2024年12月の公共政策セミナーは、以下の通り、行いました。
◆日時: 2024年12月11日(水)13:30~15:00ごろ
(1報告、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)
◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階
公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催
◆報告1
報告者:李 怡然(公共政策研究分野 准教授)
タイトル:配偶子バンクのグローバルな展開と家族形成を考える
要旨:ドナーによる配偶子(精子・卵子)提供は、日本では婚姻関係にある男女の不妊治療の一環として医療行為として行われてきた。それに対し、諸外国では民間または公的な大規模な配偶子バンクの運営により、国境を超えたグローバルな配偶子提供が実施され、ヘテロセクシュアルのカップルに限定しない家族形成に開かれるとともに、倫理的・法制度的側面での課題も指摘される。日本ではこれまで配偶子バンクは構築されてこなかったが、近年は海外の配偶子バンクの利用やSNS等を介した個人間の提供も広がりを見せつつある。本報告では、北欧・米国を中心に配偶子バンクの状況やその諸課題を整理するとともに、今般成立が見込まれる「特定生殖補助医療法案」が、日本の今後の生殖補助医療の利用と家族形成を与えうる影響を考えたい。
⇨指定発言:三村 恭子(公共政策研究分野 学術専門職員)
2024年10月の公共政策セミナーは、以下の通り、行われました。
◆日時: 2024年11月13日(水)13:30~16:00ごろ
(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)
◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階
公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催
****************
〈報告概要(敬称略・順不同)〉
◆報告1
報告者:河田 純一(公共政策研究分野 特任研究員)
タイトル:双方向バイオバンクプロジェクトにおけるPPI活動の報告
要旨:バイオバンク・ジャパン(BBJ)は、研究参加者とBBJの間で、相互に情報をやりとりするオンライン上のプラットフォームを構築し、運用する「バイオバンク・ジャパン登録者を対象とした双方向バイオバンクプロジェクト」を開始した。本計画では、ICプロセスにおいても医療機関でのタブレットを用いたICなど、電磁的な仕組みを取り入れている。しかし、対象者の年齢層が高いこと、BBJに登録してから本研究へのリクルートまでの期間が長いことが課題となった。このため、ICプロセスやそこで用いる資材の作成過程に、患者・市民の視点を取り入れ、よりよいICとすることを主な目的とした患者・市民参画(PPI)の取り組みを導入した。本報告では、BBJでの新たなIC取得&ICFに関するPPI活動の実施プロセスについて、その成果と課題を検討し報告する。
⇨指定発言:胡 錦程(学際情報学府 修士課程)
◆報告2
報告者:渡部 沙織(公共政策研究分野 特任研究員)
タイトル:患者・市民参画(PPI)によるELSIの検討〜①難病の全ゲノム解析へのPPI・②医療・福祉アーカイブズとPAB〜
要旨:本報告では、研究への患者・市民参画(PPI)の実践を通じて得られたELSIの示唆について、2つの事例について共有したい。
①厚生労働省が推進する「全ゲノム解析等実行計画」では、これまでにない規模で難病とがんの患者・家族の全ゲノム解析を実施し、データベースを構築し、創薬や診断技術等の研究開発に活用することを目指している。また、事業の推進に際して生じるELSI(倫理的法的社会的課題)への対応と患者・市民参画(PPI)の実装を事業計画に明文化し、2025年度の事業実施組織の設立に向けて様々な取り組みが行われてきた。報告者らは難病の全ゲノム解析とゲノム医療の推進に際して、ICF(説明同意文書)と倫理的課題の検討のプロセスで、2022年より難病の患者・家族協力を得てPPIの実践を行なってきた。これまでのPPI活動を通じて明らかになった難病の全ゲノム解析の倫理的配慮の課題を報告する。
②過去のヘルスケア施策に関する倫理的課題の検証において、医療・福祉に関する資料の保管と利活用をめぐる課題はその進展の大きな障壁となってきた。過去に医療機関や福祉施設等が作成した資料や記録の保管と利活用については、公文書管理の枠組みを除いては日本では明確なルールの体系が存在せず、法令や指針が定める保管期限を過ぎた資料や記録は破棄されたり散逸していく現状がある。患者・市民にとって家族や祖先の情報が含まれる可能性があるアーカイブズをどのように公共的に利活用していくべきかについて、患者・市民アドバイザリーボード(PAB)を通じて患者・家族・当事者の視点を取り入れながら倫理的課題を焦点化していく試みを試行的に行っており、本報告ではこれまでの取り組みの背景と経過について報告する。
⇨指定発言:武藤 香織(公共政策研究分野 教授)
2024年10月の公共政策セミナーは、以下の通り、行われました。
◆日時: 2024年10月9日(水)13:30~16:00ごろ
(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)
◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階
公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催
****************
〈報告概要(敬称略・順不同)〉
◆報告1
報告者:松山 涼子(新領域創成科学研究科 博士後期課程)
タイトル:(仮)子どもを対象とした患者・市民参画についての文献調査
要旨:患者・市民参画(Patient and Public Involvement: PPI)は、研究参加者の権利保護と適切な研究の推進において、研究倫理の観点から重要な役割を果たす。これまでは主に成人を対象に実施されてきたが、国連の「子どもの権利条約」に基づき、子どもを対象としたPPIの実践を推進する動きも進展している。また、PPIは主に臨床研究で行われることが多いが、本研究では観察研究および出生コホート研究に焦点を当てて調査を実施した。本報告では、博士論文に向けた文献調査の暫定結果を紹介する。
⇨指定発言:李 怡然(公共政策研究分野 准教授)
◆報告2
報告者:武藤 香織(公共政策研究分野 教授)
タイトル:最近の取り組みから頭を冷やして考える
要旨:当研究室で進めている取り組みや個人として関わっている研究活動について、少し頭を整理して共有する時間としたい。
(後日、更新予定)
⇨指定発言:河田 純一(公共政策研究分野 特任研究員)
2024年3月まで当研究室で勤務されていた、亀山純子さん(筑波大学人文社会系哲学・
Junko Kameyama, Satoshi Kodera, Yusuke Inoue
Ethical, legal, and social issues (ELSI) and reporting guidelines of AI research in healthcare. PLOS Digital Health September 19, 2024
本研究は、東京大学医学部附属病院の小寺聡医師との共同研究です。
この論文では、「社会や患者との連携に関するガイドライン作成者の取り組み」と「ガイドラインの限界と研究者の主体的な取り組みの必要性」の、大きく2つの論点を抽出しました。それらを考察し、今後も医療AIが人々に支えられて発展していくためには、報告ガイドラインの継続的な見直しが不可欠となること。また、次のステップとして、ガイドライン間の調和を図り、報告ガイドラインを臨床面におけるAIの実践に関する議論と結びつけることが重要であると結論づけています。
ここへ至るには、研究に携わる他の皆さんと同様に、見たこともない難解な専門用語群を調べ、長短様々な形式で書かれている論文の内容の整理に頭を悩ませ、ヒントになりそうな関連文献を日々漁りました。とりわけ、ガイドラインの開発者との専門的立場の違いから、自身の解釈方法の妥当性と整合性をはかることが最大の難関であったかもしれません。そういった作業の中で、医療AIをとりまく研究開発の速度と複雑性に、現在のAI研究開発に向けたガイドライン・ガイダンスは、必ずしも追いついてはいない。ということを強く感じました。このことを実感できたことは、次の取り組みに向けて大きな学びの1つであったと考えています。
執筆から実に1年以上の月日を要しました。諦めかけ、その度に井上先生に助けていただきました。研究の成果を論文にて公刊することができ、本当によかったです。本当にありがとうございました。(文責・亀山)
シャロン・テリーさんの来日にあわせて、10/
イベント告知ページはこちら:https://peatix.com/event/4145620/view
----
シャロン・テリーが語る 研究への患者参画の歩みとこれから
トークイベントホスト:武藤 香織(東京大学医科学研究所公共政策研究分野 教授)
日時:2024年10月14日(祝・月)18:30〜19:45ごろ
開催方法:Zoom ウェビナー、逐次日本語通訳あり
対象:患者・家族の方、患者・市民参画(PPI)に関心がある市民の方、どなたでも無料でご参加頂けます
申し込みフォーム:以下のURLからお申し込み下さい(10/14 正午〆切)
https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_u4-BCX0eRKuVMNz0W5vN7w
*当日、申し込みフォームにお寄せ頂いたご質問の中からピックアップしてシャロンさんにご回答頂きます
〜シャロン・テリーさんの紹介〜
患者・家族の研究への参画に関わる関係者にとって、シャロン・テリーさんは象徴的な存在です。1994年に自身の2人の子どもが遺伝性疾患である弾性線維性仮性黄色腫(PXE)と診断されたことをきっかけに、PXEインターナショナルを創設し、研究者や当局と協力しながらPXEの研究開発を推進してきました。
また、Genetic Alliance など1990年代〜現在まで希少疾患や遺伝性疾患のペイシェント・エンゲージメント(患者参画)を国際的に牽引してきた様々な患者・家族擁護団体に関わり、2008年に米国で制定された遺伝子差別禁止法(GINA)のアドボカシーを行った Coalition for Genetic Fairness の議長や、米国医学アカデミーの委員など挙げきれないほど数多くの活動を患者家族の立場から果たしてきました。
今回、シャロン・テリーさんが国際会議のために来日されるのを機に、患者家族や市民の方々向けのトークイベント(ウェビナー)を開催する事になりました。シャロン・テリーさんのこれまでの経験と、患者参画のこれからについて語って頂きます。短い時間ではありますが、大変貴重な機会ですのでぜひご参加下さい!
主催:東京大学医科学研究所 公共政策研究分野
共催:厚生労働行政推進調査事業費補助金(難治性疾患政策研究事業)革新的技術を用いた難病の医療提供体制推進に関する研究、AMEDゲノム医療実現バイオバンク利活用プログラム「ゲノム医療・研究への患者・市民参画(PPI)推進およびリテラシー向上のための基盤整備」
特任研究員の木矢です。Regenerative Therapy誌に、ヒト胚の14日を超える体外培養に関する体外受精・顕微授精経験者の態度に関する論文が公開されました。
Yukitaka Kiya, Saori Watanabe, Kana Harada, Hideki Yui, Yoshimi Yashiro, Kaori Muto.
Attitudes of patients with IVF/ICSI toward human embryo in vitro culture beyond 14 days.
Regenerative Therapy. 2024. 26: 831-836.
https://doi.org/10.1016/j.reth.2024.09.005
東大医科研からプレスリリースを出しましたので、論文とあわせてご覧下さい。
2021年5月、国際幹細胞学会(ISSCR)は「幹細胞研究・臨床応用に関するガイドライン」を改訂しました。この改訂により、ヒト胚の受精後14日以降もしくは原始線条の形成以降の体外培養を禁止する、いわゆる「14日ルール」は禁止項目から外されました。ISSCRはルールを緩和する場合、社会からの広い支持を求めていますが、研究用のヒト胚の提供を依頼されうる体外受精・顕微授精経験者が14日ルールの延長をどのように考えているのかは明らかではありませんでした。加えて、近年胚モデルを用いた医学研究も進展していますが、胚モデルに関する態度についても明らかにする必要性がありました。そこで、体外受精・顕微授精経験者を対象に、ヒト胚の14日を超える体外培養と胚モデルの研究利用をどのように評価しているのか、その理由を含めて明らかにしました。
体外受精・顕微授精経験者はヒト胚の14日を超える体外培養について全体的に肯定的に評価する傾向があり、その評価には6つの理由があることを明らかにしました。反対に、否定的な評価には2つの理由があることを示しました。
胚モデルの研究利用について、調査協力者の約7割が肯定的に評価していました。しかし、肯定的な評価をしている人の中でも、胚モデルに対する倫理的な抵抗感や胚モデルを用いた研究結果に対する不信感も語られており、肯定的な評価を下すからといって懸念がないわけではないことが示唆されました。
体外受精・顕微授精経験者はヒト胚の提供者になりうるだけでなく、再生医療や幹細胞研究の恩恵を受ける人びとでもあります。再生医療や幹細胞研究に関する「対話」において、体外受精・顕微授精経験者の関与も必要です。政府および科学コミュニティに対して、「対話」の前に医学研究についての十分な知識を提供する必要があること、胚モデルに対する抵抗感や不信感など多様な意見に耳を傾ける必要があること、体外受精・顕微授精経験者の心理的な安全を確保することが必要であること、体外受精・顕微授精経験者の肯定的な意見のみに基づいて14日ルールを早急に延長することは避けなければならないことを指摘しました。(文責・木矢)
2024年9月の公共政策セミナーが、以下の通り、行われました。
◆日時: 2024年9月11日(水)13:30~16:00ごろ
(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)
◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階
公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催
****************
〈報告概要(敬称略・順不同)〉
◆報告1
報告者:楠瀬 まゆみ(新領域創成科学研究科 博士後期課程)
タイトル:医学研究での利益共有に関する倫理的・法的・社会的課題―データ集約型研究を手掛かりに
要旨:人を対象とする医学系研究においては、研究参加者や研究参加コミュニティへの利益の共有や提供は、研究への不当な誘引や被験者保護の観点から控えられる傾向にある。他方、国際的に実施される医学系研究で、特に開発途上国において実施される研究では、利益共有の問題は中心的な議論の一つであった。
博士課程では、先行して議論の蓄積がある「先進国による開発途上国における研究」や「国際的なヒトゲノム研究」等での「利益共有(benefit sharing)」の概念を参考にし、非侵襲・非介入の低リスクのデータ集約型研究を手掛かりに、「先進国で実施される先進国の人々を対象とする医学系研究」における研究参加者や研究参加コミュニティとの利益共有の実践に向け、以下の問題を明らかにすることに取り組んだ。
1) 先進国で実施される医学系研究における利益共有とは何か。共有されるべき利益とは何か。
2) 市民は、研究機関や企業が、研究開発のためにデータを提供した研究参加者と、何らかの利益の共有を行うべきであると考えているのか。また、どのような利益の共有を期待しているのか。
3)日本の人を対象とする医学系研究において、研究参加者や研究参加コミュニティとの研究利益の共有を始めるには、どのようにすれば良いか。
本発表では、博士論文の概要について報告を行いたい。
⇨指定発言:松山 涼子(新領域創成科学研究科 博士後期課程)
◆報告2
報告者:島﨑 美空(新領域創成科学研究科 博士後期課程)
タイトル:出生前検査である胎児超音波検査に関する経験:経産婦へのFGIより
要旨:日本では、妊婦健診において定期的に提供される通常超音波検査とは別に、出生前検査として提供される胎児超音波検査がある。日本産科婦人科学会•日本産科婦人科学会医会が2023年に改訂した「産婦人科診療ガイドライン産科編」では、胎児超音波検査は特定の先天性遺伝性疾患の非確定検査であるとともに、形態異常の確定検査でもあると記載されている。これまで、同じく先天性遺伝性疾患の非確定検査であるNIPTを中心に、検査の倫理的課題が議論され、その課題に配慮した情報提供やIC、意思決定支援のあり方が示されてきた。これを参考にしながらも、胎児超音波検査については、確定検査の側面や、治療につながると言った性質があり、その特性を考慮した検査のあり方を検討する必要がある。そのためには、まず胎児超音波検査前から診断後の一連の流れの中で、どのような経験がされ、課題があるのかを妊婦、医療従事者の双方の視点から理解することが必要である。本発表では、昨年度末に行った経産婦へのFGIの結果と、発表者の博士論文の構想を共有する。
⇨指定発言:渡部 沙織(公共政策研究分野 特任研究員)
博士課程の佐藤です。Asian Bioethics Reviewに、ゲノム研究のデータの多様性に関する論文が掲載されました。
Sato, M., Muto, K., Momozawa, Y, and Joly Y. (Not So) Lost in Translation: Considering the GA4GH Diversity in Datasets Policy in the Japanese Context. Asian Bioethics Review (2024). https://doi.org/10.1007/s41649-024-00305-5
近年、ゲノム情報を利用した病気の診断や治療を誰でも受けられるよう、その基盤になるゲノム研究の対象者も一部の人に偏らせずに、様々な人々に参加してもらおう、という動きがあります。
これに対し、ゲノムデータ利用の国際的な枠組みを作っているGA4GH (Global Alliance for Genomics and Health) という団体が、それぞれの科学者がどのようにこの動きを実践していけばよいか、というガイドを発表しました。
この論文は、そのガイドが、日本でどのように適用できるかということを検討したものです。もちろんGA4GHが想定する「様々な人々」と日本社会の「様々な人々」は、重なる部分も当てはまらない部分もありますが、日本でも社会的な背景を踏まえて検討し続けることが重要だと考えます。
本研究はGA4GHのガイド策定に関わったカナダMcGill大学のYann Joly先生との共同研究です。昨年のカナダ滞在の成果を出せて嬉しく思っております。
なお、この論文はオープンアクセスでどなたでも閲覧できます。こちらからご確認ください。
こんにちは。2024年度からお世話になっております、村上と申します。院生ブログ初投稿です。よろしくお願いいたします。
先日、麻布十番の「Asian Cuisine A.O.C.」というお店にて、2024年度上期納会が行われました。アジア各国のいいとこ取りをしたような料理をおいしく味わいながら、夏にまつわるトークテーマのくじを行い、皆の近況や意外な過去の話で盛り上がりました。
普段はなかなかゆっくりとお話しすることができないので、皆様のお人柄を知ることができたり、共通の話題を見つけられたりと、非常に有意義な会でした。武藤研にお世話になってから、研究室の雰囲気の温かさやモチベーションの高さに驚いていたのですが、本当に前向きで温かな研究室だということが再認識できました。
当日は夕方からゲリラ豪雨に見舞われましたが、納会が終わる頃にはすっかり雨も上がり、心晴れやかな上期の締めくくりとなりました。
武藤研では年3回の懇親会が設けられており、次回の懇親会は年末を予定しています。次の懇親会を楽しみに、私はこれから本格的に研究に励みます。
M1 村上
こんにちは。D6の楠瀬です。
2024年8月3日に東京大学医科学研究所で、恒例の「医療イノベーションコース サマーフェスタ 2024」に参加してきました。サマーフェスタと言えば、音楽の祭典のように聞こえますが、このフェスタは新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻医療イノベーションコースに在籍の皆さんの研究発表会です。
同フェスタでは、武藤研究室の他に、加納慎吾先生と野島正寛先生の研究室の学生の方々が、研究の内容や進捗について発表するとともに、多角的な視点から質問やコメントをいただける貴重な機会となっています。また、懇親会もあるので、先生方や学生の方々と直接お話しができる良い交流の場ともなっています。
今年は武藤研究室からは、松山涼子さん、島﨑美空さん、そして楠瀬の3名が発表の機会をいただきました。
いつもとは違う研究分野の皆さんからコメントを頂けることで、新たな視点を得ることができたり、自分の研究がどのように受け止められるのかを知ることができたりと、大変有益な会でした。今回が最後の参加となりますが、このような機会を作ってくださった先生方に心から感謝申し上げます。
こんにちは。D5の佐藤です。
2024年7月31日の院生ゼミにて、藤田医科大学の藤井亮輔先生にお越しいただき、「ポリジェニックリスクスコア(PRS)の科学的な発展と将来への展望」というタイトルでご講演いただきました。
ポリジェニックリスクスコアとは、単体では影響は小さいが多く集まることで疾患や形質に影響を及ぼすような、膨大な遺伝子の違いが個人に与えるリスクや傾向を、高い精度でスコア化したものを指します。
ゲノム研究に触れているとよく聞く言葉ではあるのですが、私自身もきちんと説明できるわけではないため、今回基礎からご説明いただくことができ、非常に有意義な機会となりました。
また、最後にはポリジェニックリスクスコアの限界や展望についてもご講演いただいたため、今後の動向を理解するに当たり、とても勉強になりました。
藤井先生、お忙しいところご講演いただきありがとうございました!
李です。博士学位論文をもとにした書籍を刊行いたしました。
李怡然. 2024. 遺伝について家族と話す―遺伝性乳がん卵巣がん症候群のリスク告知. ナカニシヤ出版.
本書は、遺伝性のがんのリスクについて家族内でどのようなコミュニケーションが行われているか、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の患者・家族へのインタビュー調査をもとに、その多様なあり方に迫ろうとしたものです。
がんは環境要因と遺伝要因が複雑に組み合わさることで生じる病気ですが、その一部は、生まれつきの遺伝子の変化が大きく関与するとわかっています。予防や治療など何らかの行動(action)につながる疾患の情報は、医学的に「対処可能」(actionable)とみなされ、当事者が遺伝学的検査を受けてリスクを知り、さらには血縁者にも情報共有することが期待されるようになりました。HBOCはその代表例として知られています。
そこで、HBOCの診断を受けた、あるいはその可能性がある患者さんとご家族が、遺伝に関するリスクをどう受け止め、いつ、誰に、どのように伝えようとするのかを明らかにしました。
親から子へ、子以外の家族・親族へ伝える上で、生じる葛藤や困難さは異なっていました。医学的な「対処可能性」は、確かに判断する際の重要な要素にはなっていたものの、実際には各々が遺伝学的検査や診療を受けた過程の経験、重視する価値観、相手との関係性によって、コミュニケーションはずっと複雑となりえます。
この先は、病気になる前から将来の発症リスクを予測することが、もっと当たり前の時代になっていくと予想されます。「知る」こと、対処できることが増えることが、私たちの生き方に何をもたらすのか、という問いかけも込めたつもりです。
貴重な経験を語って下さった調査協力者の皆様、多くの関係者のご尽力あって成果としてまとめられたことに、心より感謝申し上げます。
【追記】本学教員による著作の紹介サイトUtokyo BiblioPlazaでも、学術成果刊行助成による支援を受けた著作としてご紹介をしています。
◆本の目次:
まえがき
用語集
<第Ⅰ部 遺伝性疾患について知る/知らないでいること、伝えること>
第1章 家族内での遺伝をめぐるコミュニケーション
1 遺伝性のがんについて家族と情報共有することはなぜ重要視されているのか
2 本書のテーマと問い
第2章 遺伝/ゲノム医療の専門職の規範はどう変わってきたか
1 「知らないでいる権利」を尊重する規範の成立
2 対処可能性に基づく「知る」ことの推奨と規範のゆらぎ
3 日本におけるがんゲノム医療の課題:二次的所見をどう取り扱うか
4 血縁者との情報共有のガイドライン
5 小 括
Column1 遺伝/ゲノム医療に関わる専門職
第3章 患者・家族の「告知」をめぐる先行研究
1 遺伝性疾患の家族内のコミュニケーションに関する研究
2 「告知」という研究枠組み
3 本書における調査課題と対象の設定
Column2 医療者は患者の同意なく血縁者に告知してよいのか
<第Ⅱ部 HBOC患者と家族へのインタビュー調査>
第4章 調査の対象と概要
1 遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)とは何か
2 調査の目的
3 調査方法
4 調査結果の章構成
第5章 遺伝学的検査とリスク低減手術にまつわる意思決定
1 調査協力者の属性
2 遺伝学的検査の受検に至るまで
3 検査結果を「知る」ことのインパクト
4 遺伝学的検査を受検しない理由
5 リスク低減手術の意思決定
6 小 括
第6章 親から子へのリスク告知
1 調査協力者の属性
2 遺伝について伝えるステップと役割の認識
3 遺伝について伝える:子の発症前検査への態度に着目して
4 遺伝について伝えない
5 遺伝について伝えられた子の受け止め
6 小 括
第7章 血縁者・親族へのリスク告知
1 調査協力者の属性
2 伝えることへの責任感
3 伝えることに伴うジレンマ
4 小 括
第8章 リスク告知のパターンと多様な価値観
1 遺伝性疾患のリスク告知のモデル
2 告知の意思決定に関わる要素
3 告知の困難さと乗り越える戦略
4 親としての子の結婚・出産への気がかり
5 家族内のピアとして子を支える
6 医療者の告知における関わりの限定と可能性
第9章 ゲノム医療の時代を生きる当事者=私たち
1 臨床の実践や支援への示唆
2 予測・予防が求められる社会の「リスク告知」
あとがき
Abstract
2024年7月の公共政策セミナーが、以下の通り、行われました。
◆日時: 2024年7月10日(水)13:30~
(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)
◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階
公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催
****************
〈報告概要(敬称略・順不同)〉
◆報告1
報告者:佐藤 桃子(公共政策研究分野 学際情報学府博士後期課程)
タイトル:日本における先住民族を対象とした科学研究の倫理的課題 :研究をめぐる言説に着目して
要旨:2019年12月、北海道アイヌ協会と日本人類学会、日本文化人類学会、日本考古学協会は「アイヌ民族に関する研究倫理指針(案)」を公表した。この指針案はまだ完成していないものの、日本で最初のエスニックマイノリティを対象とした研究の倫理ガイドラインになると考えられる。本発表では、この指針案の成立につながる議論の分析結果を報告する。その際、アイヌ民族の遺骨を対象とした研究を肯定する言説、否定する言説、当事者の中の意見の多様性に特に焦点を当てる。
⇨指定発言:楠瀬 まゆみ(新領域創成科学研究科 博士後期課程)
D1の松山です。
2024年6月22日(土)、駒場キャンパス21KOMCEEにて第23回東京大学生命科学シンポジウム(BIO UT)が開催され、学術専門職員の三村恭子さんと共にポスター発表を行いました。BIO UTは、東京大学において生命科学に携わる全ての研究者および学生が情報交換や親睦を深めることを目的としたイベントです。今回のシンポジウムには、東京大学の16の研究科・研究所から200名以上が参加しました。
私は出生コホート研究の参加に関する倫理的課題について、三村さんは胎児超音波検査のELSIについて報告しました。数名の方が私のポスターの前で足を止め、質疑応答の時間を持つことができました。その中でも、「研究倫理の研究というのは考えたこともなかった」というコメントが特に印象的で、他研究科の方々との交流が非常に有意義なものとなりました。
ポスターセッションの後は武藤先生のご講演があり、ELSIが注目され始めた経緯、今日の生命科学とELSIが関わる範囲の広さについての解説がありました。会場には、普段はELSIやPPI(患者・市民参画)とは馴染みのない研究に従事している研究者や学生も多く、私も含めて生命科学とELSI・PPIとの関係を改めて考える良い機会となりました。
2024年6月の公共政策セミナーが以下の通りに行われました。
◆日時: 2024年6月12日(水)13:30~16:00ごろ
(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)
◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階
公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催
****************
〈報告概要(敬称略・順不同)〉
◆報告1
報告者:木矢 幸孝(公共政策研究分野 特任研究員)
タイトル:認知症の超早期予測・予防の倫理的課題:FGIの結果からみえてきたこと
要旨:認知症研究に関する新たな展開として、症状があらわれるよりも前に超早期に疾患の発症を予測し、予防することが可能な医療技術・治療薬の開発が目指されている。認知症高齢者やその前段階にあたる軽度認知障害(MCI)の人びとだけでなく、無症状の市民をも対象に、発症前予測や予防が追求される。このような医療技術等が社会実装される際には実際に享受しうる市民がその予測法や予防的介入をどのように評価しているかを把握することが肝要である。しかし、この点はいまだ十分に明らかにされていない。そこで本報告では、症状があらわれるよりも前に認知症を超早期に予測・予防する医療技術を日本の市民はどのように捉えているかについて、2023年10月に実施したフォーカス・グループ・インタビュー(FGI)の結果を発表する。調査の背景や先行研究の状況を踏まえ、FGIからみえてきたことは何であったのか、社会実装に向けた倫理的課題を考えたい。
⇨指定発言:佐藤 桃子(学際情報学府 博士後期課程)
◆報告2
報告者:北尾 仁宏(公共政策研究分野 特任研究員)
タイトル:新興感染症の蔓延時等におけるCHIM研究とその法的諸課題の概観
要旨:COVID-19パンデミックを受けて、先進国を中心に100日ミッションと呼ばれる国際プロジェクトが進行中である。次のパンデミックでは感染症の発生からワクチン等の実地投入までを100日以内で完遂しようというこの極めて野心的な計画を達成するために、有力な方策として、健常者に人為的な感染を惹起させることを伴うControlled Human Infection Model(CHIM)の利用が日本でも模索されている。しかし、一般に現在の日本ではCHIMを利用した研究に対する認知度自体が低調で、その社会的正当性を担保する論拠をめぐる議論も全く足りていない。
本報告では、CHIM及びCHIM研究自体の意義を確認した後、英蘭豪その他の各国の経験も踏まえたCHIM研究の課題を法的観点から広覧する。各論点に対する報告者自身の暫定的な見解も一応提示するが、むしろ論点提示を通じた議論の叩き台を準備することが本報告の主たる目的である。
⇨指定発言:武藤 香織(公共政策研究分野 教授)
2024年5月の公共政策セミナーは以下の通りに行われました。
◆日時: 2024年5月8日(水)13:30~16:00ごろ
(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)
◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階
公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催
****************
〈報告概要(敬称略・順不同)〉
◆報告1
報告者:三村 恭子(公共政策研究分野 学術専門職員)
タイトル:胎児をみる超音波検査のELSI検討~FGIデータからみえてきたこと
要旨:妊娠中に実施される超音波検査には、妊婦健診で全ての妊婦に実施される通常の超音波検査と、出生前検査のひとつとして、ハイリスクと判断される妊婦や受検を希望する妊婦に実施される胎児超音波検査がある。いずれの検査においても、得られる画像から胎児の形態異常が発覚したり、染色体異常の可能性が指摘される場合があるが、検査実施における妊婦や家族への情報提供や配慮のありかたなどに関する統一見解はまだない。そこで、胎児をみる超音波検査を受けた経験をもつ女性たちへフォーカス・グループ・インタビュー(FGI)を実施し、その経験(検査情報の取得、同意の手続き、検査環境、検査をどう理解しているか・どのような思いを抱いているかなど)について聞いてみた。本報告では調査結果からみえてきた超音波検査受検経験の特徴と示唆されるELSIについて報告する。
⇨指定発言:木矢 幸孝(公共政策研究分野 特任研究員)
◆報告2
報告者:村上 文子(学際情報学府 修士課程)
タイトル:認知症高齢者の意思決定支援における現状と課題
要旨:社会福祉における動向のなかで、近年目立つ傾向の一つとして「Supported Decision Making」という言葉が頻繁に使われるようになったことが挙げられる。定訳ではないが主に「意思決定支援」とされているこの言葉の定義に疑問をもち、国内の先行研究および国が策定したガイドラインに示されている意思決定支援の定義を整理したところ、明確に示されているものはなかった。このことから、意思決定支援の遂行にあたっては、実際に支援を行う個人や団体の解釈によるところが大きく、実践現場間での意思決定支援の実態に差が生じてしまっているのではないかという問題意識にあたった。そこで認知症高齢者の意思決定支援に関する先行研究を調べたところ、実際のケア内容について、介護従事者を研究対象として行われたものはこれまでにないことがわかった。これらの課題を踏まえ、研究計画を考案した。
以上の調査や計画は、発表者の修士課程入学試験における研究計画に基づくものである。修士課程においては身寄りのない高齢者の意思決定支援に着目したいと考えており、その足がかりとなる「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」(厚生労働省,2019年)を最後に紹介する。
⇨指定発言:北尾 仁宏(公共政策研究分野 特任研究員)
こんにちは。D5の佐藤です。
2024年4月8日に、理化学研究所と合同で、海外の生命医科学に関するELSI(倫理的・法的・社会的問題)の研究者の先生方をお招きし、研究発表と意見交換を行うフォーラムを開催しました。
お招きしたのはカナダMcGill UniversityのYann Joly先生、韓国Ewha Womans UniversityのWon Bok Lee先生、台湾Academia SinicaのChih-hsing Ho先生です。
医科学研究所のバイオバンク・ジャパンをご見学いただいた後、お招きした先生方と、理化学研究所の由井さん、公共政策研究分野の李さんが発表を行い、京都大学/理化学研究所の三成先生がコメントをされました。
少人数のフォーラムとなったため、質疑や意見交換が非常に活発に行われ、参加者にとってもよい刺激になるイベントになりました。
Joly先生、Lee先生、Ho先生、ご参加いただきありがとうございました!
4月25日は、国際的に「DNAの日」(DNA day)として知られています。昨年に引き続き、今年も「DNAの日」のイベントが開催されます。今年は、仙台と東京の2か所で開催する予定です。みなさまのご参加をお待ちしております!
■仙台イベント:東北メディカル・メガバンク機構の施設見学ツアー
『DNAの日』見てみよう DNAのあんなこと、どんなこと
【日時】 2024年4月21日(日)14:00-14:50/15:00-15:50 (2回実施)
【場所】 東北メディカル・メガバンク棟(東北大学星陵キャンパス)
■東京イベント:公開セミナー
「DNAの日」を知っていますか?
【日時】 2024年4月24日(水)10:30-12:00
※開場・受付開始は10:00からとなります。
【場所】 東京医科歯科大学湯島キャンパス MDタワー2階/共用講義室1
いずれも、こちらからお申し込みください。
皆さんこんにちは、D1の島﨑です!
3/12に公共政策研究分野の恒例行事である遠足が、上野にて開催されました。
午前は国立西洋美術館にて芸術鑑賞、その後上野恩賜公園のレストランでランチ、午後はグループに分かれてアクティビティに参加しました。
私は脱出ゲームに参加したので、脱出ゲームの様子をお届けしたいと思います!
今回は上野の謎ハウスさんにて、「さよならアリス」という公演に参加させていただきました。
この公演は謎解きや推理要素が強いということで、無事脱出できるかドキドキしましたが、同じチームの李さん、三村さんと、推理や謎解きを進め無事脱出することができました!
非日常的な世界に没入できる感覚がとても楽しく、新しい趣味になりそうな気がしています…!
今年は遠足の企画にも携わらせていただきましたが、皆さんも楽しかったと言ってくださり、さらに良い思い出となりました!
次の遠足も楽しみにしております。
D5の北林です。
このたび東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻医療イノベーションコースにおいて「患者の経験・知識を学ぶ医薬品行政のあり方 -副作用報告とプロフェッション・市民の役割の再配置-」という博士論文で博士の学位(科学)を取得し、3月21日の学位授与式で学位記をいただきました。
社会人学生として職務との両立に苦心した5年間でしたが、学位を取得でき本当に嬉しく感じております。博士論文執筆を通じて、物事を筋道立てて論ずることの難しさと重要性を改めて実感しました。指導教員の井上先生をはじめ、ご指導、ご鞭撻、そして励ましの声をいただいた全ての方々に感謝いたします。
今後も患者・市民参画の推進のために何ができるのか、継続して考えていきたいです。