3月の公共政策セミナー

2023/03/08

3月の公共政策セミナーは以下のように行われました。

◆日時: 2023年3月8日(水)13:30~16:00ごろ
(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)
◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階
公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催
◆Web参加方法: 学内の方は、共有カレンダーのURLからご参加下さい。

 
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〈報告概要(敬称略・順不同)〉
◆報告1
報告者:河田 純一(公共政策研究分野 学術専門職員)

タイトル:新たな医療カテゴリーの成立によるメンバーシップの再構成:若年がん患者からAYA世代へ
要旨:AYA世代とは、Adolescent and Young Adult(思春期・若年成人)の頭文字をとったもので、主に、15歳から30歳代までの世代を指す。このAYA世代のがん対策は、2017年に策定された「第3期がん対策推進基本計画」において初めて明記された。現在では、AYA世代に対して医療者からのサポートだけでなく、AYA世代のがん経験者自身によるピアサポートも活発に行われている。本報告では、AYA世代という新たな医療カテゴリーが、その当事者たちの自己アイデンティティに埋め込まれた過程をA.ギデンズの再帰的自己論の視座から検討する。そのために、まず、このAYA世代というカテゴリーが、がん医療、そしてわが国のがん政策においてどのように成立したのかを確認する。次に、新たにAYA世代とカテゴライズされたがん経験者たちの言説に焦点を当てる。具体的には、若年性がん患者会の会報誌において、いつ、どのように「AYA世代」が用いられるようになったのかを分析した結果を報告する。
⇨指定発言:佐藤 桃子(大学院学際情報学府文化・人間情報学コース 博士後期課程)

◆報告2
報告者:鈴木 将平(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 臨床研究センター 特任研究員)

タイトル:常染色体潜性(劣性)遺伝病の〈保因者検査〉をめぐるELSI:近現代の人の移動とアイデンティティから
要旨:常染色体潜性(劣性)遺伝病(Autosomal Recessive Disease: ARD)は、同じ遺伝子変異を持っている非発症保因者同士が子どもをもうけた場合、4分の1の確率で重篤な疾患を発症する。ARDの非発症保因者を特定するために行われる遺伝学的検査は、海外ではキャリア・スクリーニング(Carrier Screening: CS)と呼ばれており、1970年代以降、地中海地域や北米などの多民族社会で、特定の民族に頻度の高い疾患を中心に実施されてきた。さらに近年では、一般人口の低リスク集団をも対象にした拡張キャリア・スクリーニング(Expanded Carrier Screening: ECS)の導入を検討している国もある。本報告では、こうした〈保因者検査〉の特質を、歴史的経緯や国際的な動向、先行研究のレビューをふまえて整理する。また、北米でCSの対象となった東欧系ユダヤ移民の背景、そして近年の遺伝学的検査に関する商業的言説をふまえ、中長期的な人の移動やアイデンティティの複数性という観点から、〈保因者検査〉および希少難治性疾患のELSIを論じる。
⇨指定発言:李 怡然(公共政策研究分野 助教)