2013年度第5回公共政策セミナー 『韓国社会における「生殖補助医療」の受容過程と その諸課題』

2013/11/06

本日、2013年度、第5回目の公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。

日時: 11月6日(水)10時~12時
報告者: 洪 賢秀(公共政策研究分野特任助教)
タイトル: 韓国社会における「生殖補助医療」の受容過程とその諸課題

概要:

本報告では、「生殖補助医療」技術が韓国社会でどのように登場して受容されていったのか、その社会的背景に着目して考察する。とくに、「伝統」的な生殖観や家族構造や、民族解放後(日本の戦後)の人口政策の変遷を踏まえて、「生殖補助医療」の韓国社会での意味づけについて概観する。また、近年、韓国社会で生じた「生殖補助医療」をめぐるトラブル事例の検討を通して、今後の課題について考えたい。

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第39回 ジャーナルクラブ記録

2013/11/01

第39回(2013年11月01日)

本日は、以下の文献が紹介されました。

神里:
医学生物学論文の70%以上が、再現できない!
Meredith Wadman
Nature 2013年8月1日号 Vol.500(14-16)

中田:
“He knows that machine is his mortality” : old and new social and cultural patterns in the clinical trial of the AbioCor artificial heart
Renee C. Fox, Judith P. Swazey
Perspectives in Biology and Medicine Vol 47, No1 Winter 2004

趙:
中華人民共和国母嬰保健法にみる「優生優育」政策
于 麗玲、塩見佳也、加藤 穣、宍戸圭介、池澤淳子、粟屋 剛
生命倫理 VOL.23 NO.1 pp. 125-133, 2013.9

岩本:
iPS細胞のインパクトは社会にどのように受けとめられたか : 科学研究に対する科学者・報道機関・人々の注目の違い
蔦谷 匠 安藤康伸 飯田有希 井上志保里 貴舩永津子 小寺千絵 近藤菜穂 猿谷友孝 豊田丈典 中村史一 宮武広直 渡邉俊一 横山広美
科学技術コミュニケーション第9号 2011年6月発行

江:
台灣地區基因檢測態度調查與結果分析
何建志、陳李魁
法律與生命科學 第三卷第二期 Vol.3 No.2 April 2009

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レイキャビク訪問 ウプサラより(5)

2013/10/30

久しぶりの便りです。今回は夏に訪問したアイスランドでの出来事についてお話ししましょう。

アイスランドは、人口30万人の、大西洋に浮かぶ島国です。豊富な水資源と、プレートの境界上に位置することを活かした地熱エネルギーが、豊富な電力を生み出しています。首都レイキャビクは「煙が立ち込める港」という意味だそうですが、これは湯煙のことを言っているらしいという説が一般的です。地熱を利用した巨大な温泉施設にたくさんの人がつかっている広告写真をよく目にしました。

今回の訪問の目的は、「北欧生命倫理委員会」(「生命倫理に関する北欧委員会」)に参加することでした。「北欧」と言いますと、一般的には、私が滞在しているスウェーデンのほか、ノルウェー、フィンランド、そしてデンマークとアイスランドが含まれます。それぞれに個性はあるものの、お互いに地理的にも歴史的にも深い関係を有しています。冷戦下の70年代には、北欧諸国の団結・協力の基盤として北欧理事会が設置されました。それ以降、今日に至るまで、首脳間や閣僚級での定期的な政策協議の場として機能してきました。生命倫理委員会は、この協議会の部会の一つとして1988年に設置されました。

今年の委員会の検討テーマは、「国際的な視点からの代理出産」でした(写真1)。北欧は、スウェーデンをはじめ生殖補助技術に関する法的規制に早くから取り組んできました。今回、このテーマが選ばれた背景には、代理出産をめぐる現行の規制の再考、とりわけ(日本でも取り上げられるようになりましたが)インドなど海外に代理母を求める事例が増えていることが、念頭にあるようです。

議論の中で示された印象的な視点を挙げてみますと、「金銭の授受を伴うような代理出産が認められない」という価値判断が、他の国民にも適用されるようなものなのか、つまり金銭の授受は、状況によっては必ずしも代理母に不利益になるとはいえないという視点。これについて、個人の権利の保障が果たされていない環境下において、代理出産に関する金銭授受を肯定する理解は危険であるという反論。一方、こうした議論自体を回避するためにも、それぞれの国内で「愛他的な代理出産」を認めてもよいのではないかという意見。法律の禁止規定とは裏腹に、現に海外での代理出産を経て生まれた子どもの法的な地位をどう考えるべきか、行政担当者の悩みも吐露されました。各国の担当者がそれぞれの国の経験を持ち寄り、また研究者が自身のフィールドや調査を示して、将来のあり方を検討する光景が新鮮でした。

ところでアイスランドといえば、生命倫理に関心の深い人にとっては、デ・コード社の話が想起されるかもしれません(写真2)。これは、バイオバンクへの試料や情報の提供をめぐる同意のあり方についての政策論議の、実質的な起点となった出来事でした。同国出身者でハーバード大学の医学者であったカリ・ステファンソン氏が、この国の体系的な家系記録と医療情報に目をつけ、遺伝子解析研究のリソースとしてこれらを活用することを考えました。この計画に応じた同国政府は1998年、国民の医療記録、家系情報を束ねた保健医療データベース法を立案し、成立させました。このことが自身の情報に関する個人の権利を侵害するとして、国内外の有識者を巻き込む議論に発展しました。

のちに、この法律は最高裁の判決により違憲とされました。デ・コード社は経営的な苦境に陥るようになり、後にアメリカの会社に買収されました。ただ、アイスランドの一連の議論は、近隣の北欧諸国における議論を刺激し、多くの国がバイオバンクに関する法律を備えるようになりました。

井上:ウプサラ大学にて在外研究中/スウェーデン王国)

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「生命科学研究における成果発表」に関する論文が掲載されました(神里)

2013/10/30

このたび、日本生命倫理学会誌『生命倫理』に下記の拙稿が掲載されました。

神里彩子「生命科学研究における成果発表の意義とその規制の許容性についての一考察-2011~2012年H5N1型インフルエンザウイルス研究論文問題を題材として」生命倫理通巻24号、105-114頁(2013年9月)

2012年上半期、H5N1型インフルエンザウイルスがフェレット間において伝播可能であることを報告する論文2本がNature誌とScience誌に掲載されました。これら2本の論文の掲載については、アメリカ保健福祉省が研究方法の詳細について論文から削除すること等を勧告したため、科学界のみならず社会的な議論を巻き起こしました。2本の論文のうちの1本が日本人研究者チームによるものであったので、記憶されている方も多いと思います。
最終的に両論文は全文公開という形で掲載されるに至りましたが、その議論の過程を見てみると、「デュアル・ユース」「テロ対策」という面からの議論ばかりで、「生命科学研究における成果発表の意義や価値」からの検討が全くなされていないことに気がつきます。この点に疑問を感じて執筆したのが本稿です。
本稿では、まず、上記2本のH5N1型インフルエンザウイルス研究論文の発表を巡る議論を振り返りながら、そこから見えた問題点を整理しました。その上で、生命科学研究における成果発表には、「科学研究の自由」、「表現の自由」、「科学者の責務」、「生命科学研究の意義」から導き出される意義・価値が内在していることを明らかにし、そこから、その規制はこれらの意義・価値を上回る必要性がなければならないことを論じています。
生命科学研究の成果「発表」に関する規制についての議論は世界的に見ても蓄積されておらず、「どのような場合に規制が認められるのか」、「誰が・どこが規制するべきか」、「どのような規制方法が妥当か」等についての本格的な議論はなされていないように思います。荒削りではありますが、本稿を第一歩とし、今後もこの点に関する研究を進めて行きたいと思っています。

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第38回 ジャーナルクラブ記録

2013/10/18

第38回(2013年10月18日)

本日は、以下の文献が紹介されました。

小林:
日本の労働市場の課題と就労支援―アクティベーション政策と社会的企業
米澤 旦
社会運動 2012.8.15

趙:
我国第一部地方性优生法规诞生——甘肃省制定禁止痴呆傻人生育法规
屈维英,牛新莉
瞭望 1989年4期
从甘肃看痴呆傻人生育问题的严重性
维新
瞭望 1989年4期
Chinese region uses new law to sterilize mentally retarded
Nicholas D. Kristof
The New York Times Nov.21 1989

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多施設共同疫学研究における中央事務局業務のまとめ論文が出ました(武藤)

2013/10/15

このたび、北海道大学公衆衛生学分野の玉腰暁子先生と共著で、ものすごーく地味な論文が出ました。果たして、多施設共同疫学研究の事務局って何をしているところなのか、そして何をしないと機能しないのか、について検討した論文です。日本公衆衛生学会誌は、以下のサイトから全文を読んで頂くことができます。


「多施設共同疫学研究における中央事務局業務―実態の類型化と今後の標準化にむけて」

玉腰暁子・武藤香織 日本公衆衛生学会誌 60(10):631-638, 2013.


掲題の疫学研究だけではなく、医学研究の多くはプロジェクト化・大型化が進んでいます。結果として、研究代表者の所属機関が中央事務局業務を担っているというのが現状です。

しかし、様々な意思決定を迫られるプロジェクト立ち上げ時に研究者間のトラブルが少なくて済むかどうか、そのプロジェクトが成功するかどうかは、中央事務局が内外情勢に目配りをしたうえで機能できるかどうかにかかっている部分が大変大きいと思います。そのノウハウは全く蓄積されていません。円滑に進んでも褒められることはないし、何かトラブルがあっても飲み会でおしまいにしちゃう、だから「どういう中央事務局が理想なのか」ということもよくわかっていない状態です。

そのような問題意識からスタートした本論文では、日本の6つの大型疫学研究を取り上げて、その中央事務局がどんな作業をしているのかをリストアップするという、「え、それだけ!?」という内容です。ですが、「え、それだけ!?」ということも、これまで中央事務局を担う人たちの中だけで共有され、知識化してこなかったということです。

幅広い読者に興味を持ってもらえる論文ではありませんが、研究プロジェクトのマネジメント経験がある人には、「そうそう!」「あるある!」と、涙して読んでもらえるのではないかと、願っております。

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第37回 ジャーナルクラブ記録

2013/10/04

第37回(2013年10月04日)

本日は、以下の文献が紹介されました。

武藤:
Actionable, pathogenic incidental findings in 1000 participants' exomes
Michael O. Dorschner, et al.
The American journal of human genetics 93, 631-640, October 3, 2013

中田:
Cross the road
Editorials
Nature. 502(7469):6, 2013
臨床研究の倫理(研究倫理)についての基本的考え方
松井健志
医学のあゆみ Vol.246 No.8 2013.8.24

趙:
我国第一部地方性优生法规诞生——甘肃省制定禁止痴呆傻人生育法规
屈维英,牛新莉
瞭望 1989年4期
从甘肃看痴呆傻人生育问题的严重性
维新
瞭望 1989年4期
Chinese region uses new law to sterilize mentally retarded
Nicholas D. Kristof
The New York Times Nov.21 1989

岩本:
Public perceptions of animal experimentation across Europe
Fabienne Crettaz von Roten
Public Understanding of Science 22(6) 691-703. 2012

江:
台灣地區基因檢測態度調查與結果分析
何建志、陳李魁
法律與生命科學 第三卷第二期 Vol.3 No.2 April 2009

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ヘルシンキ宣言改訂に関する短報、Science誌に掲載(井上)

2013/09/26

世界医師会によるヘルシンキ宣言は、研究倫理に関する最も重要なガイドラインの一つです。この宣言は現在、改訂作業中です。井上はウプサラ大学の仲間と議論のうえ、世界医師会の意見募集に応じてコメントを出しました(2013年7月)。その後、このコメントの一部をレターとして組み直して投稿したものが、サイエンス誌の今週号に掲載されました。

Forsberg J, Inoue Y. Beware side effects of research ethics revision. Science, 341(6152), 1341-1342, 2013.

医薬品の試験におけるプラセボ使用の可否や倫理審査の質の課題など、研究倫理において従来取り上げられてきた論点が、今回の改訂をめぐる議論にも多く登場しています。ただ我々は、これまであまり論じられてこなかった試料・データの取り扱いに関する項目の変更にも関心を持っています。

2000年の改訂以降、ヘルシンキ宣言には、その射程とする医学研究に「個人を特定できる試料・データを用いる研究」が含まれることが明記されるようになりました。一方で、既存の試料・データを集合的に管理し、解析する研究形式の発展と、これらが由来する個人の自己決定権を尊重する観点とを考慮して、同意原則の適用のあり方をめぐる多様な議論が展開しています。

現在の改訂案では、同意取得要件の例外として認められてきた、「倫理審査により、研究の妥当性に深刻な影響があることが確認された場合」に関する記述が削除され、個人からの事前の同意取得の履行をより前面に出したものになっています。我々は、リスク・ベネフィットの比較衡量の観点から、この改訂作業の動向に注目しています。個人の身体に大きな影響を伴う臨床研究では、その参加に際して個人から事前に同意を取得するべきであり、またその撤回の希望は最大限尊重されるべきでしょう。しかし、既存の試料やデータを用いる研究は、個人に及ぼす害の防止や軽減、研究者や倫理審査委員会の責任ある判断を前提として、多様な参加・収集形態があっていいと考えてます。影響力が大きい文書ですので、用語の詳細な定義や解説の充実などが期待されます。

なお、井上が滞在しているウプサラ大学研究倫理・生命倫理センターのウェブサイト(9月22日記事)、週刊ブログ(9月25日記事)でもこの短報が紹介されています。

井上:ウプサラ大学にて在外研究中/スウェーデン王国)

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「医学のあゆみ」の研究倫理特集(丸、井上)

2013/09/20

雑誌「医学のあゆみ」で「臨床研究と倫理」という特集が組まれました(国立循環器病研究センター・松井健志氏の企画、詳しくはこちら)。本教室の丸、井上が、それぞれ「臨床研究におけるインフォームドコンセントと”治療との誤解”」「ヒト試料の取扱いと研究倫理」という単元を担当しています。

「インフォームドコンセント」(丸)の単元では、「研究目的での侵襲」に関するインフォームドコンセントが果たす役割と注意点を紹介しました。被験者からの同意の取得は、研究倫理における基本的な要件ですが、単に同意を得たという事実や被験者が同意したとおりに研究を展開するというだけでは、被験者保護として十分ではありません。研究による侵襲が正当化されるためには、研究に伴う危険やリスクに照らして、科学性・倫理性を担保するための倫理委員会における評価の充足や被験者との必要なコミュニケーションのあり方を考える必要があります。また、研究の趣旨とは異なる被験者の期待やニーズが、患者・医師関係の中で「治療との誤解」を形成し、結果的に被験者の自律的判断を歪める危険性もあります。狭義の「同意取得」のみならず、被験者が研究参加によってもたらされる(もたらしうる)利益の性格や危険性について理解できているか、研究者は注意する必要があるでしょう。

「ヒト試料」(井上)の単元は、研究目的での試料の取扱いをめぐる問題をテーマとしています。既存の試料を用いる研究では、医薬品の臨床試験などと異なり、個人の身体に直接的な害が生じることは少ないといえます。一方、医療への還元には長い年月を要する場合が多く、健常者・非罹患者の協力を求めることが多いこと、解析結果は大きな集団レベルで示されることなどの特徴があり、また試料は研究の素材として共有、蓄積されたりすることも多いです。個々人と研究結果との関係は相対的に希薄で、試料の提供や維持は、研究方針に包括的に共鳴した人の支持に依拠することになります。解析技術が進歩し、当初想定していなかった用途や情報の発生への対応が求められる中、試料や情報の個人性への配慮と科学研究の素材としての運用との均衡をめぐる議論が浮上しています。前半ではこうした特徴の概要を、後半では試料の取扱いをめぐる自律と無危害をめぐる議論に関連の深い、直近の論点を紹介しました。

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第36回 ジャーナルクラブ記録

2013/09/20

第36回(2013年9月20日)

本日は、以下の文献が紹介されました。

神里:
European Society of Human Reproduction and Embryology
The prevention of hereditary breast and ovarian cancer by PGD is ‘feasible’, following analysis of Europe's biggest patient series

中田:
End-stage heart disease, high-risk research, and competence to consent: the case of the AbioCor artificial heart
E. Haavi Morreim
Perspectives in Biology and Medicine. 49(1):pp.19-34, 2006

岩本:
自殺のない社会へ―経済学・政治学からのエビデンスに基づくアプローチ
第1章 なぜ自殺対策が必要なのか?
澤田康幸、上田路子、松林哲也
有斐閣 2013年06月

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第3回定例ゼミ

2013/09/13

本日は以下の報告がありました。

中田(礒部代読):進捗報告
小林:修士論文執筆状況
江:進捗報告、現在の関心
岩本:研究計画案

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第35回 ジャーナルクラブ記録

2013/09/06

第35回(2013年9月6日)

本日は、以下の文献が紹介されました。

會澤久仁子:
Research Ethics Consultation:A casebook
Danis et al.
NY:OUP.2012:69-72

神里:
わが国における研究不正 公開情報に基づくマクロ分析(1)
松澤孝明
情報管理 56(3), 156-165, doi: 10.1241/johokanri.56.156

丸:
Ethical implications of including children in a large biobank for genetic-epidemiologic research: a qualitative study of public opinion
Kaufman D, Geller G, Leroy L, Murphy J, Scott J, Hudson K
AJMG Volume 148C, Issue 1, pages 31–39, 15 February 2008

小林:
企業観の変遷と企業の社会貢献
岩田龍子
日本福祉大学経済論集 特別号(2004.10)

岩本:
ブレインバンクをめぐる倫理的・法的・社会的問題
佐藤雄一郎
脳と精神の医学:第20巻・第1号(2009)

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2013年度第4回公共政策セミナー 「朝鮮のハンセン病政策再考(仮)」

2013/09/04

本日、2013年度、第4回目の公共政策セミナーが開かれました。詳細は、以下の通りです。

日時: 9月4日(水)10時~12時
報告者: 吉田幸恵(公共政策研究分野特任研究員)
タイトル: 「朝鮮のハンセン病政策再考(仮)」

概要:

わたしは近代の朝鮮/韓国のハンセン病政策について調査しています。日本統治下にあった朝鮮では、日本と同じようなハンセン病(らい病)対策がとられていました。
その管理下のもと、朝鮮のハンセン病者たちは「ハンセン病である」ということと「朝鮮人である」ということ、「二重の差別」の中で生を紡いでいました。
1945年以降、日本の管理下から離れ、韓国となったこの国のハンセン病政策はあまり実態があまりわからなくなってしまいました。
日本統治下では日本語での文献が残されてはいるものの、45年以降は当然韓国語文献しかなく、しかもアーカイブ化も進んでおらず「韓国でのハンセン病政策はそれはそれはひどいものだ」という若干恣意的な資料が、日本での「韓国のハンセン病評価」に直結してしまっている現実があります。
実際そうなのか/どうだったのか。このあたりの話を今回は紹介したいと思っています。

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The Relationship between Media Consumption and Health-Related Anxieties after the Fukushima Daiichi Nuclear Disaster (武藤)

2013/08/20

2011年6~7月に、福島県相馬市・南相馬市の放射線量の異なる地区の12か所で、南相馬市立総合病院の坪倉正治医師が放射能と健康に関する説明会を実施していました。その説明会参加者に対して、説明会の前後に協力していただいた質問紙調査のデータをまとめたものが、ようやくPlos Oneに掲載されました! 以下のURLで全文読んでいただけます(英語)。

論文に仕上げた立役者は、当時、国際保健学専攻修士課程に在籍していた杉本亜美奈さん、野村周平さん、助教のスチュアート・ギルモアさんです。当時、メディカルゲノム専攻修士課程の大学院生だった佐藤未来子さんと私は、調査票の設計、データの集計作業等に関わりました。

Sugimoto A, Nomura S, Tsubokura M, Matsumura T, Muto K, Mikiko Sato, Stuart Gilmour (2013) The Relationship between Media Consumption and Health-Related Anxieties after the Fukushima Daiichi Nuclear Disaster. PLoS ONE 8(8): e65331. doi:10.1371/journal.pone.0065331

この論文の前身となる基本集計については、科学技術社会論学会第10回年次研究大会(京都大学)にて、佐藤未来子、武藤香織「浜通りにおける放射線説明会の意義と課題」として報告を行いました。

この報告では、
(1)説明会前後に参加者に質問紙を行ったところ、説明会後は軒並み不安軽減につながっていたこと
(2)説明会で提供しなかった情報以外にも市民の不安軽減に寄与する副次的な効果をもっていたことと
(3)不安軽減の効果は不安の種類に応じて異なっていたこと
(4)報道接触頻度が高い集団で不安度の高かった人の割合は、報道接触頻度の低い集団に比べて15%高かったこと
等を報告しました。

さらに詳しく分析したこの論文では、因子分析によって不安の種類を3つに分類し(放射能による健康への不安、将来の生活への不安、社会生活破たん(social disruption)への不安)、日ごろ接触する情報源(メディア)の種類による不安の持ち方の違いを明らかにしました。たとえば、噂を重要な情報源としている人は、放射能の健康不安をより強く持ちやすく、地方紙を読む人は全国紙を読む人に比べ、将来の生活への不安がより強い、ラジオを聴く人は社会生活破たんへの不安がより強い、といった関連です。

もっとも、このデータの限界としては、調査票が放射能と健康講演会に拘束されるために生じる外的信頼性の問題、SNSについては聞いてないこと、長期的な追跡はできていないこと、女性と高齢者が多いというバイアス等、いろいろとあります。

しかし、東日本大震災から3か月後、事故の影響や規模が未知数の段階で獲得した貴重なデータです。この時期の住民の不安の声を集めたデータは存在しないのではないかと思います。今後、リスク・コミュニケーションやメディア研究の専門家らとも連携して考察を深めることによって、このデータの意味が深められるとともに、今後の同様の事故におけるメディア対応の一助になればと思う次第です。

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【院生室より】暑気払い

2013/08/07

猛暑お見舞い申し上げます。D2の中田はる佳です。

大変な猛暑が続く中、夏を元気に乗り切ろう!ということで研究員の方のご提案により、研究室のメンバーみんなで鰻を食べに行ってきました。くしくもその日は土用の丑の日の前日で、鰻を食すにはもってこいの日。鰻は大好きなのですが、土用の丑の日についてきちんと知らなかったので調べてみました。

「土用の丑の日(どようのうしのひ)は、土用の間のうち十二支が丑の日である。夏の土用の丑の日のことを言うことが多い。夏の土用には丑の日が年に1日か2日(平均1.57日)あり、2日ある場合はそれぞれ一の丑・二の丑という。」 (Wikipediaより)

まず、土用の丑の日が2日ある場合があることを初めて知りました。今年は7月22日と8月5日だったとのこと(2回鰻が食べられますね)。そして「土用」がわからなかったのでさらに検索。

「土用(どよう)とは、五行に由来する暦の雑節である。1年のうち不連続な4つの期間で、四立(立夏・立秋・立冬・立春)の直前約18日間ずつである。俗には、夏の土用(立秋直前)を指すことが多く、夏の土用の丑の日には鰻を食べる習慣がある。」(Wikipediaより)

暦の数え方ということでしょうか。
由来については深入りせずにこの程度にして、肝心の鰻はというと、かの有名な「野田岩」に行ってまいりました!なんとこの日の前夜に、NHKの番組で野田岩が特集されていて、予習もばっちり。とても重厚なお店のつくりで、歴史が感じられました。私は、うな重とうまきを注文し、野田岩が薦めるワインとの合わせを楽しみました。鰻には日本酒だと思っていましたが、ワインとの相性もよかったです。

おいしいものでエネルギーチャージをして、みんなでざっくばらんに話をし、とても楽しい時間を過ごしました。

画像

写真左:神々しいうまき。冷めないように保温性のあるお重に入って運ばれてきました。
写真右:美しいうな重。山椒もとても薫り高く、おいしかったです。

(D2・中田はる佳)

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第34回 ジャーナルクラブ記録

2013/08/02

第34回(2013年8月2日)

本日は、以下の文献が紹介されました。

丸:
第十三章 プリコミットメントから見たアドバンス・ディレクティブ
丸 祐一
「法」における「主体」の問題 仲正昌樹編 御茶の水書房 2013年7月1日

楠瀬:
Electronic Informed Consent: Possibilities, Benefits, and Challenges
Rahlyn Gossen
Rebarinteractive April 2, 2012

中田:
Informed consent documentation for total artificial heart technology
Katrina A. Bramstedt
Journal of Artificial Organs (2001) 4:273-277

岩本:
自殺対策の推進における家族員の責務とその上昇をめぐって
藤原信行
「現代思想」2013年5月号 特集:自殺論

江:
補完代替医療の選択とSense of Coherence
本江朝美,高橋ゆかり,副島和彦,田中晶子,伊藤マモル
昭和医学会雑誌 Vol.71 (2011) No.4 P 398-407

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第2回定例ゼミ

2013/07/19

本日は以下の報告がありました。

岩本:修論研究計画案
中田:進捗報告、学会抄録案
小林:修論中間発表の報告
趙:学会抄録案
江:進捗報告、今後の研究方針
洪、楠瀬:教室内学会発表・論文投稿等に関するルール案

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【院生室より】修士論文中間発表会を終えて

2013/07/12

こんにちは!M2の小林智穂子です。
先日(7/3)、学際情報学府修士論文の中間発表会があり、現在の研究進捗状況を発表してきました!

私の研究テーマは、『企業ボランティアの成り立ちと行方』です。研究の目的は、企業活動におけるボランティア活動の位置付けの変遷を明らかにすること。中間発表では、ボランティアと企業活動の接点に係る文献調査の経過報告を行いました。

中間発表の前週、公共政策研究分野の定例ゼミで発表予行をする機会がありましたが、ここで発表の内容や方法についてのコメントをたくさんいただきました。そこから、先生との面談やゼミで受けた質問・コメントのメモ、修論進捗報告をした際に用意していた資料、収集した資料のリストをもとに、これまでのことを振り返りながら、発表資料を一から組み立て直すつもりで手直ししました。そして、本当にギリギリのタイミングで、新たに「結論の一部」を書くことができました。

私は社会人を経て大学院に入学しました。非常勤ですがNPOでも働いています。社会人を経てから大学院に入ると、「解決したい問題」や「晴らしたいルサンチマン」がものすごく具体的なのです。ですから、単なるワタクシ論や経験論にならずに、ちゃんと「研究」になっているのか、というのは、今でも私がもっている最大の課題ですし、いつも不安を感じています。でも、この中間発表を終えて…大げさだけど言っちゃいますと、はじめて「この“研究”は私のもんだ」という感覚を感じることができました。先生や先輩諸氏のご指導なくしては、ここまでやってこられなかった…。いくら感謝しても足りません。

発表後は、安堵やら疲れやら何やらで一瞬放心状態でしたが、ここで新たな課題です。
審査をしてくださった先生がたには、(指導教官以外には口頭で経過報告をするのは初めてだったのですが)「文献だけじゃなく、インタビュー調査などもしては?」と。「せっかく経験もあるのだから。ドロドロとした現実と、理論との間をつなぐのも研究者の仕事だよ。」とアドバイスいただきました。

生々しい現場からアカデミックな世界へやってきて、いったん脇に置いた「なま」の世界に、今度は研究者として入っていく。その訓練をこれから始めます。怖いようなワクワクするような。修論を仕上げるために残された時間はあと半年もありません。ゼミにはフィールドワークやインタビュー調査のプロがたくさん。鍛えてもらおう。日々邁進!です。

わたしの子ども達はもうすぐ夏休み。私は…!?
先生からは、「まだ暑い日が続くなか、汗を拭きふき修論を執筆しているイメージをもとう。コートを着るような時期に描き始めるのでは遅いよ。」と執筆スケジュールに関して、具体的なイメージ付きのアドバイスをいただきました(これ、発表会後の打ち上げで同級生たちにシェアしたところ、「そのイメージ法(?)いいっすねぇ!」と大好評)。これから汗を拭き拭き、執筆を進めたいと思います。

(M2 小林智穂子)

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2013年度第3回公共政策セミナー 「中国における「優生政策」と生命科学政策の相互作用」

2013/07/10

本日、2013年度、第3回目の公共政策セミナーが開かれました。
詳細は、以下の通りです。

日時: 7月10日(水)10時~12時
報告者: 趙斌(新領域創成科学研究科 メディカルゲノム専攻 修士2年)
タイトル: 中国における「優生政策」と生命科学政策の相互作用

概要:

1980年代に開始された中国の「人口管理・優生政策」と、科学技術政策の間の相互作用について検証するとともに、今後の生命科学技術発展によって母子保健政策におけるゲノム科学の利用がいかなる方向に進むのか、また国際社会との関係性などを検討していく。それから、実際に中国での遺伝相談の医師に遺伝カウンセリングに関するインタビューを計画している。可能であれば、NIPTや胎児WGS研究・実施している中国の会社・病院へのインタビューも検討している。

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第33回 ジャーナルクラブ記録

2013/07/05

第33回(2013年7月5日)

本日は、以下の文献が紹介されました。

佐藤弘之:
What's missing? Discussing stem cell translational research in educational information on stem cell “Tourism”
Zubin Master, Amy Zarzeczny, Christen Rachul, Timothy Caulfield
Journal of law, medicine and ethics

武藤:
Medical research: cell division
Meredith Wadman
Nature 498, 422-426 (27 June 2013)

神里:
Cloning debate: Stem-cell researchers must stay engaged
Martin Pera, Alan Trounson
Nature vol.498, 13 June 2013
What's human? What's animal? And what of the biology in between?
Nik Brown
The Guardian, 25 July 2011

礒部:
統合的参加型テクノロジーアセスメント手法の提案:再生医療に関する熟議キャラバン2010を題材にして
山内保典
Communication-Design. 4. 1-28, 2011


楠瀬:
Therapeutic hope, spiritual distress, and the problem of stem cell tourism
Insoo Hyun
Cell Stem Cell 12, May 2, 2013
International Society for Stem Cell Research 11th Annual Meeting

中田:
Pay-to-participate funding schemes in human cell and tissue clinical studies
Douglas Sipp
Regenerative Medicine. 2012; 7 (6 Suppl): 105-11

趙:
Current genetic counseling in China
Yuan-zhi ZHANG, Nanbert ZHONG
Journal of Peking University (Health Sciences) Vol. 38 No.1 Feb. 2006

岩本:
Advancing Neuroregenerative Medicine: a Call for Expanded Collaboration Between Scientists and Ethicists
Jocelyn Grunwell, Judy Illes, Katrina Karkazis
Neuroethics April 2009, Vol 2, Issue 1, pp13-20
Scientists form new nerve cells-directly in the brain
Science Daily Mar.26, 2013

江:
再生医療とクローン・テクノロジーの衝撃とそれに応じる制度
(中)再生醫學與複製科技之衝擊與制度回應
范建得、何建志
法律與生命科學 第七期
2008年10月

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