2015年度第5回公共政策セミナー

2015/10/07

本日、2015年度、第5回目の公共政策セミナーが開かれました。
内容は以下の通りです。

◆日時:2015年10月7日(水) 10時00分~12時30分

発表者: 高島響子(医科学研究所 特任研究員)
タイトル: 家族性疾患登録および研究における家系員への倫理的配慮

概要:

【目的】
家族性(遺伝性)疾患では、疾患のメカニズムや関連する遺伝情報を明らかにするために、患者(以下、発端者)に加えて、症状が出現していない血縁者(以下、家系員)も対象とし、ゲノムを幅広く探索するとともに、長期にわたって疾患の発症状況等の情報を追跡する研究が重要である。国際的には、複数の疾患において家系員登録が日本よりも先行して構築されてきた。近年、国内でも家族性アルツハイマー病や遺伝性乳癌・卵巣がん症候群、家族性膵腫瘍等において登録制度の構築が進んでいる。しかし、家族性疾患に配慮した長期追跡に関する倫理的課題の抽出と対応は十分ではない。そこで本報告では、国内外の研究倫理指針を踏まえながら、対象者の選定から登録過程、追跡研究の実施中に渡って生じうる倫理的問題について検討し、研究者に求められる対応を考察する。

【方法】
文献的検討及び国内の事例検討をおこなった。

【結果】
登録対象の家系員は、一般集団よりも高い確率で将来疾患を発症する可能性があり、登録過程を通じて自身の疾患リスクを知る可能性があるという点で通常の研究対象者よりも脆弱性を有した存在といえる。したがって、登録参加のインフォームド・コンセントを得る前にまず、登録対象となった理由と連絡方法について研究者から(場合によっては発端者を介して)情報提供される必要がある。とりわけ疾患によって「家族性」といっても遺伝形式や浸透率が異なる場合があることから、対象登録制度における「家族性」の意味を明確にすることが重要である。追跡期間中では、研究開始時には未知であったゲノム医学上の知見が明らかになる場合の個人の遺伝情報の取扱い、家系員に疾患が発症した場合の対処が重要と考えられた。

【考察】
研究者は、家族性疾患の家系員が有する脆弱性、個々の対象疾患および登録制度の特徴、追跡期間が長期に渡ることに配慮し対応方法を検討することが求められる。

発表者: 李 怡然(大学院学際情報学府 文化・人間情報学コース 修士課程2年)
タイトル: 子を対象とする医学系研究の告知とアセント―出生コホート研究を事例に―

概要:

近年、環境が小児の健康と発達に与える影響への関心から、親子を長期的に追跡する出生コホート研究と呼ばれる観察研究が世界的な規模で実施されている。出生前に親が子の研究参加に同意するため、成長後にいつ・どうようにして子本人の意思確認(インフォームド・アセント)を行うかが倫理的な課題の一つとして指摘されてきた。しかし、先行研究ではアセントの前提として子に研究参加の事実を知らせる告知の段階については十分考察に至っていない。そこで本研究では、研究参加者の親と研究に携わる専門家がもつ告知の意図やその差異を明らかにするために、インタビュー調査を実施した。今回のセミナー発表では、研究参加者を対象とした構造化面接・半構造化面接および専門家を対象とした半構造化面接について、結果の中間報告を行う。