2020年第4回公共政策セミナー

2020/09/09

本日第4回公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。

◆日時:9月9日13時半~16時頃

発表者1: 内山正登(東京大学医科学研究所 公共政策研究分野 客員研究員)
タイトル: ヒト受精胚へのゲノム編集に関する一般市民の議論への企画に向けて- ヒト受精胚のゲノム編集の研究利用および臨床利用のあり方に関する意識調査 -

要旨:

ヒト受精胚へのゲノム編集の利用に関する議論は、専門家だけでなく多様なステークホルダーによる幅広い議論の必要性が指摘されている。ヒト異常胚のゲノム編集を行った研究の発表や、ゲノム編集された受精卵から誕生した双子の女児に関する報道等を受けて、一般市民を対象とした様々な意識調査が行われているが、受精胚の研究利用に関する調査や一般市民・患者・医師の異なるステークホルダーに対して同じ調査項目による調査は行われていない。そこで、2019年には一般市民を対象とした受精胚の研究利用に関する調査を実施し、2020年に一般市民・患者・医師の異なるステークホルダーに対して同じ調査項目による調査を計画している。2019年の調査では、一般市民を対象として受精胚に関する認識や受精胚の研究利用の許容性などの調査を行なった。また、令和2年度厚生労働科学特別研究事業では、生殖細胞系列へのゲノム編集の臨床応用に関する、一般市民・患者・医師の異なるステークホルダーの態度を明らかにする意識調査を行なう。調査にあたって、調査対象者の意見形成を支援する教育資材として、ゲノム編集の技術の理解、リスク-ベネフィット評価、ELSIに関する啓発動画の作成を行なった。これらの意識調査の結果や教育資材の開発を通して、ヒト受精胚へのゲノム編集に関する一般市民の議論への参画に向けた課題について共有する。

発表者2: 楠瀬まゆみ(大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻博士後期課程)
タイトル: 研究におけるデータ主体への支払いとベネフィット・シェアリング

要旨:

正義の原理に基づけば、科学技術研究やその発展で得られた利益は、それに貢献した人々とともに共有するべき(oughtto)であり、科学的進歩の貢献者と利益を共有しない場合それらの進歩は搾取である、との指摘がある。この議論は、ベネフィット・シェアリング(利益共有)と呼ばれ、主に発展途上国や先住民族の遺伝資源等から得られる利益の配分に関して語られてきた。他方、医科学研究において研究参加者との利益共有の議論はあまりなされてこなかった。特に試料・情報のみを用いた研究の多くは、研究参加者の利他主義や無償原則に依存してきた。しかし、"data is the new oil."のスローガンのもと、パーソナル・データやゲノムデータを収集し、利活用し、収益を上げることが可能となり、情報の資本的価値が高まっている。そして、場合によっては、個人のヘルスケアデータやゲノムデータが、データ主体の知らないことろで利益を得るために売買されることがある。そこで本発表では、研究に利用されるデータに特に注目し、これまでヒト対象研究においてなされてきた研究参加者への支払いの議論を参照しつつ、研究を目的としたデータの収集と利活用のためのデータ主体への支払いの是非について、ベネフィット・シェアリングの視点から検討を行う。