書籍『実践から学ぶ医療社会学――人びとは「医学的知識」とどのように向き合っているのか』を刊行しました(李、河田、木矢)

2026/04/27

実践から学ぶ医療社会学 人びとは「医学的知識」とどのように向き合っているのか』(ナカニシヤ出版)を刊行しました。李は編者として、木矢は編著者として、河田は著者として参加しています。 

本書の関心は、サブタイトルにもあるように、人びとが「医学的知識」とどのように向き合っているのかにあります。私たちは、患者として診断を受け病気と向き合うとき、あるいは家族の病気について調べるときに、医学的知識と向き合っているといえます。しかしそれだけではなく、風邪をひいて市販薬を手にとるとき、外出から帰って手を洗うとき、日常のなかにも医学的知識とのかかわりは潜んでいます。本書はそうした営みを、インタビューやエスノメソドロジーといった質的研究の手法を通じて丁寧に解きほぐしていこうとする一冊です。

本書は、がんや遺伝性疾患の患者・当事者の経験を扱う第Ⅰ部と、精神科医やフライトナースなど専門家の現場実践を扱う第Ⅱ部で構成されています。李は第Ⅰ部ナビゲーションを、河田は第2章を、木矢は第4章をそれぞれ執筆しており、各章の末尾にはそれぞれコラムも寄稿しています。

第2章「私たちはいかにして『AYA世代』となったのか――新たなカテゴリーの成立とメンバーシップの再構成」では、がん医療において、思春期及び若年成人期のがん患者や経験者を指す「AYA世代」に注目します。本章では、医療における「AYA世代」の発見と普及の経緯と日本のがん対策における制度化の過程をたどるとともに、若年がん患者会の会報誌の分析を通じて、「若年がん患者」から「AYA世代」へと移行する語りの変化を検討します。A.ギデンズの再帰性概念を手がかりに、知識・制度・当事者の経験が相互に関わりながら再構成されていく過程を紐解きます。

第4章「保因者と医学的・遺伝学的知識――保因者の思考と遺伝学的リスクの捉え方」では、本人は発症しないものの次世代に原因遺伝子を受け継がせる可能性のある、遺伝性疾患の女性保因者2名を対象に、本人らが遺伝学的リスクをどのように受け止め、結婚や出産の選択をどのように意味づけているのかを探っています。社会学者N.ルーマンの「リスク」と「危険」の概念を手がかりに、2名の語りを対比的に検討することで、保因者の思考のあり方や、遺伝学的リスクの捉え方の多様性を描き出しています。

また本書は、卒論・修論の執筆を念頭に置いたテキストとしての側面も持っており、各章が「問い→調査→分析→考察」という論文の組み立てを学べるよう構成されています。医療社会学を学ぶ学生から、現場で働く医療従事者など、医学的知識と向き合う幅広い方々に手にとっていただけると幸いです。 

目次

まえがき

序 章 医療社会学の新たな試み(河村裕樹)
 1 「医学的知識と向き合う」社会のなかで
 2 これまでの医療社会学とその課題
 3 医療化論と「仮面はがし」の説明図式の持つ課題
 4 医学的知識との多様な向き合い方を記述するために
 5 本書のねらい

第Ⅰ部 当事者の経験・共同性・知識のやりとり
 第Ⅰ部 ナビゲーション

第1章 乳房再建の選択をめぐる知識と身体的コミュニケーション
 ――再建乳房を見る・触ることの語りから(菅森朝子)
 1 再建乳房が写されたポートレート写真を見せてもらう
 2 乳房再建術とは何か
 3 再建乳房を見る・触るコミュニケーションの実際
 4 再建経験者の再建乳房を見る・触ることの意義

コラム 「あなたは当事者ではないのに、どうしてそんな熱心に私たちのことを知ろうとしているのですか」(菅森朝子)

第2章 私たちはいかにして「AYA 世代」となったのか
 ――新たなカテゴリーの成立とメンバーシップの再構成(河田純一)
 1 カテゴリー化と医療社会学の視点
 2 医療・政策における「AYA 世代」の成立過程
 3 カテゴリーの受容とアイデンティティの再構成――若年性がん患者会の事例から
 4 制度的再帰性のダイナミズム

コラム 自分(たち)のことを研究するということ
  ――当事者性と方法論の選択(河田純一)

第3章 がんゲノム医療の知識と患者会活動
 ――肺がん患者会でのフィールドワークから(齋藤公子)
 1 はじめに
 2 先行研究
 3 調査概要
 4 グループOでのフィールドワークから
 5 おわりに――「患者の知識」がやりとりされる患者会活動の意味とは

コラム セルフヘルプグループ研究とピアサポート論(齋藤公子)

第4章 保因者と医学的・遺伝学的知識
 ――保因者の思考と遺伝学的リスクの捉え方(木矢幸孝)
 1 保因者の経験をめぐって
 2 方  法
 3 保因者の経験――A さんの語り
 4 保因者の経験――B さんの語り
 5 「リスク論的思考」と「リスク/危険」概念にみる保因者の語り
 6 保因者が医学的・遺伝学的知識とともに生きるということ
 
コラム 身体・告知・出産からみる遺伝性の病い(木矢幸孝)

第Ⅱ部 医療・福祉的場面の相互行為
 第Ⅱ部 ナビゲーション

第5章 精神医学的知識との向き合い方
 ――精神科医による実践的推論に着目して(河村裕樹)
 1 精神医学的知識をめぐる諸課題
 2 精神科ケースカンファレンスの調査
 3 実践的推論を跡づける
 4 複数の見立ての並立を可能にする精神科医の実践的推論
 5 精神医学的知識との向き合い方を記述するために

コラム 病院フィールドワーク(河村裕樹)

第6章 多職種協働を対象とした研究のハイブリッド性と専門家のスキルの記述
 ――フライトナースのプレホスピタルケアの実践から(松永伸太朗・池谷のぞみ)
 1 フライトナースの実践から専門家の協働を考える
 2 プレホスピタルケアとフライトナースの実践
 3 ワーク(仕事)の記述とハイブリッド性
 4 プレホスピタルケアの実践的マネジメント
 5 OJT を通したスキル形成とハイブリッド研究

コラム ドクターヘリへの院内救急救命士の同乗事例(松永伸太朗・池谷のぞみ)

第7章 音楽療法の効果はどのように説明されるのか
 ――精神医療における音楽療法に着目して(吉川侑輝・河村裕樹)
 1 「効果」を説明することの難しさ
 2 説明実践への着目
 3 調査の概要
 4 音楽療法の効果はどのように説明されるのか
 5 異なる専門職同士の連携にむけて

コラム 音楽療法のなかの薄い記述、厚い記述
  ――セラピストたちへのインタビューから(吉川侑輝)

第8章 「マルチタスク」はどのように達成されたか
 ――科学技術研究所で働く発達障害者たち(海老田大五朗)
 1 問題の所在
 2 研究方法と研究対象
 3 協働作業の分析
 4 何が「マルチタスク」を可能にしたか
 5 マルチタスクを可能にするのは注意の分散というよりむしろ時間の管理である

コラム 障害者雇用のフィールドワーク(海老田大五朗)

あとがき
索  引