな展開として、症状があらわれるよりも前に超早期に疾患の発症を予測し、予防することが可能な医療技術・治療薬の開発が目指されている。認知症高齢者やその前段階にあたる軽度認知障害(MCI)の人びとだけでなく、無症状の市民をも対象に、発症前予測や予防が追求される。このような医療技術等が社会実装される際には実際に享受しうる市民がその予測法や予防的介入をどのように評価しているかを把握することが肝要である。しかし、この点はいまだ十分に明らかにされていない。そこで本報告では、症状があらわれるよりも前に認知症を超早期に予測・予防する医療技術を日本の市民はどのように捉えているかについて、2023年10月に実施したフォーカス・グループ・インタビュー(FGI)の結果を発表する。調査の背景や先行研究の状況を踏まえ、FGIからみえてきたことは何であったのか、社会実装に向けた倫理的課題を考えたい。
指定発言:佐藤 桃子(学際情報学府 博士後期課程)

◆報告2
報告者:北尾 仁宏(公共政策研究分野 特任研究員)
タイトル:新興感染症の蔓延時等におけるCHIM研究とその法的諸課題の概観
要旨:COVID-19パンデミックを受けて、先進国を中心に100日ミッションと呼ばれる国際プロジェクトが進行中である。次のパンデミックでは感染症の発生からワクチン等の実地投入までを100日以内で完遂しようというこの極めて野心的な計画を達成するために、有力な方策として、健常者に人為的な感染を惹起させることを伴うControlled Human Infection Model(CHIM)の利用が日本でも模索されている。しかし、一般に現在の日本ではCHIMを利用した研究に対する認知度自体が低調で、その社会的正当性を担保する論拠をめぐる議論も全く足りていない。
 本報告では、CHIM及びCHIM研究自体の意義を確認した後、英蘭豪その他の各国の経験も踏まえたCHIM研究の課題を法的観点から広覧する。各論点に対する報告者自身の暫定的な見解も一応提示するが、むしろ論点提示を通じた議論の叩き台を準備することが本報告の主たる目的である。
指定発言:武藤 香織(公共政策研究分野 教授)

 

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5月の公共政策セミナー

2024/05/12

2024年5月の公共政策セミナーは以下の通りに行われました。

 ◆日時: 2024年5月8日(水)13:30~16:00ごろ
(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)
◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階
公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催

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〈報告概要(敬称略・順不同)〉
◆報告1
報告者
:三村 恭子(公共政策研究分野 学術専門職員)
タイトル:
胎児をみる超音波検査のELSI検討~FGIデータからみえてきたこと
要旨:
妊娠中に実施される超音波検査には、妊婦健診で全ての妊婦に実施される通常の超音波検査と、出生前検査のひとつとして、ハイリスクと判断される妊婦や受検を希望する妊婦に実施される胎児超音波検査がある。いずれの検査においても、得られる画像から胎児の形態異常が発覚したり、染色体異常の可能性が指摘される場合があるが、検査実施における妊婦や家族への情報提供や配慮のありかたなどに関する統一見解はまだない。そこで、胎児をみる超音波検査を受けた経験をもつ女性たちへフォーカス・グループ・インタビュー(FGI)を実施し、その経験(検査情報の取得、同意の手続き、検査環境、検査をどう理解しているか・どのような思いを抱いているかなど)について聞いてみた。本報告では調査結果からみえてきた超音波検査受検経験の特徴と示唆されるELSIについて報告する。
指定発言:木矢 幸孝(公共政策研究分野 特任研究員)

 

◆報告2
報告者
:村上 文子(学際情報学府 修士課程)
タイトル:
認知症高齢者の意思決定支援における現状と課題
要旨:
社会福祉における動向のなかで、近年目立つ傾向の一つとして「Supported Decision Making」という言葉が頻繁に使われるようになったことが挙げられる。定訳ではないが主に「意思決定支援」とされているこの言葉の定義に疑問をもち、国内の先行研究および国が策定したガイドラインに示されている意思決定支援の定義を整理したところ、明確に示されているものはなかった。このことから、意思決定支援の遂行にあたっては、実際に支援を行う個人や団体の解釈によるところが大きく、実践現場間での意思決定支援の実態に差が生じてしまっているのではないかという問題意識にあたった。そこで認知症高齢者の意思決定支援に関する先行研究を調べたところ、実際のケア内容について、介護従事者を研究対象として行われたものはこれまでにないことがわかった。これらの課題を踏まえ、研究計画を考案した。
 以上の調査や計画は、発表者の修士課程入学試験における研究計画に基づくものである。修士課程においては身寄りのない高齢者の意思決定支援に着目したいと考えており、その足がかりとなる「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」(厚生労働省,2019年)を最後に紹介する。
指定発言:北尾 仁宏(公共政策研究分野 特任研究員)

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3月の公共政策セミナー

2024/03/13

3月の公共政策セミナーは以下の通りに行われました。

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◆日時: 2024年3月13日(水)13:30~16:00ごろ

(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)

◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階

公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催 

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〈報告概要(敬称略・順不同)〉

報告1

報告者:楠瀬まゆみ(新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 後期博士課程)

タイトル:人を対象とする医学系研究における利益共有(Benefit Sharing
要旨:人を対象とする医学系研究においては、研究参加者や研究参加コミュニティへの利益の共有や提供は、研究への不当な誘引や被験者保護の観点から控えられる傾向にある。他方、国際的に実施される医学系研究で、特に開発途上国において実施される研究では、利益共有の問題は中心的な議論の一つであった。本発表では、利益共有に関して先行して行われてきた国際研究の議論を整理し、日本を含む先進国内における研究参加者や研究参加コミュニティへの利益の共有の議論を行うための課題についてまとめたい。
指定発言:北尾 仁宏(公共政策研究分野 特任研究員)

報告2

特別報告:井上 悠輔(公共政策研究分野 准教授)

タイトル:医科研・公共政策での日々と次のことなど
要旨:医科研・公共政策では、助教の頃から14年間、大変お世話になりました。1日1日がとても尊いものだったと思います。懐かしい写真を見ながら、学部時代のことから次の異動先のことまで話す時間にします。 

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2月の公共政策セミナー

2024/02/14

2月の公共政策セミナーは以下のように行われました。

◆日時: 2024年2月14日(水)13:30~16:00ごろ

(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)

◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階

公共政策研究分野 セミナ室/Zoom併用開催 

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〈報告概要(敬称略・順不同)〉

◆報告1

報告者:李 怡然(公共政策研究分野 助教)
タイトル:欧州における健康医療データ利活用の動向と権利保護の議論
要旨:近年、健康医療データを本人の診療・ケアのために一次利用するとともに、医学研究や創薬のために二次利用することが国際的に推進されるようになった。たとえばEU(欧州連合)では、加盟国間でデータを統合することで利活用を促進し、同時に患者・市民のデータ管理権を向上させるためのインフラ構築と法整備が進められている。日本でも、二次利用を含むデータ利活用が目指されているものの環境整備は十分に進んでいない中で、先行する欧州での取組みや目下直面する課題から、手掛かりとなる点も多いと考えられる。
本報告では、2023年下半期にかけてスイス連邦工科大学チューリッヒ校( ETH Zürich  )にて訪問研究員として滞在した経験を報告し、スイスおよびEUにおけるバイオバンクやゲノム研究、国境を超えたデータの共有をめぐる動向、患者・市民の権利保護とデータ倫理に関する論点を紹介したい。
指定発言:渡部 沙織(公共政策研究分野 特任研究員)

 

◆報告2

報告者:河田 純一(公共政策分野 特任研究員)

タイトル:慢性骨髄性白血病の治療における共同意思決定(SDM)

要旨:慢性骨髄性白血病(CML)は、これまで分子標的薬の生涯にわたる服薬が基本的な治療方針であった。しかし、2023年7月に出された『造血器腫瘍診療ガイドラインガイドライン 2023年版 第3版』において、無治療緩解維持(TFR)が臨床における治療目標のひとつに加わった。CML患者にとって、これは、治療方針について情報提供を受け、治療目標の(再)設定が必要になることを意味する。本報告では、2023年6-7月にCML患者家族を対象に大塚製薬と患者会が共同で行った意識調査の結果をもとに、CML患者が診療においてからどのような情報提供を受け、また、自らどのような情報を得ているのか、そしてその上で自らの治療についてどの程度理解し、治療を受けているのかを明らかにする。その上で、ICに基づく共有意思決定(SDM)の重要性を指摘したい。

⇨指定発言:島﨑 美空(大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻 博士後期課程)

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1月の公共政策セミナー

2024/01/10

1月の公共政策セミナーは以下のように行われました。

◆日時: 2024年1月10日(水)13:30~16:00ごろ
(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)
◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階
公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催

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〈報告概要(敬称略・順不同)〉
◆報告1
報告者:佐藤 桃子(大学院学際情報学府文化・人間情報学コース博士後期課程)
タイトル:カナダ滞在報告:ゲノム研究における多様性

要旨:2023年秋にカナダのMcGill大学Centre of Genomics and Policyに滞在した報告を行う。Centre of Genomics and Policyは法・医学・公共政策の観点から分野横断的に、ヒトの健康の促進や予防に関する社会倫理的・法的規範を分析している。ここでの授業の聴講および、実施したインタビュー調査と共同研究について紹介する。共同研究では、ゲノム研究における参加者の多様性に着目した。GA4GH (Global Alliance for Genomics and Health) などさまざまな機関がゲノム研究の多様性について提言を出しているが、日本のゲノム研究者にとっては直接当てはまらない・考慮しづらいケースもある。共同研究では、日本において考慮しうるゲノム研究参加者の多様性について検討したものである。
⇨指定発言:李 怡然(公共政策研究分野 助教)

◆報告2
報告者:亀山 純子(公共政策分野 特任研究員)
タイトル:ヘルスケアにおけるAI研究の倫理的、法的、社会的課題(ELSI)と報告ガイドライン

要旨:人工知能(AI)対応の医療機器の承認台数および開発台数は、増加を見せている。この傾向は、今後も続くことが予想される。一方で、医療は、人々の生命や健康に深く関わる活動である上、人々の生活の基盤でもある。AIの設計や活用を誤れば、個人や社会への倫理・人権に関する様々な問題を引き起こす可能性を有する。立法府がAIの規制を急ぐ現況の中で、医療AIの開発に関わる研究者の取り組み方針についても提案が示されてきた。しかしながら、このアプローチについてはコンセンサスがまだないのが現状である。
本報告では、医療AI研究者による成果公表についての具体的な指針を示す「報告ガイドライン」に注目する。このガイドラインは、研究開発時の工程やデータ管理についての透明性や評価可能性を高めることを通じて、AIの展開や実装の基盤となるものである。一方、近年では、こうしたAIの設計や使用方法がELSIと深く関わっている点も指摘されている。ELSIに関する研究者の役割が問われる中、報告ガイドラインの位置づけにも変化が求められている。今回、医療AI研究にかかる主要な報告ガイドラインについて、ELSIに関する記載を整理し検討したので報告したい。
⇨指定発言:河合 香織(大学院学際情報学府文化・人間情報学コース博士後期課程)

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12月の公共政策セミナー

2023/12/13

12月の公共政策セミナーは以下のように行われました。

◆日時: 2023年12月13日(水)13:30~16:00ごろ
(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)
◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階
公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催

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〈報告概要(敬称略・順不同)〉
◆報告1
報告者:河合香織(大学院学際情報学府博士課程)
タイトル:遺伝性疾患における結婚出産に関する助言のあり方の検討-難病情報センターを手掛かりに

要旨:遺伝学的特徴による結婚や出産をめぐる悩みは、患者・家族にとって切実な問題であることが、当事者の声から明らかになっている。しかし、十分に横断的に議論が尽くされているとは言い難い。1980年代から1990年代にかけては、遺伝性疾患の難病患者に向けた助言が掲載される『患者と家族のためのしおり』において、結婚や出産について可否判断にまで踏み込んだ主観的な記述が見られた。2000年代以降、遺伝カウンセリングが制度化された後に、専門家から当事者に向けて提供されている公開情報としては、「難病情報センター」が存在する。この「難病情報センター」の情報提供のなかから、遺伝に関わる疾患を抽出し、結婚や出産についてどのような助言や情報提供がなされているか分析した。それにより、医療従事者が遺伝性疾患の当事者の結婚や出産について、どのような情報提供をしているのかの現状を明らかにし、 そのありようを検討する。
⇨指定発言:亀山 純子(公共政策研究分野 特任研究員)

◆報告2
報告者:永井 亜貴子(新領域創成科学研究科 特任研究員)

タイトル:双方向バイオバンク構築に向けたインターネット調査の報告
要旨:バイオバンク・ジャパン(BBJ)の事業の効果的かつ戦略的な推進方策についての検討を行うために設置された「バイオバンク・ジャパンあり方検討委員会」がとりまとめた報告書において、BBJ第5期での双方向性デジタルバイオバンク構想が提案された。本報告では、双方向バイオバンクの構築に向けて、患者や市民を対象として実施した、バイオバンクへの関心・態度や、医学研究におけるICT活用に対する態度、ヘルスケアアプリの利用状況・利用ニーズ等に関するインターネット調査の結果について報告する
⇨指定発言:飯田 寛(公共政策研究分野 特任研究員)

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