2021年第1回公共政策セミナー

2021/05/13

本日第1回公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。

◆日時:5月12日13時半~16時

発表者1: 渡部 沙織(東京大学医科学研究所 公共政策研究分野 特任研究員)
タイトル: 「希少・難治性疾患のELSIに関する質的研究」

要旨:

本報告では、今年度実施を予定している2つの質的調査について計画の概要を報告する。
(1)再生医療臨床研究への患者の協力における課題本研究の目的は、日本の患者支援団体が幹細胞を用いた再生医療の臨床研究に協力・参加する際に直面する課題や困難について、探索的な事例研究と質的分析を行うことである。日本では近年、iPS細胞を中心に幹細胞を用いた臨床研究・実用化研究が進められている(Tobita et al.2016; Lysaght 2017)。これらの臨床研究には主に希少疾患の患者が参加しており、希少疾患患者団体が被験者の募集や研究内容の啓発に協力するケースが増えている。本研究では、iPS細胞などの多能性幹細胞を用いた再生医療の臨床研究に協力している国内の複数の希少疾患患者団体を対象に、研究協力に際してどのような課題を認識しているのかに関して半構造化インタビューを行う。
(2)希少・難治性疾患のELSIに関する探索的研究本研究の目的は、希少・難治性疾患の患者を中心としたELSIに関して患者をとりまく多様なステークホルダーへのインタビュー調査を通じて、日本でのELSI課題や概念的探索を行うことである。国際的なRare Disease研究のコンソーシアムであるIRDiRCで組織されたワーキンググループでは、希少疾患領域のELSI課題を5つのカテゴリに分類している(Hartman et al. 2020). この分類を基にしながら、日本での具体的な課題について患者や関係者がどのような認識や概念を有しているかを探索的に検証するため、患者・家族、研究者、医療者、医薬品開発企業等、各ステークホルダーに半構造化インタビュー調査を実施する。

報告2: 河合 香織(大学院学際情報学府文化・人間情報学コース 修士課程)
タイトル: 「遺伝性疾患における結婚出産に関する助言のあり方の検討」

要旨:

遺伝学的特徴による結婚や出産をめぐる悩みは、患者・家族にとって切実な問題であることが、当事者の声から明らかになっている。しかし、十分に横断的に議論が尽くされているとは言い難い。1980年代から1990年代にかけては、遺伝性疾患の難病患者に向けた助言が掲載される『患者と家族のためのしおり』において、結婚や出産について可否判断にまで踏み込んだ主観的な記述が見られた。2000年代以降、遺伝カウンセリングが制度化された後に、専門家から当事者に向けて提供されている公開情報としては、「難病情報センター」が存在する。この「難病情報センター」の情報提供のなかから、遺伝に関わる疾患を抽出し、結婚や出産について可否判断をしているか、どのような助言がなされているかを分析した。それにより、医療従事者が遺伝性疾患の当事者の結婚や出産について、どのような情報提供をしているのかの現状を明らかにし、そのありようを検討する。