2020年第10回公共政策セミナー

2021/03/10

本日第10回公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。

◆日時:3月10日13時半~16時

発表者1: 北林 アキ(大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻博士後期課程)
タイトル: 患者・市民の視点を踏まえた医薬品情報の提供を実現するための課題の検討

要旨:

医薬品は、品目毎に厚生労働省の承認を受けて初めて製造販売できるようになる。しかし、承認前に得られる副作用等の情報は一般的に限られることから、承認後も引き続き情報収集することが、副作用の早期発見や適正使用のために重要である。収集する情報源として、これまで主であった製薬企業や医療従事者からの情報に加え、患者から寄せられる情報の利点が注目され始め、医薬品の安全な使用のために当該情報を規制当局の意思決定に活用する取組みが世界的にも進んできている。しかし、我が国におけるこうした取組みは、諸外国に比べて大きく後れを取っているのが現状である。そこで、我が国の現状の原因を探り、状況の改善策の提案に繋げるため、本研究では、①患者・市民からの情報収集、及び②患者・市民への情報発信の2つの要素について、文献調査及び調査研究(アンケート調査)により現状を調査していく予定である。本報告においては、調査研究の前段階として位置付け可能な別調査について、調査結果の取りまとめ(案)を共有したい。

発表者2: 飯田 寛(大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 博士後期課程)
タイトル: 労働分野でのゲノム情報の取扱いをめぐる諸課題に関する研究 -健康経営-

要旨:

諸外国では、遺伝的特徴に基づく差別を防止するという観点からゲノム情報を保険や労働で利用することは、米国での遺伝情報差別禁止法(GINA)(2008)のほか、近年ではカナダでの遺伝情報差別禁止法(2017)、中国での人類遺伝資源管理条例(2019)などのように原則として禁止している国がある。一方、日本では法規制は存在しない。労働分野で事業者が扱う情報に関連する規定としては、厚生労働省が定めた「雇用管理に関する個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項」(2015)や「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」(2018)といったガイドラインが存在する。その内容は、事業者に対して、労働者の健康確保措置の実施や安全配慮義務の範囲を超えた健康情報の収集を制限し、労働者が健康情報の取扱いに同意しないことをもって不利益を与えないこととされており、特段の罰則が設けられているわけではない。また、遺伝的特徴に関する情報については、「色覚検査等の遺伝性疾患に関する情報については、職業上の特別な必要性がある場合を除き、事業者は労働者等から取得するべきではない」とのみ述べられている(高柳2014)。今後、ゲノム医療が普及することにより、遺伝学的検査の結果などのゲノム情報が労働者自身や労働者の主治医等から産業医あるいは健康保険組合に提供される機会が増加する可能性があるが、事業者と産業医、健康組合がどのような問題意識を持っているか、ゲノム情報の利用実態などは明らかでない。本報告では、労働分野での健康情報の活用事例として「健康経営」という概念を紹介する。また、米国の状況も踏まえつつ、労働分野でのゲノム情報を含んだ健康情報の取扱いの意義と課題について報告する。