臓器移植に関連する学会報告(井上)

2012/05/19

公共政策研究分野の井上です。2012年3月16日に台湾大学病院・臓器提供移植研究会、翌17日の台湾外科学会での講演について報告します。

私に求められていたテーマは、二つありました。一つは、日本の臓器移植法改正の概要とその影響に関するものでした。感触としては、日本の2009年の臓器移植法改正、とりわけ個人の提供拒否の意思の確認に重点を置き、最終的には遺族が判断する方式について、台湾の専門家の間では好意的な受け止め方が多かったように思います。また、子どもの臓器提供とその意思確認や虐待をめぐる問題について興味を持った方が多いようでした。一方、台湾では、提供者の移植情報の保護とトレイサビリティ(追跡可能性)の確保との対立に関する点が議論になっているとのことであり、改めて日本の状況を考え直す機会になりました。

もう一つの「心停止ドナー」は、“Controlled Non-heart Beating Organ Donation”(死期の迫った臓器ドナーの心停止の瞬間を人為的に操作すること)をめぐる問題です。脳死臓器提供が主たる割合を占めている台湾では、脳死提供に加えて、こうした「操作による心停止ドナー」をめぐる法的、倫理的問題をいかに乗り越えるべきかという問題提起がなされています。私からは、日本における心停止前の臓器提供準備をめぐる訴訟、拍動管理についての臨床研究に対する議論の事例を紹介し、こうした手法については議論が熟していないこと、家族間での生体臓器提供が臓器移植のかなりの部分をカバーしてきた経緯などを紹介しました。

若輩ながら熱心に誘っていただき、貴重な報告と議論の場を与えていただいた、台湾大学、台湾外科学会関係各位に心より感謝申し上げます。これを励みに一層努力し、より議論に貢献できる人間になりたいと思います。(井上)