Allergy誌にアレルギー領域における患者・市民参画(PPIE)に関する論文が掲載されました(渡部・武藤)
2025/10/09
特任研究員の渡部です。Allergy誌に、アレルギー領域における患者・市民参画(PPIE:Patient and Public Involvement and Engagement)に関する論文が掲載されました。
英文タイトル:Exploring Patient and Public Involvement and Engagement in Allergy Research: Cross-Disease and Cross-Stakeholder Perspectives in Japan
タイトル和訳:アレルギー研究における患者・市民参画の探究:日本における疾患横断的・ステークホルダー横断的視点
著者名:Takeya Adachi, Saori Watanabe, Yu Kuwabara, Yuki Abe, Masaki Futamura, Takenori Inomata, Keima Ito, Meiko Kimura, Keiko Kan-o, Hanako Koguchi-Yoshioka, Yosuke Kurashima, Katsunori Masaki, Mayumi Matsunaga, Haruka Miki, Saeko Nakajima, Yuumi Nakamura, Masafumi Sakashita, Sakura Sato, Kyohei Takahashi, Masato Tamari, Takeshi Tsuda, Satoru Yonekura, Mayumi Tamari, Kaori Muto, Hideaki Morita
掲載紙:Allergy
掲載日:2025年9月18日
DOI: 10.1111/all.70064
URL: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/all.70064
慶應義塾大学と国立成育医療研究センターと共同で、東大医科研からプレスリリースが公表されておりますので併せてご覧ください。
近年、患者や市民が研究に主体的に参加する「患者・市民参画(Patient and Public Involvement and Engagement: PPIE)」の重要性が国際的に強調されています。双方向性の研究推進が可能になると、研究者にとっては研究開発を進める上での新たな視点と価値を発見することにつながったり、患者・市民にとっては負担の少ない実施体制につながり、最終的には社会が医療を育てることにもつながります。2024年に世界医師会が改訂したヘルシンキ宣言でも、医療研究における倫理的原則としてPPIEの推進が明記されました。
本研究は、日本におけるアレルギー領域のPPIEの現状を、がん・難病領域と比較することで初めて明らかにしました。全国の研究者(Principal Investigators: PIs)および患者団体(Patient Advocacy Groups: PAGs)を対象にアンケート調査を実施し、両者の意識や取り組みのギャップ、今後必要とされる支援策を検討しました。
調査の結果、アレルギー領域の患者団体は研究者との連携や参画の必要性を強く認識している一方で、研究者側ではPPIEの重要性を認識している割合が少なく、患者団体と研究者の間には「PPIEの必要性」に認識のギャップがあることが明らかになりました。また、アレルギー領域の研究者がPPIEの必要性を認識していた割合はがん・難病領域の研究者よりも低い傾向がありました。実際の研究者と患者団体の交流頻度についても、がん・難病領域と比較するとアレルギー領域の方が低い結果でした。
PPIEのためのニーズとしては、患者団体からは「患者・研究者双方の研修」「研究者と患者をつなぐコーディネーター」「成功事例やツールキットの整備」といった具体的なニーズが示されました。研究者からも「コーディネーターの存在が最も重要」との回答が多く、両者に共通した課題として認識されていました。一方で、PPIEに関連するデジタルツールの活用については患者団体の殆どが利用しているのに対し、研究者側の利用は限定的で、患者団体と研究者の間で大きな差がありました。
本研究で明らかになった患者・研究者双方へのPPIEに関する教育プログラムの提供、PPIEコーディネーターの育成、デジタルツールやPPIEの実施に関するガイドラインの開発など、アレルギー領域のPPIEを支える様々な基盤的ニーズの整備について、今後様々な取り組みや研究を通じて実現に資するよう尽力していきたいと考えています。
(渡部・武藤)