科学技術政策事業仕分けに対する民主党への意見

2009/11/17

現在実施されている科学技術政策関連の事業仕分けに関して、民主党対する意見を有志でまとめました。
現在提出可能なパブリックコメントは、各事業ごとに求められていますので、しかるべき形式に直してパブリックコメントに供するほか、していきます。

武藤香織、洪賢秀、渡部麻衣子

  1. 科学技術政策の決定過程の一部を可視化した点は、前政権との大きな違いであり、一定の評価をしたい。
    しかしながら、民主党は、2008年8月の総選挙におけるマニフェスト内で、今後の科学技術政策について明示的な方針を記載しておらず、国民は科学技術政策に関して現政権に託したとは言えない。科学技術政策のロードマップも示さずに、いきなり市民へパブリックコメントを求めるのは、政策決定の手法として誤っている。
    まずは、前政権より引き継がれている第三期科学技術基本計画との整合性を確認し、中長期的な民主党の科学技術政策マニフェストを世に問うべきではないのか。
  2. 行政刷新会議第3ワーキンググループによる事業仕分けにおいて、これまで継続されてきた複数の科学技術関連事業が縮減ないし廃止の憂き目を見ている。科学技術政策に関する根拠なき方針転換は、これまで「科学技術立国」と謳ってきた前政権との継続性において、余りにも深い断裂を生むものである。すなわち、日本発の科学技術を目指して、これまで投入されてきた税金、科学者ならびにそれを支える人々の努力や意思、得られるはずの成果を大きく損なうものであり、関わってきた人々の急激な士気低下と甚大な雇用不安が憂慮される。
  3. ライフサイエンスや医学、社会保障分野の発展においては、バイオバンク、疫学コホート研究、人口動態データベースなど、社会の基礎となる長期的基盤研究の安定的な事業運営が不可欠であるが、我が国は諸外国と比べて大きく遅れを取っている。背景には、科学技術政策を経済振興政策と重ね、科学研究に短期間での経済効果を期待する誤った政策的思考があり、短期間で成果を上げなければ事業を縮減ないし停止するという、科学の営みになじまない政策運営があるのではないか。しかしながら、長期的基盤研究とは、現世代によって次世代の福利厚生や利益のために営む科学的探究であり、現在、失われつつある世代間連帯感や先人への敬意を国民が慈しむ土台となりうる。
    そして、そこから生み出される貴重な研究成果は、次世代の国民および世界の人々にとっても幸福の源泉となりうる。
    むろん、こうした長期的基盤研究の採択と監視にあたっては、科学者間の公平な競争があり、倫理的法的社会的観点からも検証の対象となるのは当然の前提である。
  4. 日本は、戦後復興期以降の長きに渡って科学技術を牽引し、そのおかげで東アジアでは唯一の先進国となり得た。
    日本の科学技術政策形成が近隣諸国に与える影響や国際的研究協力の現状などを踏まえると、日本の「国益」を問うだけでは済まされない視座の広さも求められる。
  5. 日本の科学技術政策に関する最終的な判断は、総合科学技術会議および同議員に託されることになるが、その方針決定の責任を問う仕組みは存在していない。最高裁判所裁判官の国民審査のように、その判断の公平性や妥当性は、しかるべき時期に問い直されるべきである。

以上