「生命科学研究における成果発表」に関する論文が掲載されました(神里)

2013/10/30

このたび、日本生命倫理学会誌『生命倫理』に下記の拙稿が掲載されました。

神里彩子「生命科学研究における成果発表の意義とその規制の許容性についての一考察-2011~2012年H5N1型インフルエンザウイルス研究論文問題を題材として」生命倫理通巻24号、105-114頁(2013年9月)

2012年上半期、H5N1型インフルエンザウイルスがフェレット間において伝播可能であることを報告する論文2本がNature誌とScience誌に掲載されました。これら2本の論文の掲載については、アメリカ保健福祉省が研究方法の詳細について論文から削除すること等を勧告したため、科学界のみならず社会的な議論を巻き起こしました。2本の論文のうちの1本が日本人研究者チームによるものであったので、記憶されている方も多いと思います。
最終的に両論文は全文公開という形で掲載されるに至りましたが、その議論の過程を見てみると、「デュアル・ユース」「テロ対策」という面からの議論ばかりで、「生命科学研究における成果発表の意義や価値」からの検討が全くなされていないことに気がつきます。この点に疑問を感じて執筆したのが本稿です。
本稿では、まず、上記2本のH5N1型インフルエンザウイルス研究論文の発表を巡る議論を振り返りながら、そこから見えた問題点を整理しました。その上で、生命科学研究における成果発表には、「科学研究の自由」、「表現の自由」、「科学者の責務」、「生命科学研究の意義」から導き出される意義・価値が内在していることを明らかにし、そこから、その規制はこれらの意義・価値を上回る必要性がなければならないことを論じています。
生命科学研究の成果「発表」に関する規制についての議論は世界的に見ても蓄積されておらず、「どのような場合に規制が認められるのか」、「誰が・どこが規制するべきか」、「どのような規制方法が妥当か」等についての本格的な議論はなされていないように思います。荒削りではありますが、本稿を第一歩とし、今後もこの点に関する研究を進めて行きたいと思っています。