信濃毎日新聞コラム(16)「血液型 隠したいわけは」(武藤)

2012/02/27

◎サイエンスの小径(信濃毎日新聞2012年2月27日掲載)
▽血液型 隠したいわけは▽武藤香織


数年前、看護専門学校で講義をした時のことだ。アイデンティティー(自己の存在理由)と差別について考えるため、「自分の身分や性質を表す情報のなかで、人に知られたくない情報は何か」というテーマでグループ別に議論してもらったところ、複数のグループから「血液型を隠したい」という意見が出て、驚いた。B型の学生から、「彼氏には言っていない」「合コンではA型のふりをする」などという声も出てきた。

最近、東大の学生に聞いた時にも、「理不尽なB型差別に傷ついてきた」という学生がいた。「何をやっても『やっぱりB型だからだめなんだ』と言われるのに、A型の人は『さすがA型だね』と言われる」のだそうだ。どうも若い人たちの間で、B型の立ち位置は厳しいと認識されているらしい。
若者世代が中心に回答したいくつかの世論調査(いずれも2008年)を見ると、血液型による性格占いを「信じている」と回答した人は37%程度。B型の人は特に、血液型と性格に関係があると信じ、性格診断に関心があるとの結果もあった。また、異性と交際する際にも、趣味、職業、生年月日(年齢)に次いで血液型が重視されているのだという。

そもそも血液型とは、血液中の細胞が持っている、免疫反応を引き起こさせる物質(抗原)の違いをもとにした分類で、分類の仕方もいくつかある。その一つであるABO式血液型は、赤血球の表面にある抗原の種類によってに分類したものだ。だから、輸血の際には、抗原抗体反応(拒絶反応)を引き起こさないように、血液型を確認しておく必要がある。しかし、血液型と性格との関連に、何ら科学的な根拠はない。

そして、ABO式血液型の遺伝子は第9染色体にあり、血液型は遺伝情報でもある。就職活動で学生が提出する書類に血液型を記入させる企業も実在するが、血液型に基づいて採用の判断などが行われているとなれば、遺伝情報に基づく差別の可能性も疑われ、深刻な社会問題につながりうるところだ。
血液型による性格診断は、出版物をはじめさまざまなメディアで取り上げられ、現代日本社会の一つのコミュニケーションツールにもなっている。それだけに、偏見や差別につながらないかたちで扱われることを願いたい。

(東大医科学研究所准教授)(了)