Human Genome Variation誌に健康医療情報のクラウド・コンピューティングの研究利活用への市民意識調査の論文が掲載されました(武藤・楠瀬)

2023/04/17

後期博士課程の楠瀬です。

この度、医学研究へのクラウド・コンピューティングの利用とゲノム・データやパーソナル・ヘルス・レコード(個人の健康や医療に関する記録情報)の共有に関する一般市民を対象とした意識調査の結果をまとめた論文がHuman Genome Variation誌(オンライン/オープンアクセス)で公開されました。

Kusunose, M., Muto, K. Public attitudes toward cloud computing and willingness to share personal health records (PHRs) and genome data for health care research in Japan. Hum Genome Var 10, 11 (2023). https://doi.org/10.1038/s41439-023-00240-1

https://www.nature.com/articles/s41439-023-00240-1

健康医療ビッグデータなどの利活用の重要性が指摘されており、諸外国では全国規模の電子カルテシステムを連携させ、収集されたデータの保健分野や医療の改善への利用のほか、医学研究に利用する試みも行われていますが、失敗例も報告されています。他方クラウド・コンピューティング(以下、クラウド)の利用に関しても、利点とともに様々な問題点も指摘されています。

日本においてもデジタルヘルス改革のもと、パーソナル・ヘルス・レコード(個人の健康や医療に関する記録情報;以下、PHR)のクラウドによる共有や、医療・介護データの利活用に向けた整備が進められています。しかし、PHRデータの共有を求められる一般市民がどのように考えているのかに関する調査は殆ど見られません。

そこで2021年3月に医学研究へのクラウド・コンピューティングの利用とゲノム・データやPHRデータ共有への意向、そして、それらの意向にデジタルヘルスの基礎的リテラシーや商品やサービスと交換可能なポイント(以下、ポイント)などが与える影響について、一般市民を対象に意識調査を行い、5,830人(回答率20.4%)の方から回答をいただきました。

その結果、本人が特定されるような情報を取り除いたPHRデータ(カルテデータ、健康診断データ、遺伝子検査データ、スマートフォンの健康アプリデータ、ウェアラブルデバイスの健康データ)の医学研究への共有に対する懸念はデータの種類による差はなく、情報漏洩(≧55.5%) 、本人の知らないところでのデータ利用(≧50.4%)、情報の不正利用(≧48.8%)が上位の共通する懸念として抽出されました。また、本人が特定される情報を取り除いたデータを利用する場合であっても、遺伝子検査データでは約5割(49.5%)、その他の種類のデータではおよそ4割(≧38.5%)の回答者が、本人が特定されるのではないかとの懸念を抱いていることが分かりました。加えて、これらの懸念は、セキュリティなどクラウドのシステム的な問題とも重なることが分かりました。さらに医学研究へのデータ共有の意向は、デジタル・ヘルスに関する基礎的リテラシーと関連があり、ポイントによるインセンティブの影響は限定的である可能性が示唆されました。

クラウドを利用したゲノム研究においては、クラウド利用者(研究者)と研究参加者の構造的な脆弱性が生じている可能性もあり、これらの脆弱性克服のためにも患者市民参画が重要な役割を果たすことが期待されます。