2019年第6回公共政策セミナー

2019/11/13

本日第6回公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。

◆日時:11月13日10時~12時半頃

発表者1: 高嶋佳代(大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻博士後期課程)
タイトル: 患者対象のFIH試験における倫理的課題の検討

要旨:

治療法開発において初めて人を対象とするFirst in Human(FIH)試験では、安全性を確認することが主な目的となる。しかしながら、一般的な薬理試験でのFIH試験が健康な成人を対象とするのに対して、FIH試験の対象が患者である場合、リスクベネフィットのバランスを検討するのは容易ではない。その理由として、患者が対象となるFIH試験の場合、他に(標準)治療法がない場合があり、安全性のみならず、ある程度の治療的効果を期待することを一概に否定できないことが挙げられる。そこで本研究では、患者を対象として初めて試みる医療行為としてのFIH試験について理論研究を行い、その上でFIH試験に参加する患者自身の意識に着目して、患者自身によるリスクベネフィットの考え方や、FIH試験の意義などを考察したい。今回は、先月参加させて頂いたASBH(American Society for Bioethics and Humanities)で得た知識なども含めて研究の進捗に関する発表を行う。

発表者2: 飯田寛(大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻博士後期課程)
タイトル: 修士課程と博士課程の研究の状況

要旨:

修士課程で研究した「日本における生命保険と発症前遺伝学的検査をめぐる諸課題の検討」について、その後の学会誌への投稿状況等について報告する。博士課程においては労働分野におけるゲノム情報の取扱いに着目している。労働者の高齢化や少子化による労働者の減少の観点から事業者は労働者が健康で長く働くことを求めている。また、労働者もより長く働くことを望んでいる。この観点から労働者の職場の安全衛生や労働者の健康を管理する産業医の役割は今後益々重要である。一方で今般、ゲノム医療が本格的に開始されており、これにより自身のゲノム情報に接する労働者が今後増大することが予想される。事業者によるゲノム情報の利用は労働者に不利な帰結を生むとの懸念から、諸外国では法的な規制が設けられている(厚生労働科学特別研究2016)。また、事業者と雇用関係にある専属産業医の勧告権の行使には限界があるとの指摘もある(藤野2013)。そのようななか、2018年に労働安全衛生法が改正され、事業者による労働者の健康情報の取扱は、労働者の健康確保に必要な範囲に限られることがあらためて確認されるとともに、事業者には労働者の健康情報等の取扱規定整備を求めている。しかし、政省令においてゲノム情報への特別な言及はなく、産業医や健康保険組合がゲノム情報を取扱う可能性に関する議論が不十分である。そこで、博士課程の研究では特にゲノム情報の利用可能性がある治療と仕事の両立支援、健康増進、安全衛生という産業医と健康保険組合が関連する3つの領域で事業者の責務と労働者の不当な取扱いの間にどのような問題が起こっているのかの具体的な実態を把握し、労働分野を射程にしたゲノム情報の諸課題を整理する。