Journal of Human Genetics誌に全ゲノム解析研究に関する意識調査の論文が掲載されました(李、河田、永井、武藤)

2022/12/23

助教の李です。全ゲノム解析研究に関するがん患者・がん患者の家族・市民の期待や懸念を明らかにした論文が公開されました。

Izen Ri, Junich Kawata, Akiko Nagai, Kaori Muto
Expectations, concerns, and attitudes regarding whole-genome sequencing studies: a survey of cancer patients, families, and the public in Japan
Journal of Human Genetics, 12 December 2022(オンライン早期公開、オープンアクセス)
https://doi.org/10.1038/s10038-022-01100-6

診断が困難な疾患の診断方法や新規治療法の開発を目指して、全ゲノム解析を行う研究が国際的に進められています。その対象となりうるがん患者やがん患者の家族の期待や懸念は、これまで日本で明らかにされていませんでした。

そこで、2021年3月にウェブ質問紙調査を実施し、がん患者1204名、がん患者の家族5958名、市民2915名の計10,077名から回答を得ました。

結果として、がん患者の全ゲノム解析研究に関する認知度は高くないものの、病気の診断や治療に有益であると期待をもっていました。他方で、がん患者とがん患者の家族は遺伝情報の保護に懸念を抱き、また、とくに家族は解析結果を知ることによる不安、遺伝性疾患がわかった場合に不利な取扱いを受ける可能性を心配していました。

国は現在、がんと難病の患者を対象に10万人規模の「全ゲノム解析等実行計画」を推進しています。全ゲノム解析では多様な疾患領域の結果が明らかになる可能性があり、長きにわかってフォローが必要となります。これに対応した研究参加者の相談・意思決定支援の体制や、遺伝的特徴・遺伝情報に基づく差別を防止する体制の整備が不可欠といえます。

この調査では20-30代の回答者数が限られており、また、調査時点からは少しずつ周知や啓発が進みつつあります。今後は、特に全ゲノム解析の成果が期待される希少難治性がんや、小児・AYA(Adolescent and Young Adult)世代のがん患者と家族の期待や懸念を継続的に把握し、意見を反映させる取組みが大切だと考えます。

■くわしくは以下のプレスリリースもご覧ください。

全ゲノム解析研究に関する意識調査 ―がん患者、家族、市民の期待と懸念は?―