Stem Cell Reports誌にヒト胚を14日以上培養する研究に関する意識調査の論文が掲載されました(武藤・井上・木矢・渡部)

2023/03/24

一般市民と科学者を対象とした、ヒト胚を14日以上培養する研究に関する意識調査の結果をまとめた論文がStem Cell Reports誌(オンライン版)で公開されました。

Hideki Yui, Kaori Muto, Yoshimi Yashiro, Saori Watanabe, Yukitaka Kiya, Kumiko Fujisawa, Kana Harada, Yusuke Inoue, Zentaro Yamagata.
Survey of Japanese researchers and the public regarding the culture of human embryos in vitro beyond 14 days
Stem Cell Reports, 23 March 2023(オンライン早期公開、オープンアクセス)

国際幹細胞学会(ISSCR: International Society for Stem Cell Research)は2021年に新たなガイドラインを発表し、ヒト胚の14日を超える期間の培養の容認に含みを持たせました。同学会の従来のガイドラインではヒト胚の14日を超える期間の培養は明確に禁止されていましたが(いわゆる「14日ルール」)、2021年のガイドラインでは禁止カテゴリーから除外されました。ISSCRガイドライン改訂にともなって、14日を超えるヒト胚の体外培養に関する議論が各国で徐々に始められつつあります。

私たちの研究グループは、日本の一般市民3000人と、幹細胞や胚関連の研究を行っている科学者535人に対してwebアンケートを実施し、14日を超える期間ヒト胚を培養する研究について、日本のルールでどう取り扱うべきか意見を訊ねました。

結果、一般市民の37.9%、科学者の46.2%がヒト胚の14日を超える期間の培養を日本のルールで「容認すべき」と答えました。その一方、一般市民の19.2%、科学者の24.5%が「禁止すべき」と回答しています。加えて、一般市民の42.9%、科学者の29.3%が「判断ができない」と回答しました。また、一般市民では設問内容の理解度が高いほど、「判断ができない」と比較し、日本のルールで「容認すべき」、あるいは、「禁止すべき」という回答が増える傾向にありました。一般市民は全体で見ると「判断ができない」と回答する割合が多いのが特徴ですが、一方で理解度を高めれば容認・禁止の価値判断ができる場合が増える事が結果から示唆されます。

14日ルールの議論は端緒についたばかりですが、意識調査の結果からは、今後様々な立場の人々の意見を適切に把握しつつ情報提供とコミュニュケーションを積み重ねていく必要性が示唆されます。その際、14日を超える期間の体外培養が人々に許容されるとしたら、次の培養可能期間の線引きをどこにするのか、また、質の高い国民的議論のために市民にどのような情報提供が必要なのか、などの点も合わせて検討していくことが大切だと考えています。

■詳しくは以下のプレスリリースもご覧ください。
ヒト胚を14日以上培養する研究についての意識調査