神里 彩子・武藤 香織 編集 『医学・生命科学の研究倫理ハンドブック』(東京大学出版会)を上梓しました(神里)
2015/10/21
近年、度重なる研究不正の発覚を通して「研究倫理」が社会的に注目されています。
そして、研究不正の再発防止策として研究倫理教育の重要性が叫ばれ、研究倫理に関する研修やe-learning等の受講が公的研究費申請条件にもなりました。
一昔前は、「面倒臭い、研究を妨げるもの」として研究者から嫌われ者だった研究倫理。それが、ここ1~2年で急に株を上げ、今や研究者が異口同音に「大切!重要!」と言っています。
でも、なぜ大切であり、重要なのでしょうか?
「科研費申請に必要だから....」、心の中でそうつぶやく研究者は残念ながら多い気がします。
何のために研究倫理を学ぶ必要があるのか、この点への理解がなければ研修や講義はただただつまらない時間になってしまいます。
公共政策研究分野では、研究倫理に関する研究を進めるとともに、さまざまな大学や研究機関での講義、また、研究者への研修にも数多く携わってきました。特に東京大学大学院創成科学研究科においては、科目「研究倫理・医療倫理」を毎年担当させていただき、未来の医学・生命科学を担う学生に話をする機会を得てきました。
そうした中、医学・生命科学研究分野の学生や若手研究者が「研究倫理」に対してマイナスなイメージを抱くことなく、「研究倫理」と仲良く付いながら研究できるように導くことがとても大切であると気づきました。仲良くお付き合いするには、まず相手のことを知らなければなりません。そこで、「研究倫理」に関する基本的な知識と感覚を学生や若手研究者に身につけてもらえる教科書を作りたい、そんな思いで作ったのが本書です。
本書は3部構成になっています。第1部「人を対象とする医学・生命科学研究に関する倫理の基礎知識」では、研究倫理が誕生した歴史や、研究に人体試料を用いる場合の倫理的取り扱い、研究対象者(被験者)からのインフォームド・コンセントの取得方法、また、日本における人を対象とした研究の倫理的ルールの枠組みなど、研究倫理の「いろは」について解説しました。
第2部「研究領域特有の倫理」は、応用編として、ゲノム医学研究や調査研究、臨床試験、幹細胞研究、脳神経科学研究といったそれぞれの研究領域に固有の倫理的配慮事項について、また、動物実験における倫理を紹介しています。
そして、第3部「研究者としての倫理」では、実験が終了した後に研究者がとるべき行動や適正な研究発表、研究活動の信頼性を得るための行動など、研究者として行うべき倫理的行動について学べるようにしました。
また、それぞれのレクチャーには、関連する事柄をコラムとして入れています。
「研究倫理はなぜ重要なのか?」、このハンドブックを読んでいただければ、きっと答えが見つかるはずです。全編口語体にしていますので、手軽に読んでいただけると思います。
また、研究者以外の方にも、研究倫理とはどういうものかを知るのにお役立ていただければ幸いです。
東京大学出版会の住田様の多大なるご支援・ご助言がなければ、本書の誕生はあり得ませんでした。この場を借りて厚く御礼申し上げます。本当にありがとうございました!