2020年第3回公共政策セミナー

2020/07/08

本日第3回公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。

◆日時:7月8日13時半~15時40分頃

発表者1: 高嶋 佳代(大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻博士後期課程)
タイトル: 患者対象のFIH試験における倫理的課題の検討

要旨:

治療法の開発において初めて人を対象とする、いわゆるFirst in Human(FIH)試験では、治療法の安全性を確認することが主な目的となる。
一般的な薬剤の臨床試験ではFIH試験が健康な成人を対象とするのに対して、その治療法の特性によりFIH試験の対象が患者である場合、リスクベネフィットのバランスの検討はより複雑となる。なかでも、がん等のような生命に直結する疾患にくらべ、他に治療法がないが重篤ではない疾患での患者対象FIH試験については、そのリスクベネフィットバランスの検討が容易ではないと考えられるが、検討は殆ど為されていない。そこで本研究では、患者を対象としたFIH試験について理論研究を行い、その上でFIH試験に参加する患者やステークホルダーによる質的調査を行う予定である。今回は、主に質的調査に関する準備状況についての報告を行う。

報告2: 須田 拓実(大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻修士課程)
タイトル: コロナ禍における公衆衛生上の措置と外国人労働者

要旨:

外国人の社会権の考え方や保障の範囲に関する論争は以前から見られ、国保と外国人の関係について国の制度の文言をめぐる裁判もあった。その背景には、在留資格の有無やその種類によって、労働資格や社会保障制度の利用に関する制約を受けやすいという要因がある。今回のコロナ禍では、職場の閉鎖・倒産に伴い在留資格を失った外国人労働者に向けて、既存の枠組みを例外的に流用することで、在留資格を延長し就労や社会保障制度の利用を可能にする取組が見られた。しかし、外国人労働者を想定したこのような措置は、日本人を想定した議論や対応より遅れていた。公的サービスの閉鎖に伴い「言語の壁」による問題も生じたと思われるが、コロナ禍での外国人労働者の医療へのアクセス状況や、感染の発生状況はあまり公になっていない。

今回のコロナ感染症の流行を踏まえて、以下の二点に特に注目している。ひとつは、外国人労働者を受け入れている職場の労働環境である。例えば、平時においても技能実習生のいる事業場の約70%で労働基準関係法令違反が見られ、健康診断や寄宿舎の安全基準に関する違反事項も含まれる。そのような環境下では、平時でも起こり得る課題に加え、外国人労働者の感染が疑われる場合の診断へのアクセスが担保されていたか疑問が残る。また、感染者に外国人労働者が含まれる場合の情報共有・公表に関しても、外国人であるが故の課題が浮上したのではないかと考えている。ふたつは、外国との人の行き来を再開する際、「労働力の確保」と「感染症対策」を如何に両立していくかという点である。感染症の水際対策として、外国人労働者に来日前の結核検査や健康診断が義務付けられてきたように、コロナ感染症が引き続き問題になる中で、どのような形で海外から労働者を受け入れていくかを検討する必要がある。本発表では、以上の問題意識と、それらに関する調査の暫定的な方向性を共有したい。