聖路加看護大学との自主ゼミ(院生室より)

2011/07/29

はじめまして。修士1年の佐藤未来子です。
新しく「院生室より」をカテゴリに追加しました。
研究室でのイベント、大学院生活の様子などについて、今後気ままに発信していきたいと思います。

さっそくですが、イベントの報告をさせていただきます。
2011年7月8日(金)に、聖路加看護大学大学院で看護学を専攻されている学生さんと、「遺伝学的検査と遺伝医学研究の未来を考える」というテーマの交流会がありました。参加者は看護学の学生さん7名、公共政策の学生2名、医科研の学生1名で、先生方も合わせて12名で行われました。交流会の流れは大まかに、バイオバンク・ジャパンに関する話題提供(武藤先生)→バイオバンク・ジャパンの見学→全ゲノムシークエンスに関する話題提供(荒内さん:博士課程2年)→ディスカッション、という感じで行われました。

今回、臨床遺伝学の授業を履修されている看護学専攻の学生さんたちと公共政策の学生が交流するのは初めてのことで、たくさんの刺激をいただきました。刺激を受けた一番の理由は、看護の学生さんが、今まで自分にはなかったような「視点」を沢山持っていたからだと思います。たとえばバイオバンクを見学した後の感想を比べてみても、実験系の研究室で育った私は、「この多くのサンプルは患者さんの期待の量であり、研究者はこのサンプルを当たり前に存在するものと思って使ってはいけない」と感じたのに比べ、臨床側の視点で学んでいる看護学専攻の学生さんは、「あの(サンプルの)量の多さ、それがすべて『人間の一部』だと思うと、なにか図として違和感があり、それが衝撃的だった」と感じられたそうです。同じ場所で同じものを見ているのに、立場が違うだけで感じることもこれだけちがうのかと、非常に興味深く思いました。(※ちなみに写真は、バイオバンクの血清タンクを見学している時の皆さんの様子です。)

また、ディスカッション(議題:「あらゆる人が遺伝医療に関与する時代における看護とは」)の際にも、看護学専攻の学生さんたちから様々な視点の「遺伝子診断に対する意見」を聞かせていただきました。印象に残ったのは、既に6年間の看護師経験を持つ学生さんからいただいた、「出生前診断を受ける患者さんへの対応と、(出生前診断によって中絶されうる疾患の)患者会の対応を両立させることに、矛盾を感じる」というご意見です。このご意見によって、看護師さんにこういった葛藤があることに、はじめて気づかされました。他にも、「ヒトゲノム解析技術の99.9%の精度をより100%に近づけることは、研究者のスペシャリティ。それぞれの分野の人が自分のスペシャリティを高めつつ、定期的に皆で集まって議論を重ねることが大事だと思う」という意見もいただきました。これまで、「研究成果は一般の人にも分かりやすく説明されるべきもの」ということにとらわれ続けてきた私にとって、「スペシャリティを尊重したい」という一言はすごく意外性があり、研究者が果たすべき責務とは一体何か、改めて考えさせられてしまいました。

ディスカッションの終盤では、聖路加看護大学大学院の有森直子先生がこんなことをおっしゃいました。
「(遺伝看護の文脈では、)遺伝性疾患を抱える患者さんを『治療する』というのは、必ずしも医学的な治療だけを指すわけではない。」
この言葉も非常にインパクトのある言葉でした。大学時代、最先端の医学研究に憧れを抱き続けてきた私ですが、『治療する』とは一体どういうことなのか、もっと幅広く考えたいと感じるようになりました。

この交流会を通じて、たくさんの刺激をいただき、あらゆる分野の人々と交流を持つことの大切さをおしえてもらいました。自分以外の視点というのは、自分一人ではなかなか得られないものだと思うので、このような貴重な機会を与えてくださった武藤先生に感謝しております。また、暑い中足を運んでくださった聖路加看護大学の皆さま、ほんとうにありがとうございました。今後も是非またこのような機会を設けられるように私たちも積極的に企画提案したいと思います。


報告は以上です!