第10回公共政策セミナー

2017/01/11

本日、2016年度、第10回目の公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。

◆日時:2017年1月11日(水) 13時30分~16時00分

発表者1: 李怡然(大学院学際情報学府 文化・人間情報学コース 博士課程)
タイトル: 遺伝性疾患をもつ患者・家族の子へのリスクの告知

要旨:

常染色体優性遺伝の遺伝性疾患は、子に50%の確率で遺伝する病気であり、患者・家族はスティグマや遺伝差別の恐れに直面してきた歴史がある。子にリスクの告知=病気について伝えることは、将来の遺伝子検査の受検、就職・結婚・出産など人生のさまざまな選択を行う上での出発点となるが、親は子への告知に困難を抱えるとされている。国外では早期の告知が推奨され、親の告知の選択や、告知を促進/阻害する要因について考察がなされてきた。しかし、親の語り方と、子の受け止め方や行動に与える影響の考察は十分でなく、日本における研究は極めて少ない。本研究は、遺伝性疾患をもつ患者・家族へのインタビュー調査を通して、親の子への告知の態度と語り方、子にとっての受け止め方や作用を明らかにすることで、日本における告知の現状と課題を検討することを目的とする。

発表者2: 吉田幸恵(東京大学医科学研究所公共政策研究分野 特任研究員)
タイトル: がん患者にとっての臨床試験参加の意味——患者インタビューから

要旨:

臨床試験は(治験を含む)、新たな医療開発や適応拡大のために実施される行為であり、患者本人のための治療とは異なります。しかしながら、患者(試験参加候補者)は試験を自分のための治療だと思い込んでしまうことが多々あり、それを「治療との誤解」 (therapeutic_misconception)と呼び、この状態は倫理上避けるべきであるとして、試験実施側はこの状態が生じてしまわぬようICの際に丁寧でわかりやすい説明努力をおこなっています。わたしたちは臨床試験関与経験のある患者へのインタビューを実施し、治療の現場で実施される臨床試験において、治療と試験(研究)の区別は困難であり、ICの場は説明に納得し参加するかどうかを判断する場ではなく、あくまで手続きの場として作用しているという実態があることを明らかにしていますが(「臨床薬理」採択済)、このようななか、説明自体理解し、臨床試験の本質を理解してはいるものの、それでも治療として参加を決める患者が多くいることも明らかになりました。今回は特にそのような状態であった、がん患者(13名)の語りから、臨床試験のなかでがん患者が置かれた状況を明らかにするとともに、がん患者にとっての臨床試験参加の意味を考えたいと思います。