2020年第9回公共政策セミナー

2021/03/03

本日第9回公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。

◆日時:3月3日13時半~16時頃

発表者1: 楠瀬 まゆみ(大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻博士後期課程)
タイトル: 研究へのパーソナル・データの提供とベネフィット・シェアリングに関する意識調査(案)の紹介

要旨:

科学技術の研究や発展に貢献した人々は、その利益を共有するべき(ought to)であると述べ、科学的進歩の貢献者と利益を共有しない場合、その進歩は搾取である(Arnason & Schroeder, 2013)。研究分野における研究参加者との利益共有の議論は比較的新しく、あまり議論が深まっていない。他方、情報が資本的価値を持つようになり、個人に金銭や便益を提供する代わりにパーソナル・データやゲノムデータを収集し利活用し、収益を上げることが可能になった。例えば、レセプトデータや健診データなどが売買の対象となり、企業等が患者等の個人から得られたデータを活用して利潤を得ても、データ提供者とその利益が共有されることは稀である。そこで、研究へのゲノムデータやパーソナルデータの有償/無償提供やベネフィット・シェアリングに関する一般市民の態度を明らかにすることを目的にアンケート調査を計画している。本発表においては、ベネフィットと支払いに対する先行研究などを概観し、調査票(案)について紹介する。

発表者2: 李 怡然(東京大学医科学研究所 公共政策研究分野 助教)
タイトル: がんの網羅的ゲノム解析における倫理的課題の検討に向けて

要旨:

近年、多様な疾患において、次世代シーケンサー(NGS)を活用し全エクソン領域または全ゲノム領域を網羅的に解析することで、ゲノム情報に基づく創薬やゲノム医療の実現が目指されている。がんは技術革新が著しい分野の一つであり、今般、日本においても、がんや難治性疾患の患者を対象に大規模な全ゲノム解析を実施する研究が開始され、データベースを構築することで、新たな診断や治療法の開発につなげるなど、臨床への応用が期待されている。同時に、こうした網羅的ゲノム解析を伴う研究・医療では、解析対象者の意向確認や結果返却の方針、二次的所見の取り扱いなど、検討すべき事項も多く存在する。そこで、本報告では、がんの網羅的ゲノム解析に関連した諸課題について、主に海外における先行研究や事例を紹介しつつ、基本的な論点の整理を試みたい。