「遺伝子検査ビジネス」と私の関わりについて、そして、思うこと(武藤)
2014/10/02
いわゆる「遺伝子検査ビジネス」の一つである、「DTC遺伝子検査」(消費者に直接販売する遺伝学的検査,Direct-to-consumer genetic testing)を通じたヘルスビッグデータの創出をテーマに、東京大学医科学研究所とDeNAライフサイエンス社との間で共同研究が実施されています。この内容は、クオンタムバイオシステムズ社との新しいシークエンサー開発とともに、革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)のサテライト拠点としての事業とも位置付けられてきました。
私自身は、これまで「遺伝子検査ビジネス」に関する倫理的法的社会的諸問題に関心をもって研究して参りましたが、
- 私自身は、「遺伝子検査ビジネス」を推奨する立場にはありません。
- DeNAライフサイエンス社との間には、一切の「経済的な利益関係」はありません。
- DeNAライフサイエンス社を含め、DTC遺伝子検査企業の倫理委員会の委員は、務めておりません。
しかし、発足当初から、NPO法人個人遺伝情報取扱協議会(CPIGI)の評価委員を務めており、現在、同協議会の「個人遺伝情報を取扱う企業が遵守すべき自主基準」の制定・改正、また現在進めている認定制度の構築も可能な支援をしております。それはいわゆる「遺伝子検査ビジネス」に関して、日本国内で特段の規制がなされる様子がなかったため、まずは業界団体の健全化が急がれると考えたからです。
「DTC遺伝子検査」に対する主な批判の一つに、医師ではない者が「医業」を行い、「診断」に近い検査項目を提供しているではないかという指摘が挙げられます。私自身は、「DTC遺伝子検査」が「医業」に該当するかどうかは、しかるべきステークホルダーが集い、議論されるべきであり、結果として「医業」に該当するとの結論に至ることもあるだろうと考えます。
しかしながら、現在、急速に進展するゲノム医学に関して、専門的な知識やそれらを消費者・患者に現時点で最適な解釈を添えて説明する力を持ち合わせていない医師は、まだまだ多いと考えます。また、「DTC遺伝子検査」を利用して消費者の不安を煽り、高価な診療や精密検査、サプリメントに誘導するような医療機関もあります。そのため、もし「医業」に限定することになったとしても、医療専門職としての自主規制は徹底して行っていただきたいと考えます。単に企業を締め出すだけでは意味がありません。
それ以前の問題として、日本では、「DTC遺伝子検査」のみならず、医療機関が実施する遺伝学的検査についても、その質(正確さ、適切さ、個人情報保護や倫理面への配慮等)を保証する義務を課すような仕組みは存在していません。学術団体や業界団体による自主的な取り組みによって、「あるべき姿を示す」という手法が中心でした(そもそも臨床検査に対して、その質を管理する法律が存在しませんでした)。以下、その一例を紹介します。
これまで様々な団体が、遺伝学的検査の質を担保する努力をしてきたことも事実です。しかし、医療機関・企業を含め、遺伝学的検査を実施する全ての機関において、検査の質の正確さや検査施設の適切さを客観的に評価し、公開する制度の構築が必要だと考えています。
- 日本人類遺伝学会(2010)「一般市民を対象とした遺伝子検査に関する見解」(PDF)
- 特定非営利活動法人JCCLS日本臨床検査標準協議会(2010)「遺伝子関連検査に関する日本版ベストプラクティスガイドライン」
- 日本医学会(2011)「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」(PDF)
- 一般社団法人 日本衛生検査所協会(2013)「遺伝子関連検査の質保証体制についての見解」