生殖補助医療における子への真実告知に関する論文が掲載されました(李)

2016/02/25

2016年1月31日に公刊された『保健医療社会学論集』26巻2号に下記の論文が掲載されました。

「配偶子提供で生まれる子への真実告知とインフォームド・アセント―不妊カウンセラーへのインタビューより―」(李怡然・武藤香織)

精子提供や卵子提供などの配偶子提供で生まれる子どもの「出自を知る権利」の保障とともに、その出発点となる真実告知(truth telling=親から子に伝えること)が重要とされてきています。国内では、真実告知は当事者家族の問題として任されてきた傾向がありますが、医療従事者や他の専門職との協働によって、中長期的に支援が可能となるのではないか、という論点で執筆しました。

卒業論文で実施した不妊カウンセラーへのインタビューデータをもとに、子への真実告知についての意識や経験に焦点を当てて再分析した結果を考察しました。
一般的に不妊カウンセラーは親となる不妊当事者カップルの支援を中心に想定されていますが、子の出生後まで想定したカップルの共同意思決定を促し、出生後も真実告知に携わる役割として期待できることが示唆されました。
小児科医療・研究では「インフォームド・アセント」(informed assent)という概念があり、医療者や研究者に対し、子に医療行為を分かりやすく説明した上で了承を得る、という努力義務があります。そこで真実告知においてもこの概念を援用し、治療に関わった医療従事者の協力も得て、親と子のカウンセリングや支援の整備につなげられるのではないか、という提案を述べました。

もちろん、これは現段階での展望であって、実際にどのような支援の形が可能となるのかは、これからの探求課題だなと思っています。
そして、「親から子にどう伝えるか」という課題は、生殖補助医療に限らず、養子縁組、出生コホート研究、遺伝性疾患...など家族にまつわる多くのテーマに関わってきます。修士論文では、出生コホート研究における告知をテーマとし、その過程で、生殖補助医療と似ている点も異なる点もあることが分かり、インフォームド・アセントという本稿で核となる論点に気付くことができました。どの問題も、当事者や家族の思いもさまざまあるだけに、簡単に「伝える/伝えない」だけでは片付けられないと思います。今回の考察をもとに、これからも考えを深めていきたいと考えています。

最後になりますが、この場を借りてインタビューにご協力下さったカウンセラーの皆様に、改めまして厚く御礼申し上げます。