アレルギーを考えるSci/Art Cafe(サイアートカフェ)報告

2009/07/13

2009年7月4日土曜日、近代医科学記念館にて、オーダーメイド医療実現化プロジェクト後援によるSci/Art Cafe(サイアートカフェ)が開催されました。ゲストには、玉利真由美さん(理化学研究所ゲノム医科学研究センター)と、栗山真理子さん(NPO法人アラジーポット)を迎え、『アレルギー:生活と研究の変遷』と題して、お話をして頂きました。

この日のイベントに集まったのは、医科研の学生や、近所の女子高生、アレルギーのお子さんをお持ちのお父さん、そしてなじみのおにぎり屋さんまで幅広い層の方15名。木目の美しい館内で、活発な質問をまじえながらのお話となりました。その中の一部をご紹介します。


<最近になって息子がそばアレルギーだとわかりました。アレルギーはどうしてなるのですか?>

【玉利さん】
アレルギーは、本当に、誰でもかかり得る病気です。アレルギーは、外から身体に入ってきたものを「敵」と見なして過剰に反応しまうことによっておこります。喘息を例にあげるとダニや大気汚染、タバコ等の環境以外に、特に最近ではウイルス感染との関係がとても重要であるということがわかってきています。身体がウイルス等の「敵」と戦っている時に、たまたま抗原となる物質が同じ場所すなわち気道を通り過ぎると、これも「敵」だと身体が覚えてしまう。そして一度覚えると、その物質が入るたびに攻撃してしまうようになる。ウイルス感染、大気汚染やタバコが火に油を注ぎます。体質に環境要因が重なり、スギ花粉など本来攻撃しなくてもいいような相手を攻撃してしまう誤爆のような状況がアレルギーだと思います。


<じゃあ、そもそも子どもをアトピーにしないための方法はないんでしょうか。何かあれば教えて下さい。>

【玉利さん】
私が考えているのは、とにかく自然にかえること、体を泥だらけにして、皮膚を丈夫に保つということです。アレルギー発症しくみの中では、環境に接する部分の細胞の働き非常に大事だということがわかってきています。ですから、共生菌を大切にして、少しでも皮膚に炎症おきたら適切に治療して初期消火して皮膚すなわちバリアを健やかに保つことがアレルギーの発症を防ぐことにつながると考えています。


<僕はアレルギーを治す方法を知りたいです。>

【玉利さん】
治ると言いきるのは難しいな、と最近感じています。体質の部分は不変であり、環境条件が揃うとまた症状が現れる可能性が否定できません。病気というのは過ぎたる時と及ばざる時におこる。この過ぎたる時や及ばざる時に適切に対処して、「初期消火」につとめるというのが、アレルギーの治療では大事だと思っています。

【栗山さん】
今は良い薬や治療法がたくさんありますから、それらをうまく使ってコントロールすることができます。私が子どもを育てた時には、病態も今のようには言われていませんでした。まだ子どもが小さかった時に、「ママ、僕は生きてるから苦しい、死ぬのかな?と思いながら死ぬんだよね。物だったら壊れるだけでよかったのに」と言ったのを聞いて、とてもショックをうけました。それ以来、寛解に向けて必要なことはとことん努力するという、子どもから見たらとても怖い親になりました。今のお母さんたちには、優しいお母さまのままで寛解を迎えてほしいとの思いもあって、患者さんにはガイドラインに基づいた治療の方法に関する情報を提供し、活動をしています。


<これからの研究によって、どんな風に治療は変わるのですか?>

玉利さん:
お医者さんの経験に基づく治療から、研究が明らかにしたアレルギーの「しくみ」に基づく治療へと変わってきています。治療法を選ぶときに役に立つような情報を世界に知らせていきたいと思っています。

栗山さん:
研究が進展して、今迄とはちがったことがいわれることもあります。私も喘息の治療でそんな体験をしました。その時、戸惑っている私に、お医者さんが「わかってくれよ。子どもたちのために何ができるかを、一生懸命考えてるんだ。今日知ったことは「儲けた」って思ってくれよ。」とおっしゃいました。研究が進んだ結果、治療が変わることは、成果だと思います。


<患者さんは日々の生活の一生懸命で、なかなか疾患に関する研究に触れる機会がないのでは。また基礎の研究者は患者さんの生活に対する想像力が足りないことがあるように思います。ここのところ、栗山さんと玉利さんのお考えを是非お聞きしたいです。>

【栗山さん】
研究というのは、患者さんその人に役立つというものではありませんから、お医者さんが研究について患者さんにお話するのは難しいようです。患者会が研究についてお知らせすることは、大事な役目だと思っています。

【玉利さん】
私は、中村祐輔プロジェクトリーダーに、常にベッドサイドを意識して(患者さんのことを忘れずに)研究を行うことが大切だと言われながら指導を受けてきたので、このことを研究する上で大事にしています。少なくとも、患者さんから頂いたサンプルを扱う研究者は、病院でサンプルを提供する患者さんの環境について知っていることが大切だと思います。


お二人の穏やかで説得力のあるお話に、「楽しかった」「満足した」という感想が多く聞かれる会となりました。公共政策研究分野では、今後も、こうしたイベントを通じて、医科学研究の今を医科学研究所から発信していきます。どうぞご期待下さい。