『社会志林』に「非発症保因者の経験」に関する論文が掲載されました(木矢)

2020/02/19

特任研究員の木矢です。

このたび、『社会志林』に非発症保因者に関する以下の論文が掲載されました。

木矢幸孝
非発症保因者の積み重ねてきた経験
――恋愛・結婚・出産の語りをめぐって
『社会志林』第66巻第3号, 195-217.(2019.12)

遺伝/ゲノム医療における技術の進展は、確定診断・出生前診断・非発症保因者診断等といった医療技術を可能にし、私たちに遺伝学的リスクを考慮する「生」を歩ませています。今後、人々は遺伝学的リスクとますます向き合うことになると考えられますが、実際に遺伝学的リスクによってどのような課題や問題が浮上するのでしょうか。

これまでの研究では、遺伝学的リスクを有する個人の葛藤や苦悩が主として検討されてきました。ただ、個人の生における一時点の諸問題を取り上げることが多く、遺伝学的リスクに対する問題意識の移り変わりとその帰結が明らかではありませんでした。

そこで本稿では、遺伝学的リスクを有する個人、「非発症保因者」(以下、保因者と略記)に焦点を当て、10代に告知を受けてから30代で結婚するまでの時期における「恋愛・結婚・出産」の観点から保因者一人の経験を詳細に検討しました。

結果、保因者は遺伝学的リスクに悩みながらも試行錯誤し、アイデンティティを再構築していることが分かりました。同時に、遺伝学的リスクに対して結婚や出産を諦める位置から結婚し出産を意識するところまで変化があることが明らかになりました。

本稿では、アイデンティティの再構築や遺伝学的リスクに対する捉え方の変化を詳しく把握することはできましたが、一人の事例の検討にとどまっています。今後はより普遍性のある議論に接続していければと考えています。