意識調査の結果がCell Stem Cell誌に掲載されました(井上)

2016/08/20

動物の受精卵に人の細胞を組み込み、体の一部が生まれつき人間由来の細胞で構成される動物を産生する ― 現在、一部の研究者によってこのような手法が検討されています。この技術によって、人の臓器の発達を生体内に近い形で観察できたり、慢性的に不足する移植用の臓器を動物に作ってもらったりすることが可能になるかもしれません。大きな可能性がある一方で、人々がこうした活動についてどのように感じるか、実証的な調査がこれまでほとんどなされてきませんでした。

私たちは一般市民の方、日本再生医療学会の会員の方々の協力を得て、これら両群を比較できる追跡調査を行いました。結果は、人々の間にこの種の活動への慎重論が根強く存在することを示すものでした。こうした姿勢は、一般の方々による再生医療への支持の高さ、研究協力意欲の高さとは大きく異なっていました。また、同じ設問への日本再生医療学会の会員の方々の反応とも対照的な結果でした。

活動がたとえ科学・医療にとって有望なものであるとしても、研究開発の長い道のりをたどるうえで、こうした意識や認識の違いは研究者にとって大きな不安定要因となるはずです。現在、日本では上記の活動に従来課されてきた多くの制限を見直す議論が始まっていますが、制度論とは別に、粘り強く、誠実な情報発信に努めるなど、人々の懸念を特定し、少しでも認識の違いを埋めるための取り組みが科学者コミュニティに一層求められるでしょう。

Inoue Y, Shineha R, Yashiro Y. Current public support for human-animal chimera research in Japan is limited, despite high levels of scientific approval. Cell Stem Cell. 2016;19(2):152-3.
http://www.cell.com/cell-stem-cell/abstract/S1934-5909(16)30206-5