D2の佐藤です。
このたび、日本遺伝カウンセリング学会に以下の論文が掲載されました。
佐藤桃子、神里彩子、武藤香織「出生前遺伝学的検査における用語「マススクリーニング」使用に関する言説分析」『日本遺伝カウンセリング学会誌』42:307-317, 2021
日本の出生前遺伝学的検査のガバナンスにおいて、「マススクリーニング」は一貫してやってはいけないことであり、回避すべきあり方だとされてきました。
しかし、「マススクリーニング」が具体的にどのような実施のことを指しているのかは、必ずしもはっきり定義されているわけではありません。
本研究では、1990年代に導入された「母体血清マーカー検査」と、2010年代に導入された「NIPT(非侵襲的出生前遺伝学的検査)」それぞれの実施方針を決めた会議の議事録と、方針に対する団体の意見書から、「マススクリーニング」がどのような実態を指して使われているか調査しました。
その結果、大きく分けて「すべての妊婦さんに強制される状態」という解釈と、「希望する妊婦さんが全員受けることのできる状態」という解釈の2つがあり、単に「マススクリーニング」ではどちらを指しているか判別できないことが分かりました。
この状況では議論が曖昧になってしまうため、今後は「マススクリーニング」という用語は使わず、「検査が強制かどうか」「対象者は誰か」の2点を明らかにして具体的に言い換えていくことを提案しました。
修士論文の内容を元にした論文で、先日の生命倫理学会でも追加の分析を加えて発表することができました。
今年、NIPTの方針について見直しが決まり、情報提供のあり方が議論されていく中で、その一助になれば幸いです。
助教の李です。
遺伝性乳がん卵巣がん症候群(Hereditary Breast and Ovarian Cancer: HBOC)について、日本の研究者・医療者から、最新の知見や臨床実践を発信する書籍が刊行されました。
本書にて、倫理的・法的・社会的課題(ELSI)を論じた章を執筆いたしました。
Izen Ri, Kaori Muto. (2021)
Ethical Issues: Overview in Genomic Analysis and Clinical Context.
In: Seigo Nakamura, Daisuke Aoki, Yoshio Miki. (eds.)
Hereditary Breast and Ovarian Cancer: Molecular Mechanism and Clinical Practice. Springer, Singapore. (ISBN:978-981-16-4520-4)
https://doi.org/10.1007/978-981-16-4521-1_17
ここ十数年の間に、がんゲノム診療や研究は大きく転換を迎えました。技術革新に伴い登場した新たな論点に加えて、時代を超えても通底する倫理的な原則や、患者さんや家族を支える意思決定支援のあり方について、国内外の研究蓄積を紹介しています。
前半では、遺伝学的検査、偶発的・二次的所見の取り扱い、ゲノムデータの共有に関する近年の議論、後半では、予防的切除の倫理、遺伝情報の守秘義務と結果返却、家族内におけるリスク告知といった、臨床における諸課題に関して、共同意思決定(SDM)のアプローチを紹介しつつ、まとめました。
大学院生時代から調査や検討を続けてきたテーマであり、個人的にも貴重な機会となりました。日本と海外の研究を結ぶ一助につながれば幸いです。
本日第6回公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。
◆日時:11月10日13時半~16時
発表者: | 河合香織(大学院学際情報学府文化・人間情報学コース修士課程) |
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タイトル: | 遺伝性疾患における結婚出産の葛藤とは何かーハンチントン病を手がかりに |
要旨:
遺伝性疾患の患者、家族にとって、遺伝的なリスクの家族内での共有のあり方や、本人の選択として委ねられている結婚や出産については大きな悩みであった。本研究ではハンチントン病(HD)を取り上げ、常染色体優生遺伝疾患に関して診療や看護・遺伝カウンセリングなどを行った経験のある医療従事者、さらに告知や結婚・出産の悩みを抱える患者、家族に半構造化インタビューを実施。遺伝的なリスクや結婚・出産についての情報提供や助言の現状、また患者・家族が抱える葛藤を明らかにし、今後のあり方を検討する。
院生ゼミでは本年度より視野を広げる、ネットワークを拡げることを目標に、これまでの院生からの研究の進捗等の発表に加えて、ゲストをお呼びしたり研修を受講することなどに取り組んでいます。第一弾は、当武藤研究室の渡部特任研究員をゲストスピーカーに呼んで質的研究の分析方法について学びました。また、追加でMAXQDAソフトの使い方について講義いただきました。
今回は第二弾として、外部業者による当院生ゼミ用に準備していただいたプレゼンテーション研修を受講しました。今回の研修はアカデミア用の特別なものではなく、一般に向けたプレゼンテーションに関する研修でしたが、得られたことが多かったように思います。プレゼンテーションでは自分の研究を伝えたいので、つい自分目線になってしまいがちですが、相手に理解してもらうことが一義であるので、相手の目線になって資料を作成すること。そのために文字の大きさや色の使い方などに工夫が必要であること。スピーチも興味を持ってもらうために冒頭で自己紹介を活用する方法や、オンラインで一方的になる場合でも質問を投げかけて間を取る方法などのテクニックを教えていただきました。研修の中でも実際にお題に基づいたプレゼンテーションをおこない、各自が適切なアドバイスを受けることができたと思います。
今後のプレゼンテーションに今回の研修を活かして、相手に伝わる分かり易く興味をひくプレゼンテーションをおこなうことを心掛けていきたいと思います。
(D3・飯田)
本日第5回公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。
◆日時:10月13日13時半~16時
発表者1: | 李 怡然(東京大学医科学研究所 公共政策研究分野 助教) |
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タイトル: | 認知症関連疾患の超早期予測・予防の倫理的課題を考える |
要旨:
認知症・アルツハイマー病をめぐる新たな展開として、症状があらわれる前の超早期に疾患の発症を予見し、予防的に介入することを目指す研究開発が推進されている。脳に限らず多臓器間の全身ネットワーク変容を包括的に解明し、次世代イメージング・センシング技術を利用する、AI・数理モデルを用いたシミュレーションを開発し臨床応用するなど、新規技術を複合的に活用することが計画されている。しかし、疾患の発症前予測・予防的介入は、従来の認知症対策や理念とは異なる方向性をもっており、人を対象に研究を行う上で配慮すべき事項、革新的技術を社会実装する上での諸課題も考えられる。そこで本研究では、関連する既存の文献を整理し、認知症の早期予測・予防の実現を目指す研究開発が人々や社会に与えるインパクトを考慮する上での基礎的な論点を抽出することを試みる。報告では、背景と先行研究を紹介し、この問題を考える端緒をつかみたい。
発表者2: | 井上悠輔(東京大学医科学研究所 公共政策研究分野 准教授) |
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タイトル: | パンデミック・ワクチンの展開を規定するもの:OECD諸国間の地域相関研究 |
要旨:
日本と同様、多くの先進国では、新型コロナウイルス感染症に関する予防接種が、国の主導のもとに展開されている。一時期の極端なワクチン不足の状況からは脱しつつあるものの、その進捗には国によって大きな開きがみられる。予防接種は臓器提供などと同様、個人の意思表明に限界の多い利他活動(Pywell, 2000)であるとされる。WHOは“voluntary”な予防接種の展開を推奨しているものの、ワクチンに関する「自由意思」は、自然発生的・内発的なものというより、各国・地域が置かれた状況によって規定される面も大きいことが考えられる。国の主導のもとに展開されるパンデミック・ワクチンの場合にはその傾向がより顕著になりうる。こうした各国の進捗の相違やその背景を検討する際、地域相関研究(Ecological Study)の手法は有効であると考える。OECD38か国における進捗(2021年5月~10月)に関して、説明変数の候補となり得る項目との相関関係分析/重回帰分析を行い、安定的に関連している項目の特定を試みた。
本日第4回公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。
◆日時:9月8日13時半~16時
発表者1: | 高嶋 佳代(大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 博士後期課程) |
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タイトル: | 患者対象のFirst in human(FIH)試験における倫理的課題の探索-リスクベネフィットの比較衡量に関する検討- |
要旨:
あたらしい治療法の臨床応用には、人を対象とした臨床試験が必要となる。この臨床試験においては、研究対象者は研究の実施によるリスクを引き受けつつ、その研究自体は研究対象者の利益を目的としたものではないとされている。とりわけ患者を対象とした、人で最初に実施する安全性検証を主目的とした臨床試験(FIH試験)には不確実性や未知のリスクへの懸念が大きく、そのリスクベネフィットの衡量はより複雑性を増すと考えられる。しかしながらこのようなFIH試験のリスクべネフィットの検討に関して、研究に関与するさまざまな立場からの検討は、未だ十分になされてはいない。そこで本研究では、FIH試験の実施に際して、多面的で総合的なリスクベネフィット衡量の必要性を明らかにし、今後のFIH試験の計画立案や倫理審査の一助とすることを目的として、FIH試験に関与した様々な立場の当事者にインタビュー調査を行う。本報告では、主に理論調査の結果を示すとともに、インタビュー調査の進捗について報告する。
発表者2: | 木矢幸孝(東京大学医科学研究所 公共政策研究分野 特任研究員) |
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タイトル: | 遺伝学的リスクの告知/非告知という行為の体系的な説明に向けた試論 |
要旨:
遺伝性の病いをもつ人々は自己の病いの問題だけでなく、遺伝学的リスクの告知に問題を抱えうる。彼/彼女らは、子や血縁者に対して、いつ・どのように告知を行うべきかを思案し、場合によってはそれぞれの事情において告知を行わないこともある。遺伝学的リスクに関する告知研究は、主として告知を行う理由/行わない理由(非告知の理由)の分析、あるいは告知プロセス等を検討してきた。確かに告知/非告知の理由やそのプロセスの解明は重要であるが、先行研究では遺伝学的リスクの告知と非告知の理由の共通項にはあまり関心が払われていない。それにより、告知/非告知という行為を体系的に理解する手がかりを後景化させているのではないかと思われる。そこで本報告では、遺伝性の病いである球脊髄性筋萎縮症患者の語りを通して、告知/非告知、双方の理由の共通項に着目したうえで、告知/非告知という行為の体系的な説明に向けた試論の提示を試みる。
「院生室より」、大変久しぶりの更新となってしまいました。
7月20日(月)、21日(火)に、田園調布雙葉中学高等学校から職場体験の受け入れを行いました。
10名の高校1年生の方に、がん遺伝子パネル検査(20日)とiPS細胞を用いた研究(21日)に関するパンフレットを、小児にも分かりやすく改訂する作業をお願いいたしました。
リモートでの開催となりましたが、積極的に取り組んでいただき、貴重な改善案がたくさん挙がったのは大きな収穫です。
いただいた案をもとに、パンフレット改訂に取り組んで参ります!
ご参加いただいたみなさま、本当にありがとうございました。
(D2-佐藤桃子)
本日第3回公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。
◆日時:7月14日13時半~16時
発表者1: | 楠瀬 まゆみ(大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 博士後期課程) |
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タイトル: | 医学研究へのヘルスケアデータの提供と利活用に関する一般市民の意識調査 |
要旨:
近年パーソナルデータの利活用が活発となり、医学研究においてもビッグ・データや機械学習などを用いたデータ駆動型研究も活発に行われている。そのようななか、Personal Data や Personal Health Record を本人の判断のもとで利活用する試みが行われている。加えて、企業の中には情報銀行や、その他独自の活動を通して、データ主体に情報提供料や特典等 の対価を受領することができる情報銀行サービスの提供を予定している企業も存在する。他方、医学研究の分野においては、研究参加の利他性の重視や不当な誘因の議論から、身体的侵襲を中心に組み立てられた従来の研究倫理の枠組みでは、研究対象者との利益共有の議論はあまり進んでこなかった。
このような背景において、2021年3月に一般市民を対象にヘルスケアデータ等の医学研究への提供と利活用に関する意識調査を行った。本発表においては、意識調査の結果の一部について発表を行う。
発表者2: | 北林 アキ(大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 博士後期課程) |
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タイトル: | 患者・市民の視点を踏まえた医薬品情報の提供を実現するための課題の検討 |
要旨:
医薬品には副作用等のリスクがあり、製造販売後も引き続き情報収集することが、医薬品の安全かつ適正な使用のために重要である。収集する情報源として、これまで主であった製薬企業や医療従事者からの情報に加え、患者から寄せられる情報の利点が注目され始め、医薬品の安全な使用のために当該情報を規制当局の意思決定に活用する取組みが世界的にも進んでいる。しかし、我が国におけるこうした取組みは、諸外国に比べて大きく後れているのが現状である。そこで、我が国の現状の原因を探り、状況の改善策の提案に繋げるため、本研究では、①患者・市民からの情報収集、及び②患者・市民への情報発信の2つの要素について、文献研究及び調査研究(アンケート調査)により現状を調査していく予定である。本報告においては、調査研究に先立ち実施した関係者2名へのヒアリング結果を提示すると共に、それを踏まえた今後の調査計画(案)を共有したい。
本日第2回公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。
◆日時:6月9日13時半~16時
発表者1: | 飯田 寛(大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 博士後期課程) |
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タイトル: | 労働分野でのゲノム情報の取扱いをめぐる諸課題に関する研究-対象とするゲノム情報とは何か- |
要旨:
諸外国では、遺伝的特徴に基づく差別を防止するという観点からゲノム情報を保険や労働で利用することは、米国での遺伝情報差別禁止法(GINA)(2008)のほか、近年ではカナダでの遺伝情報差別禁止法(2017)、中国での人類遺伝資源管理条例(2019)などのように原則として禁止している国がある。一方、日本では法規制は存在しない。今後、ゲノム医療が普及することにより、遺伝学的検査の結果などのゲノム情報が労働者自身や労働者の主治医等から産業医あるいは健康保険組合に提供される機会が増加する可能性があるが、事業者と産業医、健康組合がどのような問題意識を持っているか、ゲノム情報の利用実態などは明らかでない。今回の発表では、アドバイザーより指摘のあった当研究にあたってのゲノム情報は何を対象とするのかの問いに対し、ゲノム情報例外主義とその批判の先行文献から対象とするゲノム情報を紐解いてみたい。
発表者2: | 佐藤桃子(大学院学際情報学府文化・人間情報学コース 博士後期課程) |
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タイトル: | 科学研究の成果発表における「人種」という用語の使用 |
要旨:
第二次世界大戦以降、優生思想への反省から、raceという概念は科学的基盤を持つヒトの区分ではなく、文化的・社会的構築物であるという考え方が広まった。一方、疫学や遺伝学は、集団ごとの特徴に着目することによって、遺伝的要因・環境的要因と疾患の関連性を明らかにしてきた。その集団を指す際も、1950年代頃から、populationやethnicityといった用語が使用されるようになっている。しかし、日本においてはraceという用語および、ヒト集団を指すpopulationが、いずれも「人種」という用語にまとめて翻訳される事例が現在においてもしばしば見受けられる。これは新聞記事などだけでなく、大学や研究機関のプレスリリースにおいても同様である。
本発表では、日本語の「人種」も科学的文脈では可能な限り使用せず、言い換えていくべきではないかという問題意識に基づき、国外および国内の経緯と現状に関する先行研究を紹介する。その上で、日本の遺伝関連学会における「人種」およびその代替と考えられる用語の使用についてサーベイを行う研究計画について発表を行いたい。
「医療AI」のELSI(倫理、法、社会課題)について、厚生労働省の研究班が2019年から活動しています。AI(人工知能)と「医療におけるAI」との距離感、研究開発から臨床応用まで、また文献検討から意識調査、市民行事まで多様な取り組みを展開してきました。ここではこれまでの報告書を掲載します(全文を以下の厚生労働省のウェブサイトから見ることができます)。
医療におけるAI関連技術の利活用に伴う倫理的・法的・社会的課題(2019、2020)
厚生労働科学研究費補助金政策科学総合研究事業(倫理的法的社会的課題研究事業)
報告1(2019年5月)https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/27001
報告2(2020年8月)https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/27612
医療AIの研究開発・実践に伴う倫理的・法的・社会的課題に関する研究(2021)
厚生労働科学研究費補助金政策科学総合研究事業(倫理的法的社会的課題研究事業)
中間報告(2021年5月)未掲載
その他、ご関心がある方は以下の文献もご参照ください。
- 井上悠輔, 菅原典夫
医療への人工知能(AI)の導入と患者・医師関係
-AIの「最適解」をどう考えるか
病院 79(9) 698 - 703 2020年9月 - 武藤香織, 井上悠輔
医療AIと医療倫理-患者・市民とともに考える企画の試みから
医学のあゆみ 274(9) 890 - 894 2020年8月 - 井上悠輔
医療AIの展開と倫理的・法的・社会的課題(ELSI)
老年精神医学雑誌 31(1) 7 - 15 2020年1月 - 参照:日本医師会第Ⅸ次学術推進会議報告書
「人工知能(AI)と医療」
医療AIの展開と倫理的・法的・社会的課題(ELSI)、2018年6月
https://www.med.or.jp/nichiionline/article/006805.html
6月5日(土)13:00-15:30 活動報告会/教室説明会が行われました。
当研究室のスタッフと、大学院生より、最近の研究や活動について報告を行いました。
多くの方々にご参加をいただき、ありがとうございました。
お陰様で盛況な会となりました。
当研究室が普段取り組んでいることや雰囲気がお伝え出来ていると嬉しいです。
今後も情報発信に取り組んで参りたいと考えていますので、どうぞ宜しくお願いいたします!
【5/19更新】
日時と当日の内容を更新し、参加登録の受付を開始しました。
恒例の公共政策研究分野主催の活動報告会/教室説明会を今年も実施します(ウェブ開催)。
公共政策研究分野の活動は多岐にわたっています。この間、どのようなテーマに取り組んできたか、メンバーより紹介させていただきます。また、この会は、入試・進学先として、この研究室にご関心がある方への研究室説明会を兼ねています。
※大学院への進学をご検討中の方は、こちらの記事もご覧ください。
開催日時: | 2021年6月5日(土)13時~15時30分頃(予定) |
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参加方法: | オンライン会議システム・Zoomを利用します。 |
当日の内容:
1. 当研究室の紹介・大学院の案内
2. 研究室メンバーによる最近の活動報告(※順不同。報告テーマは仮のものであり、後日変更になる可能性があります)
- 「不適切な治療」で患者が死亡した場合の法的責任―過去の裁判例を参考に(船橋 亜希子)
- 遺伝学的リスクの社会的機能(木矢 幸孝)
- 全ゲノム解析に対する患者・市民の期待と懸念(李 怡然)
- 患者・市民の視点を踏まえた医薬品情報の提供を実現するための課題の検討(北林 アキ)
- 外国人患者の言語支援と機械翻訳:医師・通訳者間のズレ(井上 悠輔)
- COVID-19対策の当事者研究:役割葛藤と研究実践(武藤 香織)
3. 質疑応答
お申し込み方法:
参加をご希望の方には事前登録をお願いしています。下記の「申込みをする」ボタンをクリックして、申し込みフォームより、ご登録ください。
※お申込み締め切り:6月4日(金)正午(12:00)
お申込みいただきました方には、6月4日(金)中に、zoom参加のためのURLをご連絡差し上げます。
※障害等を理由に、配慮をご希望の方は、「介助・特別な配慮が必要な方はご記入ください」欄にてご相談ください。
※当研究室への進学にご関心のある方は、「ご意見・ご要望」欄に、検討されている研究科名をお書き添えください。(大学院入試を受験される方は、事前に教員との面談が必要になります。別途、研究室窓口までご連絡ください。)
2018年度から、厚生労働省の研究班として、医療AI(人工知能、拡張機能)をめぐる倫理、法、社会的な諸課題の検討を行っています。このたび、医療現場で「人」「機械」が果たす役割を考えるための一つの視点として、患者と医療者をつなぐ「言語」、特に外国人医療における通訳の方の役割と未来のあり方に注目して、調査を行いました。
『医療通訳の役割・多言語音声翻訳ツールに関する意識調査:医師・医療通訳者を対象とした質問票調査を通じて』
この報告書には大きな特徴がいくつかありますが、特に次の二つを挙げます。
まず、この調査では、200名を超える全国の医療通訳の方々のご厚意により、医療現場における通訳者の役割や、言語処理の機械化・自動化の影響に関する回答を得ました。その際、全9言語(日本語、英語、中国語、韓国語、スペイン語、ポルトガル語、タガログ語、ベトナム語、インドネシア語)の設問を用意しました。日本語の設問に対応できない方、非英語に対応する通訳の方にも多く協力いただきました。これらの方々に記載いただいた自由回答もすべて日本語に訳して巻末に収載しています。
また、この調査では300名を超える医師からも回答をいただきました。医療現場での音声機械翻訳の主たるユーザーは医療者です。そこで医師の視点からも、通訳者の役割やAIツールへの期待や懸念について調査を行い、通訳者の回答と比較をしてみました。

検討をすすめるなか、調査をする我々は、医療通訳に従事する方々の活動がいかに多様で複雑なものであるか、知らなかったことを痛感しました。かなり断片的ではありますが、通訳者の方々が何を重視し、何を望んでおられるかについても、調査の柱として検討することとしました。
この報告書のほか、近日中に医師の回答に注目した論文も発表される予定です。またここで紹介させていただきます。
本日第1回公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。
◆日時:5月12日13時半~16時
発表者1: | 渡部 沙織(東京大学医科学研究所 公共政策研究分野 特任研究員) |
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タイトル: | 「希少・難治性疾患のELSIに関する質的研究」 |
要旨:
本報告では、今年度実施を予定している2つの質的調査について計画の概要を報告する。
(1)再生医療臨床研究への患者の協力における課題本研究の目的は、日本の患者支援団体が幹細胞を用いた再生医療の臨床研究に協力・参加する際に直面する課題や困難について、探索的な事例研究と質的分析を行うことである。日本では近年、iPS細胞を中心に幹細胞を用いた臨床研究・実用化研究が進められている(Tobita et al.2016; Lysaght 2017)。これらの臨床研究には主に希少疾患の患者が参加しており、希少疾患患者団体が被験者の募集や研究内容の啓発に協力するケースが増えている。本研究では、iPS細胞などの多能性幹細胞を用いた再生医療の臨床研究に協力している国内の複数の希少疾患患者団体を対象に、研究協力に際してどのような課題を認識しているのかに関して半構造化インタビューを行う。
(2)希少・難治性疾患のELSIに関する探索的研究本研究の目的は、希少・難治性疾患の患者を中心としたELSIに関して患者をとりまく多様なステークホルダーへのインタビュー調査を通じて、日本でのELSI課題や概念的探索を行うことである。国際的なRare Disease研究のコンソーシアムであるIRDiRCで組織されたワーキンググループでは、希少疾患領域のELSI課題を5つのカテゴリに分類している(Hartman et al. 2020). この分類を基にしながら、日本での具体的な課題について患者や関係者がどのような認識や概念を有しているかを探索的に検証するため、患者・家族、研究者、医療者、医薬品開発企業等、各ステークホルダーに半構造化インタビュー調査を実施する。
報告2: | 河合 香織(大学院学際情報学府文化・人間情報学コース 修士課程) |
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タイトル: | 「遺伝性疾患における結婚出産に関する助言のあり方の検討」 |
要旨:
遺伝学的特徴による結婚や出産をめぐる悩みは、患者・家族にとって切実な問題であることが、当事者の声から明らかになっている。しかし、十分に横断的に議論が尽くされているとは言い難い。1980年代から1990年代にかけては、遺伝性疾患の難病患者に向けた助言が掲載される『患者と家族のためのしおり』において、結婚や出産について可否判断にまで踏み込んだ主観的な記述が見られた。2000年代以降、遺伝カウンセリングが制度化された後に、専門家から当事者に向けて提供されている公開情報としては、「難病情報センター」が存在する。この「難病情報センター」の情報提供のなかから、遺伝に関わる疾患を抽出し、結婚や出産について可否判断をしているか、どのような助言がなされているかを分析した。それにより、医療従事者が遺伝性疾患の当事者の結婚や出産について、どのような情報提供をしているのかの現状を明らかにし、そのありようを検討する。
本日第10回公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。
◆日時:3月10日13時半~16時
発表者1: | 北林 アキ(大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻博士後期課程) |
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タイトル: | 患者・市民の視点を踏まえた医薬品情報の提供を実現するための課題の検討 |
要旨:
医薬品は、品目毎に厚生労働省の承認を受けて初めて製造販売できるようになる。しかし、承認前に得られる副作用等の情報は一般的に限られることから、承認後も引き続き情報収集することが、副作用の早期発見や適正使用のために重要である。収集する情報源として、これまで主であった製薬企業や医療従事者からの情報に加え、患者から寄せられる情報の利点が注目され始め、医薬品の安全な使用のために当該情報を規制当局の意思決定に活用する取組みが世界的にも進んできている。しかし、我が国におけるこうした取組みは、諸外国に比べて大きく後れを取っているのが現状である。そこで、我が国の現状の原因を探り、状況の改善策の提案に繋げるため、本研究では、①患者・市民からの情報収集、及び②患者・市民への情報発信の2つの要素について、文献調査及び調査研究(アンケート調査)により現状を調査していく予定である。本報告においては、調査研究の前段階として位置付け可能な別調査について、調査結果の取りまとめ(案)を共有したい。
発表者2: | 飯田 寛(大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 博士後期課程) |
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タイトル: | 労働分野でのゲノム情報の取扱いをめぐる諸課題に関する研究 -健康経営- |
要旨:
諸外国では、遺伝的特徴に基づく差別を防止するという観点からゲノム情報を保険や労働で利用することは、米国での遺伝情報差別禁止法(GINA)(2008)のほか、近年ではカナダでの遺伝情報差別禁止法(2017)、中国での人類遺伝資源管理条例(2019)などのように原則として禁止している国がある。一方、日本では法規制は存在しない。労働分野で事業者が扱う情報に関連する規定としては、厚生労働省が定めた「雇用管理に関する個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項」(2015)や「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」(2018)といったガイドラインが存在する。その内容は、事業者に対して、労働者の健康確保措置の実施や安全配慮義務の範囲を超えた健康情報の収集を制限し、労働者が健康情報の取扱いに同意しないことをもって不利益を与えないこととされており、特段の罰則が設けられているわけではない。また、遺伝的特徴に関する情報については、「色覚検査等の遺伝性疾患に関する情報については、職業上の特別な必要性がある場合を除き、事業者は労働者等から取得するべきではない」とのみ述べられている(高柳2014)。今後、ゲノム医療が普及することにより、遺伝学的検査の結果などのゲノム情報が労働者自身や労働者の主治医等から産業医あるいは健康保険組合に提供される機会が増加する可能性があるが、事業者と産業医、健康組合がどのような問題意識を持っているか、ゲノム情報の利用実態などは明らかでない。本報告では、労働分野での健康情報の活用事例として「健康経営」という概念を紹介する。また、米国の状況も踏まえつつ、労働分野でのゲノム情報を含んだ健康情報の取扱いの意義と課題について報告する。
本日第9回公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。
◆日時:3月3日13時半~16時頃
発表者1: | 楠瀬 まゆみ(大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻博士後期課程) |
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タイトル: | 研究へのパーソナル・データの提供とベネフィット・シェアリングに関する意識調査(案)の紹介 |
要旨:
科学技術の研究や発展に貢献した人々は、その利益を共有するべき(ought to)であると述べ、科学的進歩の貢献者と利益を共有しない場合、その進歩は搾取である(Arnason & Schroeder, 2013)。研究分野における研究参加者との利益共有の議論は比較的新しく、あまり議論が深まっていない。他方、情報が資本的価値を持つようになり、個人に金銭や便益を提供する代わりにパーソナル・データやゲノムデータを収集し利活用し、収益を上げることが可能になった。例えば、レセプトデータや健診データなどが売買の対象となり、企業等が患者等の個人から得られたデータを活用して利潤を得ても、データ提供者とその利益が共有されることは稀である。そこで、研究へのゲノムデータやパーソナルデータの有償/無償提供やベネフィット・シェアリングに関する一般市民の態度を明らかにすることを目的にアンケート調査を計画している。本発表においては、ベネフィットと支払いに対する先行研究などを概観し、調査票(案)について紹介する。
発表者2: | 李 怡然(東京大学医科学研究所 公共政策研究分野 助教) |
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タイトル: | がんの網羅的ゲノム解析における倫理的課題の検討に向けて |
要旨:
近年、多様な疾患において、次世代シーケンサー(NGS)を活用し全エクソン領域または全ゲノム領域を網羅的に解析することで、ゲノム情報に基づく創薬やゲノム医療の実現が目指されている。がんは技術革新が著しい分野の一つであり、今般、日本においても、がんや難治性疾患の患者を対象に大規模な全ゲノム解析を実施する研究が開始され、データベースを構築することで、新たな診断や治療法の開発につなげるなど、臨床への応用が期待されている。同時に、こうした網羅的ゲノム解析を伴う研究・医療では、解析対象者の意向確認や結果返却の方針、二次的所見の取り扱いなど、検討すべき事項も多く存在する。そこで、本報告では、がんの網羅的ゲノム解析に関連した諸課題について、主に海外における先行研究や事例を紹介しつつ、基本的な論点の整理を試みたい。
勁草書房より、公衆衛生の過去の制度の展開に関する拙著の一部が、無料で公開されることになりました。
現在、新型コロナウイルス感染症への対応をめぐって、国会で法改正に向けた議論が始まっています。歴史は、過去の反省をするうえでも、今後の中長期的な論点を考えるうえでも、多くの検討材料を示してくれます。この公開された部分は、「伝染病予防法」や「エイズ予防法」、「らい予防法」など、今日の感染症法の議論の前身や背景になった、法律やその経過を紹介した部分になります。なかなか類書がない中、執筆には苦労した記憶があり、無論、まだ未完の作業であるとも思っています。
過去の法律には強権的で今日では許容されない内容も多くあります。ただ、公衆衛生の倫理として考えると、どの価値に重きを置いていたか、どの価値を優先して考えていたか、という整理が重要になります。同様の視点は、今日の感染症法についてもいえます。また、過去の議論に学ぶならば、感染症対策における「予防」対応にどのような手順を設けるか、個人への差別的な対応について実際にどのように取り組むのか、感染症法の成立時に抜けていた論点もあるように感じています。今ちょうど感染症法や検疫法、新型インフルエンザ等特措法のあり方が議論されていますが、いま議論されている課題、あるいは議論されなかった課題が、この後の数十年にわたる社会を規定するかもしれない、そのような思いで日々の出来事に向き合うつもりです。
https://keisobiblio.com/2021/01/28/atogakitachiyomi_nyumoniryorinri3_2/
その他、この章では予防接種、「優生」、精神衛生をめぐる諸制度の展開が検討されています。
本日第8回公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。
◆日時:1月13日13時半~16時頃
発表者1: | 高嶋 佳代(大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻博士後期課程) |
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タイトル: | 患者対象のFIH試験における倫理的課題の検討 |
要旨:
治療法の開発プロセスの中で、動物実験などを経て初めてヒトを対象とする、いわゆるFirst-in-human試験(FIH試験)は、その治療法の安全性を確認することが主目的として行われる。一般的な薬剤の臨床試験ではFIH試験が健康な成人を対象とするのに対して、その治療法の特性によりFIH試験の対象が患者である場合、リスクベネフィットのバランスの検討はより複雑となる。本研究では、主に幹細胞研究における患者を対象としたFIH試験について理論研究を行い、FIH試験に参加した患者やステークホルダーに対して、臨床試験参加に関する質的調査を行う。本発表ではおもに調査の進捗について共有する。
発表者2: | 佐藤桃子(大学院学際情報学府文化・人間情報学コース博士後期課程) |
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タイトル: | 出生前遺伝学的検査のガバナンスの言説分析-用語「マススクリーニング」を使うのはもうやめよう- |
要旨:
出生前遺伝学的検査において「マススクリーニング」という実施のあり方は一貫して批判され、避けるべき対象となってきた。しかし実際に想定される「マススクリーニング」がどのような実施を指すのかについては、複数の可能性が考えられる。本発表では母体血清マーカー検査及びNIPTのガイドライン策定にいたる議論を精読することによって「マススクリーニング」の含意を明らかにし、現状のガバナンス議論における問題点を整理する。
病気や健康をめぐる研究開発の現場では、研究する側、される側の垣根を超えたパートナーシップのもとに、より良い研究を目指す「研究への患者・市民参画(PPI)」が注目を集めています。
では、PPIとは具体的にどのようなことを指すのでしょうか。国内では、誰がなぜ、どのように進めており、誰の参画が求められているのでしょうか。日本に適したPPIのあり方とは、そしてPPIが目指す「より良い研究」とは一体どのようなものなのでしょうか。参画すること、あるいは参画して頂くことに関心を持った場合には、どうすればよいのでしょうか。
そこで、PPIに関する知識を得たり、情報共有や意見交換を行ったりする場として、「患者・市民参画研究会」を企画しました。公共政策研究分野は、共催組織として参画しております。
国内において、このような場は極めて限られた状態にありますが、環境整備の第一歩になればと考えています。
今年度は、「脱・貴重なご意見ありがとうございました」というテーマを掲げ、シリーズ企画で開催します。
第3回目もラジオ形式ですが、今回は、双方向に質疑応答をしながら進行しますので、みなさまからの質問やコメントを、ぜひお待ちしております。
申込を完了した方限定で動画配信もするため、当日ご都合が合わない方のお申込みも、お待ちしています。
詳細・申込については、以下のURLをご参照ください。ご参加、お待ちしております(申込〆切:1/25(月) 0:00)。
D2の飯田です。
このたび、Journal of Human Genetics に以下の論文が掲載されました。
Hiroshi Iida, Kaori Muto. Japanese insurers' attitudes toward adverse selection and genetic discrimination: a questionnaire survey and interviews with employees about using genetic test results. Journal of Human Genetics. 2020 Nov. DOI: 10.1038/s10038-020-00873-y.
https://www.nature.com/articles/s10038-020-00873-y
1990年代以降、海外では遺伝学的検査結果利用について生命保険は注目される分野でした。検査結果によって将来病気の発症が予想される人が保険の加入が出来ないという差別に陥るのではないか、一方で生命保険会社は人々が検査結果を隠して保険に加入するという「逆選択」によって収益が悪化するのではないかということが危惧されてきました。しかし、日本においては現在遺伝学的検査結果の利用に関する規制はなく、生命保険会社もここ20年ほどこの問題について沈黙を保っています。
そこで、日本の生命保険会社の態度を明らかにすべく、生命保険会社社員100名への無記名式アンケート調査とその中での協力者9名へのインタビュー調査を実施いたしました。その結果をもとに、本論文では、生命保険会社社員が遺伝学的検査利用の規制や逆選択についてどのように考えているのかについて考察しました。
日本での生命保険会社の遺伝学的検査利用に関する規制等の作成にあたって、有識者との議論の活性化し、世間の理解を得ることに繋がればと考えております。