The Relationship between Media Consumption and Health-Related Anxieties after the Fukushima Daiichi Nuclear Disaster (武藤)

2013/08/20

2011年6~7月に、福島県相馬市・南相馬市の放射線量の異なる地区の12か所で、南相馬市立総合病院の坪倉正治医師が放射能と健康に関する説明会を実施していました。その説明会参加者に対して、説明会の前後に協力していただいた質問紙調査のデータをまとめたものが、ようやくPlos Oneに掲載されました! 以下のURLで全文読んでいただけます(英語)。

論文に仕上げた立役者は、当時、国際保健学専攻修士課程に在籍していた杉本亜美奈さん、野村周平さん、助教のスチュアート・ギルモアさんです。当時、メディカルゲノム専攻修士課程の大学院生だった佐藤未来子さんと私は、調査票の設計、データの集計作業等に関わりました。

Sugimoto A, Nomura S, Tsubokura M, Matsumura T, Muto K, Mikiko Sato, Stuart Gilmour (2013) The Relationship between Media Consumption and Health-Related Anxieties after the Fukushima Daiichi Nuclear Disaster. PLoS ONE 8(8): e65331. doi:10.1371/journal.pone.0065331

この論文の前身となる基本集計については、科学技術社会論学会第10回年次研究大会(京都大学)にて、佐藤未来子、武藤香織「浜通りにおける放射線説明会の意義と課題」として報告を行いました。

この報告では、
(1)説明会前後に参加者に質問紙を行ったところ、説明会後は軒並み不安軽減につながっていたこと
(2)説明会で提供しなかった情報以外にも市民の不安軽減に寄与する副次的な効果をもっていたことと
(3)不安軽減の効果は不安の種類に応じて異なっていたこと
(4)報道接触頻度が高い集団で不安度の高かった人の割合は、報道接触頻度の低い集団に比べて15%高かったこと
等を報告しました。

さらに詳しく分析したこの論文では、因子分析によって不安の種類を3つに分類し(放射能による健康への不安、将来の生活への不安、社会生活破たん(social disruption)への不安)、日ごろ接触する情報源(メディア)の種類による不安の持ち方の違いを明らかにしました。たとえば、噂を重要な情報源としている人は、放射能の健康不安をより強く持ちやすく、地方紙を読む人は全国紙を読む人に比べ、将来の生活への不安がより強い、ラジオを聴く人は社会生活破たんへの不安がより強い、といった関連です。

もっとも、このデータの限界としては、調査票が放射能と健康講演会に拘束されるために生じる外的信頼性の問題、SNSについては聞いてないこと、長期的な追跡はできていないこと、女性と高齢者が多いというバイアス等、いろいろとあります。

しかし、東日本大震災から3か月後、事故の影響や規模が未知数の段階で獲得した貴重なデータです。この時期の住民の不安の声を集めたデータは存在しないのではないかと思います。今後、リスク・コミュニケーションやメディア研究の専門家らとも連携して考察を深めることによって、このデータの意味が深められるとともに、今後の同様の事故におけるメディア対応の一助になればと思う次第です。