3月の公共政策セミナー

2026/03/13

2026年3月の公共政策セミナーは、以下の通り、行われました。

◆日時: 2026年3月11日(水)13:30~
(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)

◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階
公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催

◆Web参加方法:公共政策メンバーの方は、共有カレンダーのURLからご参加下さい。
※所外の方は、お手数ですが昼12時半までに渡部までご連絡下さい。セミナー開始までに参加用URLと当日の資料ファイルをお送りします。

 

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〈報告概要(敬称略・順不同)〉

◆報告1
報告者:原田 香菜(公共政策研究分野 客員研究員・早稲田大学法学学術院 講師)
タイトル:生殖補助医療・ヒト生命の始期に関わる技術をめぐる法状況と多様化する「家族」

要旨:ヒトの受精・着床・妊娠継続・出産のプロセスを支える技術の発展と普及は著しく、2023年に体外受精・顕微受精および凍結融解胚移植により生まれた子は85,048人に上り、同年の日本国内の全出生児数727,277人の約11.7%を占めた。いまやこれらのプロセス自体に介入し、従来は不可能とされていた懐胎を可能とする技術、あるいは出生前の検査に基づく胎児治療の一部が「医療」として実施されている。一方、これらの技術を介して子を持つことを望む当事者の背景や「家族」の在り方自体も多様化している。

このような状況の中、わが国では具体的な法的規範・制度が未整備であり、判例は個々のケースに応じた判断を余儀なくされている。2025年にはドナー提供配偶子等を用いる「特定生殖補医療」に関する法案が提出されたものの、対象者の要件(法律婚の男女に限定)や、子がアクセスできる出自に関する情報(非特定情報)の内容・開示時期など多岐にわたる問題が山積しており、廃案となった。

本報告では、ヒト生命の始期に介入する技術に関するルールと制度の在り方について、生まれてくる子の権利・利益をどのように守るかを軸に検討したい。

指定発言:武藤 香織(公共政策研究分野 教授)

 

◆報告2
報告者:由井 秀樹(理化学研究所 生命医科学研究センター 研究員)
タイトル:優生学史と色覚に基づく入学・就業制限

要旨:20世紀の日本では、色覚が「異常」とみなされたら、進学及び就業において様々な制限が課されてきた。色覚は基本的には伴性遺伝であるため、進学や就業の制限があるが故に、結婚や生殖の問題としても立ち現れてきた。

個々人の色覚はグラデーションであり、どこに「正常」「異常」の線引を行うかという問題がある。日本では、石原色覚検査表という簡便かつ「正常」の範囲を狭くとる検査が広く用いられてきた。このことにより、明らかに過剰な制限が課され、1980年代以降の色覚差別撤廃運動に結びついた。

近年、日本では1948年に制定された優生保護法のもとで実施された強制不妊手術の問題が大きな社会的注目を集めている。こうした状況の中で、日本の研究者は過去の強制不妊手術の実態解明に向けた取り組みを強化している。本報告は優生結婚と色覚をめぐる歴史を検証することで、日本の優生学史を補強することを目的とする。

19世紀末のスウェーデンでの鉄道事故以降、世界的に鉄道や船舶の運転士への採用制限が広がっていった。日本も例外でなく、軍隊の採用制限にも取り入れられていった。この流れで、簡便かつ精度の高いとされる石原色覚検査表が開発され、国内で広く用いられるようになった。そして鉄道や軍隊の採用制限は法規に基づくものであったが、医師や染物業、化学者、教師なども「色を間違える危険性」故に慣習的に採用や専門職教育の門戸が閉ざされていった。

1940年に国民優生法が制定された。この流れで、厚生省が優生結婚相談所を創設し、「色覚異常」も優生結婚の争点となる「疾患」であった。1948年に優生保護法が制定され、「全色盲」(極めてまれな状態)が強制不妊手術の対象と位置づけられた(ただし、強制不妊手術の主たる対象となったのは、遺伝性とみなされた「精神薄弱」であったので、「全色盲」を理由とする手術はほとんど無かったと思われる)。戦後、優生結婚の考え方は、過剰人口対策として避妊の普及が第一義的に目指された家族計画の文脈で語られることが多く、ここでも色覚が取り上げられてきた。

優生結婚や家族計画の文脈で論じられる色覚は、日常生活に支障があるわけではないケースが大半であるため、生殖が絶対的に禁じられるものではなかった。しかし、専門家から厳しい進学・就業制限の状況が解説されており、「色覚異常」者の生殖は肯定的に捉えられていなかった。つまり、形式的には、生殖の決定は個々人の自主性に委ねられていたのだが、それ故にこそ、人々の結婚・生殖の悩みを掻き立てることになったのである。

指定発言:島﨑 美空(大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻 博士後期課程)