Regenerative Therapy誌に、ヒト胚の14日を超える体外培養に関する体外受精・顕微授精経験者の態度に関する論文が掲載されました(木矢・渡部・武藤)

2024/09/24

特任研究員の木矢です。Regenerative Therapy誌に、ヒト胚の14日を超える体外培養に関する体外受精・顕微授精経験者の態度に関する論文が公開されました。

Yukitaka Kiya, Saori Watanabe, Kana Harada, Hideki Yui, Yoshimi Yashiro, Kaori Muto.
Attitudes of patients with IVF/ICSI toward human embryo in vitro culture beyond 14 days.
Regenerative Therapy. 2024. 26: 831-836. 
https://doi.org/10.1016/j.reth.2024.09.005

東大医科研からプレスリリースを出しましたので、論文とあわせてご覧下さい。

2021年5月、国際幹細胞学会(ISSCR)は「幹細胞研究・臨床応用に関するガイドライン」を改訂しました。この改訂により、ヒト胚の受精後14日以降もしくは原始線条の形成以降の体外培養を禁止する、いわゆる「14日ルール」は禁止項目から外されました。ISSCRはルールを緩和する場合、社会からの広い支持を求めていますが、研究用のヒト胚の提供を依頼されうる体外受精・顕微授精経験者が14日ルールの延長をどのように考えているのかは明らかではありませんでした。加えて、近年胚モデルを用いた医学研究も進展していますが、胚モデルに関する態度についても明らかにする必要性がありました。そこで、体外受精・顕微授精経験者を対象に、ヒト胚の14日を超える体外培養と胚モデルの研究利用をどのように評価しているのか、その理由を含めて明らかにしました。

体外受精・顕微授精経験者はヒト胚の14日を超える体外培養について全体的に肯定的に評価する傾向があり、その評価には6つの理由があることを明らかにしました。反対に、否定的な評価には2つの理由があることを示しました。

胚モデルの研究利用について、調査協力者の約7割が肯定的に評価していました。しかし、肯定的な評価をしている人の中でも、胚モデルに対する倫理的な抵抗感や胚モデルを用いた研究結果に対する不信感も語られており、肯定的な評価を下すからといって懸念がないわけではないことが示唆されました。

体外受精・顕微授精経験者はヒト胚の提供者になりうるだけでなく、再生医療や幹細胞研究の恩恵を受ける人びとでもあります。再生医療や幹細胞研究に関する「対話」において、体外受精・顕微授精経験者の関与も必要です。政府および科学コミュニティに対して、「対話」の前に医学研究についての十分な知識を提供する必要があること、胚モデルに対する抵抗感や不信感など多様な意見に耳を傾ける必要があること、体外受精・顕微授精経験者の心理的な安全を確保することが必要であること、体外受精・顕微授精経験者の肯定的な意見のみに基づいて14日ルールを早急に延長することは避けなければならないことを指摘しました。(文責・木矢)