2016年度第5回公共政策セミナー

2016/09/28

本日、2016年度、第5回目の公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。

◆日時:2016年9月28日(水) 13時00分~16時00分

発表者1: 神里彩子(東京大学医科学研究所研究倫理支援室/公共政策研究分野 特任准教授)
タイトル: 動物性集合胚をめぐる倫理的・法的・社会的課題(ELSI)と現状

要旨:

特定の臓器を作れないように遺伝子操作した動物胚にヒトの多能性幹細胞を注入して「ヒトと動物のキメラ胚(動物性集合胚)」を作製する研究が、医科研の研究者を中心に行われています。この研究の最終的なゴールは、動物性集合胚を動物胎内に移植してヒトの臓器を持つ動物個体を産出し、以て、移植用臓器不足の解消につなげることです。しかしながら、我が国では、「特定胚指針」により、動物性集合胚を動物の胎内に移植することは禁じられています。そのため、研究者からの要望を受けて、同指針の改正についての検討が開始され、2013年には生命倫理専門調査会が規制緩和の方針を示す「動物性集合胚を用いた研究の取扱いについて」を公表しました。これを受けて文部科学省では、科学的観点、倫理的・社会的観点から指針改正についての検討が進められています。本セミナー報告では、動物性集合胚等に関する海外の規制状況や動向、また、日本の規制状況と今後の課題等を紹介させていただき、今後の在り方について皆さんと考えていきたいと思います。

発表者2: 高島響子(東京大学医科学研究所公共政策研究分野 特任研究員)
タイトル: Ethical concerns on sharing WES/WGS data of patients' relatives in cancer genome research

要旨:

がんは遺伝子の異常によって起きる疾患であり、その解明や診断・治療法開発のために、患者の試料を用いたゲノム研究が数多く実施されている。とりわけ近年、次世代シークエンサーを用いた全ゲノム・エクソームを対象とする網羅的解析が盛んだ。このようながんゲノム研究においては、患者のゲノムデータと比較するために、患者家系員のゲノムデータの解析が重要な場合がある。遺伝研究・家系研究では古くより、患者のみならずその家族に対する研究上の配慮や倫理的問題が指摘され検討されてきた。しかし今、これまでにはなかった新たな課題として、研究で用いたゲノムデータのデータベースへの公開、他者との共有が家族に与える影響があげられる。研究資源の有効活用、研究重複の回避、透明性・トレーサビリティ・再現性の保証等を目的に、研究で得られた/使用されたデータをデータベースで公開し共有する動きが国際的に加速している。家族性疾患のような症例数は少ない研究では、データを共有することで解析にたえうる一定の対象者数を確保しより頑強なエビデンスを得るための研究が可能となる。全ゲノム・エクソームデータもその例外ではない。ゲノムデータの公開・共有における研究対象者への配慮については様々に指摘され措置がなされてきたが、これまでのそうした議論において、家系員のデータ公開に触れらてれてはいない。本稿では、研究で用いられた家系員の全ゲノム・エクソームデータを公開・共有する際に配慮すべき倫理的課題を指摘し、対処法を提案する。