2026年7月の公共政策セミナーは、以下の通り、行われました。
◆日時: 2026年7月8日(水)13:30~
(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)
◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階
公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催
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〈報告概要(敬称略・順不同)〉
報告1
報告者:松山涼子(新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻 博士後期課程)
タイトル: 出生コホート研究に参加する子どもの長期的な研究参加の在り方に関する検討
要旨:胎児期から成人期までを追跡し、子どもの成長・発達と環境要因との関連を明らかにする出生コホート研究は、世界各国で実施されている。一方、子どもを対象とすること、観察研究であること、長期にわたり試料・情報を収集・利用することなどの特徴から、出生コホート研究には特有の倫理的課題が存在する。本研究は、出生コホート研究において生じる倫理的課題とその対応を明らかにし、それらを踏まえて倫理ガイドライン策定に向けた示唆を得ることを目的とする。
本研究では、全国規模の出生コホート研究に従事する研究スタッフを対象に半構造化インタビューを実施し、再帰的主題分析を用いて分析した。
スタッフは、研究参加を中止したいと申し出た参加者に対し、困りごとを聞き取り、参加負担を軽減する方法を提案しながら参加継続を支援していた。一方で、そのような働きかけが参加者の自律性や子どもの意思決定を損なう可能性について葛藤を抱いていた。また、学童期検査は子ども本人へ研究内容を説明する重要な機会と認識される一方、その説明が主体的な意思決定の支援となるのか、それとも「言い聞かせ」となるのかについても葛藤が語られた。さらに、子どもの成長に伴い研究参加の主体が親から子どもへ移行する中で、参加児にとっての研究参加の意義や、参加児による参画のあり方が模索されていた。
以上より、出生コホート研究では、参加主体の移行に伴い、研究継続の支援と参加者の自律性の尊重を両立する研究運営が求められることが示唆された。また、参加児によるPPIEは、研究参加者の視点を研究運営へ反映することに加え、参加児が自らを研究参加者として認識し、研究参加の意義を見いだす過程を支える研究運営として位置づけられる可能性がある。
⇨指定発言:木矢幸孝(医科学研究所公共政策研究分野 助教)
報告2
報告者:武藤香織(医科学研究所公共政策研究分野 教授)
タイトル:研究結果を平易にまとめた概要の公表・説明をめぐる倫理的配慮
要旨:「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」では、研究責任者に対して、期待する結果が得られなかった場合も含め、研究結果の論文等での公表義務を課しており、特定の限られた者しか閲覧等ができないような方法は適切ではないとされている(第6の6及びガイダンス)。また、同指針では、研究参加者に個別の結果を説明する場合の留意点として、旧「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」に由来する「研究により得られた結果等の説明」(第10)が定められているが、研究結果を平易にまとめた概要の取扱いについて言及されていない。研究結果を平易にまとめた概要の例としては、学術論文のプレスリリース、疫学コホート研究等でみられる研究参加者向けのお知らせ、臨床試験・治験での「レイサマリー」などが挙げられ、それぞれ異なる系譜と倫理的基盤を有している。ただし、当該研究の参加者が読む可能性を想定した場合には、配慮すべき点が異なるが、その考え方は明確化されていない。本報告では、研究結果を平易にまとめた概要の公表・説明をめぐって留意すべき点を試行的に論じる。
⇨指定発言:渡部沙織(医科学研究所公共政策研究分野 特任助教)
2026年6月の公共政策セミナーは、以下の通り、行われました。
◆日時: 2026年6月10日(水)13:30~
(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)
◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階
公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催
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〈報告概要(敬称略・順不同)〉
報告1
報告者:松﨑友美(新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻 修士課程)
タイトル: 修士論文のテーマ検討 ー宇宙において実施する人を対象とする研究の倫理的課題の検討ー
要旨:日本国内における人を対象とする研究は、人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針や臨床研究法、GCPなどの倫理的・法的規範の下で実施されている。これらのルールに準拠して実施される研究は、病態の解明や予防法の発見、医薬品・医療機器の開発や有効性の検証を通じて、人の健康やQOLの向上に大きく貢献してきた。 人を対象とする研究の舞台は地上から宇宙へも拡大している。宇宙で実施される人を対象とする研究は、宇宙に滞在する者の健康に直結するだけでなく、地球上とは異なる特殊な環境を活かした実験が可能であることから、大きな期待を集めている。一方で、現在の技術では宇宙滞在者が限られることにより研究対象者が少数となることや、設備や時間に制限がある中でのデータ収集や作業など、地上とは異なる倫理的配慮が求められるケースも少なくない。 いまだ明確なルールが整備されていない新たなフィールドにおいて、研究者が遵守すべき倫理規範や持つべき倫理意識とはどのようであるべきか、倫理委員会事務局業務を行う中で問題意識を持つようになり、今後検討したいと考える。
⇨指定発言: 永井亜貴子(新領域創成科学研究科 特任助教)
報告2
報告者:大木美代子(新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻 修士課程)
タイトル: バイオバンクにおけるインフォームド・コンセントとカストディアンシップによる制度的信頼構築の可能性
要旨:近年、ゲノム解析技術の進展や医療データ利活⽤の拡⼤に伴い、バイオバンクは医科学研究の基盤として、試料・情報の長期保存と利活用の重要性を増している。日本では2023年に「ゲノム医療推進法」が成立し、大規模バイオバンクの整備や国際的なデータ共有の推進が進められている。一方、バイオバンクは、研究利用までの時間差や解析技術の進歩、試料・情報共有の拡大などにより、提供時点で将来の利用内容を十分に説明することが本質的に難しく、提供者からの同意は包括同意・広範同意の方法が広く用いられている。しかし、その妥当性や提供者の意思の反映、⾃⼰決定権の保障などについては議論が続いている。そのため近年では、透明性や情報公開、ガバナンス強化を通じて提供者からの信頼を確保し、同意を補完しようとする議論も多く見られる。しかし、ガバナンスを強化するだけで本当に提供者の信頼に値する運営が実現されるのかという問題もある。本発表では、発表者が本研究に興味を持った背景と、山本らが提案するカストディアンシップ概念等を踏まえ、バイオバンクが試料・情報を託されたものとしてどのように管理し、提供者の信頼を確保しうるか今後考えていくことを紹介する。
⇨指定発言:飯田 寛(医科学研究所公共政策研究分野 特任研究員)
2026年5月の公共政策セミナーは、以下の通り、行われました。
◆日時: 2026年5月13日(水)13:30~
(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)
◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階
公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催
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〈報告概要(敬称略・順不同)〉
◆報告
報告者:楊中希(大学院新領域創成科学研究科 修士課程学生)
タイトル:倫理審査委員会におけるAI活用の可否性および検討事項
要旨:
近年倫理審査委員会の運営において集約化の動きが顕著になりつつ
新領域創成科学研究科の医療イノベーションコースでご一緒している冨尾 淳先生が編集された、雑誌「公衆衛生」2026年 05月号の「特集 公衆衛生倫理」に「パンデミックでの倫理的課題──WHO倫理・COVID-19作業部会の活動より」を寄稿しました。新型コロナウイルス感染症のパンデミックにおいて、WHOで実施された活動に参加した経験を振り返りました。備忘録として、また次のパンデミックでの対応にお役に立てばと思います。ぜひご覧ください。
当研究室主催の、2026年度活動報告会/研究室説明会を開催いたします。
公共政策研究分野のメンバーより、取り組んできた研究テーマや活動について、紹介いたします。
また、大学院への進学先として、この研究室にご関心がある方への研究室説明会も兼ねています。
※大学院への進学をご検討されている方は、こちらのページもご覧ください。
◆開催日時:2026年5月9日(土)10:00~12:15 頃 (予定)
◆参加方法:オンライン会議システムZoomを利用(進学希望者は対面参加可)
◆当日の内容
- 当研究室の紹介、大学院の案内
- 研究室メンバーによる最近の活動報告
(※順不同。報告テーマは仮のものであり、後日変更の可能性があります)
- 「身寄り」のない高齢者の医療に関わる意思決定支援
村上 文子(大学院学際情報学府 文化・人間情報学コース 博士後期課程)
- 出生コホート研究における母親の参加経験の検討
松山 涼子(大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 博士後期課程)
- 非HIV/AIDS領域の臨床試験におけるPLWH(HIVとともに生きる人々)の包摂:現状と課題
島﨑 美空(東京大学医科学研究所研究倫理支援室/公共政策研究分野 特任研究員)
- ワクチン開発のためのヒトチャレンジ試験に対する期待と懸念
永井 亜貴子(東京大学大学院新領域創成科学研究科 特任助教)
- 認知症の超早期予測・予防を考える――2050年に向けた倫理的課題
木矢 幸孝(東京大学医科学研究所公共政策研究分野 助教)
- 質疑応答
◆お申し込み方法:
下記の申し込みフォームより、事前登録をお願いいたします。
最後に「送信」ボタンを押さないと記入内容が送信されませんのでご確認ください。
https://forms.gle/V8Q8f8HjXXb4N5VX9
お申込み締め切り:5月8日(金)12:00まで
※当日参加用のZoom URLは、開始時刻までにメールで送信させて頂きます。
※障害等を理由に特別な配慮をご希望の方は、フォームの欄にご記入ください。後日、担当者から別途ご連絡させて頂きます。
※大学院入試を受験される方は、事前に教員との面談が必要になります。別途、研究室窓口(pubpoli@ims.u-tokyo.ac.jp)までご連絡ください。
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◆本イベントに関するお問い合わせ
東京大学医科学研究所 公共政策研究分野
活動報告会/研究室説明会 担当(河田、三村)
Email:event@pubpoli-imsut.jp
公共政策研究分野は、2つの大学院における修士(博士前期)・博士課程で大学院生を受け入れています。各種説明会にはぜひご参加いただき、進路決定の参考にしてください。また、出願を検討して下さっている全ての方に、希望する研究計画をまとめた書面のご提出と個別面談をお願いしています。出願を希望するする研究科を記載の上、ご連絡ください。
研究室窓口メールアドレス: pubpoli@ims.u-tokyo.ac.jp
1.公共政策研究分野 活動報告会・研究室説明会
日時: 2026年5月9日(土)10:00-12:15(予定)
場所: 公共政策研究分野セミナー室 & Zoomミーティング
詳細はこちら
2.新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 医療イノベーションコース(担当教員:武藤、李)
第1回 医療イノベーションコース説明会(終了しました)
日時:2026年4月25日(土) 13:30-15:30(ハイブリッド開催)
場所:東京大学医科学研究所 2号館 2階小講義室(オンラインでも同時開催)
第2回:医療イノベーションコース説明会
日時:2026年5月14日(木) 18:00-19:00
場所:Zoom Webinar
Zoom Webinarにて入試制度Q&A、研究室紹介(1ラボあたり3分程度)の後、Zoomのブレークアウトルームを使った Meet the professor(オンラインラボ訪問 20分)を実施します。下記の参加登録ページから参加登録をお願いします。
3.情報学環・学際情報学府 文化・人間情報学コース(担当教員:武藤)
日時:2026年5月9日(土)13:30 – 16:30
場所:東京大学本郷キャンパス・伊藤国際学術研究センター地下2階 伊藤謝恩ホール
申込:不要、入場無料
主催:東京大学大学院情報学環
日時:2026年5月16日(土) 14:00-15:30
場所:本郷キャンパス 情報学環・福武ホール地下2階 福武ラーニングスタジオ(定員30名)&Zoom
このたび、ナカニシヤ出版より『遺伝性の病いとともに生きるーー球脊髄性筋萎縮症患者と保因者の経験』が刊行されました。
本書は、球脊髄性筋萎縮症(きゅうせきずいせいきんいしゅくしょう)という遺伝性疾患の患者および保因者の方々へのインタビュー調査を通じて、遺伝性の病いとともに生きることの経験について描いた一冊になります。
本書の特徴は、遺伝性の病いの経験を「人生の途上」という視点から描き出した点にあります。遺伝性の病いや遺伝学的リスクに関する問題が人生の途上で浮上するとき、人びとは結婚や出産のあり方、家族との関係、自己の生の意味づけを問いなおし、人生を再構築していきます。本書では、その過程における遺伝学的リスクの意味づけ、「遺伝学的責任」の多様なあり方、そしてリスク論的な思考に収まりきらない生のありようを、個別の語りを通して明らかにしています。
人生の途上で自己と遺伝性疾患が結びついた患者や保因者が、自分たちの病いや遺伝学的リスクをどのように受容し、意味づけてきたのか——分析の際に心がけたのは、それぞれの意味づけや判断には、その人なりの固有の論理があるということです。他者からすると一見非合理に見える選択であったとしても、本人の中では一定の論理を持つものとして意味づけられていることを読み手にも伝わるように努めました。
これまで球脊髄性筋萎縮症の患者や保因者の声は、学術的にはほとんど知られていませんでした。本書において取り上げている語りは一部に過ぎません。ただ一部であったとしても、その声を学術的に可視化できたことについては嬉しく思います。ぜひ手に取っていただけますと幸いです。
最後になりましたが、調査にご協力いただいた皆さま、患者会である「SBMAの会」、様々な場でご助言・ご指導いただきました先生方、そして研究仲間に、心より御礼申し上げます。
公益社団法人認知症の人と家族の会が実施した、「研究における認知症当事者のニーズと参画の推進に関する調査研究事業」(令和7年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金)に、検討委員会の委員長として参加する機会をいただきました。
2024年1月に施行された、「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」に基づく「認知症施策推進基本計画」の重点目標(2024年12月)では、「認知症の人と家族等の経験・意向を踏まえながら研究テーマを構成する当事者参画型研究を推進する」ことが謳われています。この事業では、どのように当事者の研究ニーズを聞き、どのように参画を実現できるのかを様々な意見交換の工夫を凝らして模索しました。このたび、読み応えのある報告書が刊行されましたので、ぜひご一読ください。
特任研究員の渡部です。
3月23日(月)に、患者・市民参画イベント「難病のゲノム医療について考えよう!〜ゲノム医療や「遺伝」をウェブ上でどう伝えるか?〜」を開催しました。
Peatixページ:https://260323-genome.peatix.com/

厚生労働行政推進調査事業補助金(難治性疾患政策研究事業)「革新的技術を用いた難病の医療提供体制推進に関する研究」(研究代表者・水澤英洋)(以下、「水澤班」)は、難病の全ゲノム解析等実行計画やゲノム医療のあり方について研究と検討を行っている研究班で、武藤香織先生が分担研究者として加わり、研究室スタッフ(李・渡部・河合)が研究活動に参加しています。
前身の班の時期も含め、水澤班として2021年からこれまで計68名の患者・家族の方々に患者・市民参画(PPI)にご参加いただいて参りました。倫理的配慮の方針の検討、ICF(説明同意文書)のレビュー、説明補助動画や資料に対する助言など、頂いたご意見を難病の全ゲノム解析の研究体制の議論に届けることに注力してきました。
また、今回のような、幅広い患者・家族や支援者の方々に難病のゲノム医療について知っていただくための公開ウェビナー(兼意見交換会)も定期的に開催しています。
ゲノム医療に関する情報について、医療従事者に尋ねる前に、患者・市民が自分で調べる行為は、ごく一般的にものになってきました。「遺伝」やゲノム医療に関してウェブ上で情報発信を行う際、どのような配慮が必要なのかについて、患者・家族の視点を参考にしながらあり方の検討を行う必要があります。
そこで新たにPPI協力者の方を公募して、ウェブ上での情報提供のあり方に関してグループインタビューを実施し、倫理的配慮の課題を議論していただきました。2026年1月から3月にかけて、9名の難病の患者・家族のPPI協力者の方々が全4回のグループインタビューに参加しました。
今回のウェビナーでは、前半で厚生労働省から難病のゲノム医療の進捗状況をご講演いただき、後半ではグループインタビューについて報告しました。PPI協力者の患者・家族から4名の方が登壇し、インタビューでの議論やご自身のお考えを話してくれました。ウェビナーには137名の患者・家族、支援者や研究者の方々の参加登録を頂きました。

「遺伝」やゲノム情報について何気なく使用していた専門用語や情報の発信に、センシティブな配慮が求められることを私たちもPPI協力者の方々との議論から学んでいます。今後も、PPI協力者の方々から助言を頂きながら、関係の研究者や機関と連携して提言の取りまとめを進めていきたいと考えております。(渡部)

『医学のあゆみ』 296巻10号 (2026年3月発行)(特集:希少遺伝性疾患の最前線〜科学と社会をつなぐ)に、「希少疾患のゲノム情報の利活用とELSI(倫理的・法的・社会的課題)」を寄稿しました。
渡部沙織, 武藤香織, [2026]「希少疾患のゲノム情報の利活用とELSI(倫理的法的社会的課題)」『医学のあゆみ』第269巻10号, 968-972. doi: https://doi.org/10.32118/ayu296100968.
国内で希少疾患のゲノム情報の利活用が推進され,データ利活用の基盤整備が行われている状況に伴い,2023年に「ゲノム医療推進法」が施行されました。現在、2025年11月に閣議決定された「ゲノム医療施策に関する基本的な計画」に基づいてゲノム情報に基づく差別や偏見の防止のための取り組みが開始されています。
一方で、2000年代から早期に遺伝差別禁止法制を整備してきた諸外国でも、既存の規制が及ばない領域での新たな課題が生じてきています。また、AI技術の導入や、産業界も含めた国際的な幅広い利活用の促進は、従来は想定されていなかったゲノム情報のプライバシーリスクの懸念に関する議論を生じさせています。
本稿では、希少疾患領域のゲノム解析研究の推進と法整備の状況を概観しながら、ゲノム情報に基づく差別・偏見への対処などをはじめとするELSI(倫理的・法的・社会的課題)について整理し、今後の課題について考察しました。(渡部)
2026年3月の公共政策セミナーは、以下の通り、行われました。
◆日時: 2026年3月11日(水)13:30~
(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)
◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階
公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催
◆Web参加方法:公共政策メンバーの方は、共有カレンダーのURLからご参加下さい。
※所外の方は、お手数ですが昼12時半までに渡部までご連絡下さい。セミナー開始までに参加用URLと当日の資料ファイルをお送りします。
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〈報告概要(敬称略・順不同)〉
◆報告1
報告者:原田 香菜(公共政策研究分野 客員研究員・早稲田大学法学学術院 講師)
タイトル:生殖補助医療・ヒト生命の始期に関わる技術をめぐる法状況と多様化する「家族」
要旨:ヒトの受精・着床・妊娠継続・出産のプロセスを支える技術の発展と普及は著しく、2023年に体外受精・顕微受精および凍結融解胚移植により生まれた子は85,048人に上り、同年の日本国内の全出生児数727,277人の約11.7%を占めた。いまやこれらのプロセス自体に介入し、従来は不可能とされていた懐胎を可能とする技術、あるいは出生前の検査に基づく胎児治療の一部が「医療」として実施されている。一方、これらの技術を介して子を持つことを望む当事者の背景や「家族」の在り方自体も多様化している。
このような状況の中、わが国では具体的な法的規範・制度が未整備であり、判例は個々のケースに応じた判断を余儀なくされている。2025年にはドナー提供配偶子等を用いる「特定生殖補医療」に関する法案が提出されたものの、対象者の要件(法律婚の男女に限定)や、子がアクセスできる出自に関する情報(非特定情報)の内容・開示時期など多岐にわたる問題が山積しており、廃案となった。
本報告では、ヒト生命の始期に介入する技術に関するルールと制度の在り方について、生まれてくる子の権利・利益をどのように守るかを軸に検討したい。
⇨指定発言:武藤 香織(公共政策研究分野 教授)
◆報告2
報告者:由井 秀樹(理化学研究所 生命医科学研究センター 研究員)
タイトル:優生学史と色覚に基づく入学・就業制限
要旨:20世紀の日本では、色覚が「異常」とみなされたら、進学及び就業において様々な制限が課されてきた。色覚は基本的には伴性遺伝であるため、進学や就業の制限があるが故に、結婚や生殖の問題としても立ち現れてきた。
個々人の色覚はグラデーションであり、どこに「正常」「異常」の線引を行うかという問題がある。日本では、石原色覚検査表という簡便かつ「正常」の範囲を狭くとる検査が広く用いられてきた。このことにより、明らかに過剰な制限が課され、1980年代以降の色覚差別撤廃運動に結びついた。
近年、日本では1948年に制定された優生保護法のもとで実施された強制不妊手術の問題が大きな社会的注目を集めている。こうした状況の中で、日本の研究者は過去の強制不妊手術の実態解明に向けた取り組みを強化している。本報告は優生結婚と色覚をめぐる歴史を検証することで、日本の優生学史を補強することを目的とする。
19世紀末のスウェーデンでの鉄道事故以降、世界的に鉄道や船舶の運転士への採用制限が広がっていった。日本も例外でなく、軍隊の採用制限にも取り入れられていった。この流れで、簡便かつ精度の高いとされる石原色覚検査表が開発され、国内で広く用いられるようになった。そして鉄道や軍隊の採用制限は法規に基づくものであったが、医師や染物業、化学者、教師なども「色を間違える危険性」故に慣習的に採用や専門職教育の門戸が閉ざされていった。
1940年に国民優生法が制定された。この流れで、厚生省が優生結婚相談所を創設し、「色覚異常」も優生結婚の争点となる「疾患」であった。1948年に優生保護法が制定され、「全色盲」(極めてまれな状態)が強制不妊手術の対象と位置づけられた(ただし、強制不妊手術の主たる対象となったのは、遺伝性とみなされた「精神薄弱」であったので、「全色盲」を理由とする手術はほとんど無かったと思われる)。戦後、優生結婚の考え方は、過剰人口対策として避妊の普及が第一義的に目指された家族計画の文脈で語られることが多く、ここでも色覚が取り上げられてきた。
優生結婚や家族計画の文脈で論じられる色覚は、日常生活に支障があるわけではないケースが大半であるため、生殖が絶対的に禁じられるものではなかった。しかし、専門家から厳しい進学・就業制限の状況が解説されており、「色覚異常」者の生殖は肯定的に捉えられていなかった。つまり、形式的には、生殖の決定は個々人の自主性に委ねられていたのだが、それ故にこそ、人々の結婚・生殖の悩みを掻き立てることになったのである。
⇨指定発言:島﨑 美空(大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻 博士後期課程)
2026年2月20日、東京大学人文社会系研究科社会学研究室・社会学談話会と東京大学医科学研究所公共政策セミナーの共催により、「医療と障害の社会学」特別セミナー「リプロダクションをめぐる医療と支援」が開催されました。
「医療と障害の社会学」は、社会学研究室の井口高志先生が開講なさっている通年の大学院ゼミです。本ゼミには、武藤研からも、学際情報学府博士課程の河合さんと村上が参加しています。
このたび、中国・江南大学の安姍姍先生をお招きし、特別企画として実施されました。
安先生からは、「レジリエンスのイディオム:中国妊産婦の語りからみるメンタルヘルスの実態と支援の方向性」と題したご発表があり、
中国の妊産婦が不調や不安をどのように引き受け、意味転換させながら生活を維持しているのかについて報告がなされました。
武藤研からは、河合さんが「ハンチントン病の結婚・出産の意思決定:医療者との関係に焦点を当てて」という題目で発表を行いました。
ハンチントン病の当事者・家族および医療従事者へのインタビューを通じて、結婚・出産の意思決定をめぐり、医療者の「非指示的」態度と当事者の思いの間に生じるずれなどを明らかにしました。
発表後には、会場全体から活発な質疑応答がなされ、研究室を超えた貴重な交流の機会となりました。
(文責・学際情報学府M2 村上)
2026年2月の公共政策セミナーは、以下の通り、行われました。
◆日時: 2026年2月18日(水)13:30~
(1報告につき、報告30min+指定発言5min+ディスカッション)
◆場所: 東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター3階
公共政策研究分野 セミナー室/Zoom併用開催
◆Web参加方法:公共政策メンバーの方は、共有カレンダーのURLからご参加下さい。
※所外の方は、お手数ですがご参加都度、開催当日昼12時までに渡部までご連絡下さい。セミナー開始までに参加用URLと当日の資料ファイルをお送りします。
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〈報告概要(敬称略・順不同)〉
◆報告1
報告者:佐藤 桃子(理化学研究所生命医科学研究センター 生命医科学倫理とコ・デザイン研究チーム 特別研究員)
タイトル:日本における消費者直販型の遺伝祖先検査の特徴と認知度
要旨:消費者直販型(direct to consumer, DTC)の遺伝子検査は、検査の精度や購入者の個人情報の保護に関して国内外で議論を呼んできた。DTC遺伝子検査には祖先の情報を明らかにすると謳うものもあるが、この検査が欧米で人種主義や先住民族のアイデンティティと言った点で議論されてきた一方で、日本のDTC遺伝祖先検査はほとんど学問的な注目を集めていない。
本発表は、まず日本におけるDTC遺伝祖先検査について、どのような検査が、どのように宣伝されて販売されているのかを明らかにする。次に、日本の一般市民を対象に実施した、DTC遺伝祖先検査の知名度や関心に関するアンケート調査の結果を紹介する。その上で、日本のDTC遺伝祖先検査が「単一民族神話」の根強い日本社会にもたらしうる影響について検討を行う。
⇨指定発言: 木矢 幸孝(公共政策研究分野 助教)
何卒、どうぞよろしくお願い申し上げます。
特任研究員の西 千尋です。
『科学技術社会論研究』に、生体分子や非生体分子を用いて設計/構築する「分子ロボット」分野の研究者・学生へのインタビュー調査を行った短報が掲載されました。
文献情報:
西 千尋、桜木真理子、見上公一 2026:「分子ロボティクスにおける協働を支援する試み 『「研究者の自治」のためのレファレンスブック』に関する考察」『科学技術社会論研究』、24、67-75.
本稿は、以前私が札幌医科大学 桜木真理子氏、慶應義塾大学 見上公一氏と共編著したオープンアクセスの読み物『「研究者の自治」のためのレファレンスブック』(以下、レファレンスブック)が、どのように受け入れられたかを検証したものです。
対象読者である分子ロボティクス分野の研究者や学生に対してインタビューを通じて示唆された、レファレンスブック作成者の意図との関連性や、インタビューに応じた研究室を主宰する研究者と、学生・若手研究者のすれ違いについて描かれています。
もしよければ、お手に取ってお読みください。
厚生労働科学研究班でご一緒している山縣 然太朗先生が編集された、雑誌「公衆衛生」2026年 05月号の「特集 身寄りのない人の医療、介護支援の現状と課題」に武藤 香織・村上 文子・木矢 幸孝「身寄りのない人の医療の意思決定について──倫理的社会的観点から」を寄稿しました。高齢者の医療の意思決定やその支援について様々な課題が指摘されていますが、そもそも「身寄り」とは何かを考え直すとともに、解決策として提唱されている用語について基本的な解説を書きました。ぜひご覧ください。
武藤研の恒例イベントのなかには、年1回の遠足があります。
今年度の遠足は、日本橋周辺で行いました。
最初は「くすりミュージアム」。
映像やゲームを通し、薬のデザインや薬の働きなどについて、楽しく学べる施設です。
一人1枚ずつもらったメダルを使い、思い思いに薬に親しみました。
研究のなかでよく耳にする薬も多く、特徴や用途を視覚的に知ることができ、良い勉強になりました。
昼食は、少し歩いて割烹へ。
それぞれ好みの和食ランチを味わいながら、研究室メンバーとゆっくり近況報告などをしました。
午後は「国立映画アーカイブ」へ。日本で唯一の国立映画専門機関です。
展示室には、無声映画からアニメーション映画まで、映画の進化の要となる映像の上映に加え、映画のポスターや台本、撮影機材など、多岐にわたる映画関連資料が展示されていました。
個人的には、関東大震災の記録映画が印象に残りました。アーカイブにもなっているので、後日アクセスしてみたいと思います。
また、歴史に残る映画の上映も毎日数本行っており、この日は『ふたたび男が』などが観られました。
近場で密度の高い経験をすることができ、充実した一日となりました!
(文責・学際情報学府M2 村上)
D2の松山です。
長崎県で開催された、第36回日本疫学会学術総会/第3回国際疫学会西太平洋地域合同大会でポスター発表を行いました。
今回の発表テーマは、出生コホート研究のELSIについてです。
本研究では、出生コホート研究に関する既存の知見を整理するために文献調査を行うとともに、日本の出生コホート研究に関わる研究者を対象としたインタビュー調査を実施しました。これらを通じて、長期にわたる研究運営の中で生じる倫理的課題や、研究参加者との関係性について検討しました。
学会当日は、疫学をはじめ、さまざまな分野の研究者の方々に関心を持っていただき、インフォームド・アセントや子どもの研究参画をめぐって意見交換を行うことができました。異なる専門分野からの視点に触れることで、自身の研究テーマを改めて見つめ直す貴重な機会となりました。
雑誌「周産期医学」(Vol.56 No.1)の「特集 周産期における生命倫理を考える」に三村恭子・武藤香織「進みゆく周産期医療を支える科学技術のELSI(倫理的,法的,社会的課題)を考える」を寄稿しました。
公開シンポジウム「現代の新生児医療における臨床倫理の考え方と
近年、新生児の生命維持治療の停止をめぐる議論が再び注目を集め
出生・発達分科会では、歴史的背景から現状まで総合的に検討した
年度末のお忙しいところ恐縮ですが、ぜひお申し込みください。
日時:2026年3月1日(日)13:00~16:00
場所:日本学術会議講堂(東京都港区六本木7-22-34)(現
対象:どなたでもご参加いただけます
イベント詳細ページ:https://www.scj.
お申し込み:以下のリンク先申込フォームより、お申し込みくださ
事後配信のみをご希望の場合もお申し込みください。
https://forms.gle/A2RZD2JYHAkP
プログラム:
【第1部】見解「現代の新生児医療における臨床倫理の考え方と医
司会
藤井 知行(日本学術会議第二部会員/国際医療福祉大学大学院・医学部
水口 雅(日本学術会議連携会員/心身障害児総合医療療育センターむら
1.見解『現代の新生児医療における臨床倫理の考え方と医学的意
髙橋 尚人(日本学術会議第二部会員/東京大学医学部附属病院教授)
2.障害学の立場から
熊谷 晋一郎(日本学術会議第二部会員/東京大学先端科学技術研究セン
3.生命倫理学の立場から
島薗 進(日本学術会議連携会員/東京大学名誉教授)
4.法学の立場から
米村 滋人(日本学術会議連携会員/東京大学大学院法学政治学研究科教
5.臨床倫理の観点から
笹月 桃子(日本学術会議連携会員(特任) /早稲田大学人間科学学術院教授)
【第2部】見解に対する意見
司会
武藤 香織(日本学術会議連携会員/東京大学医科学研究所教授)
古庄 知己(日本学術会議連携会員/信州大学医学部教授)
1.新生児医療に携わる立場から
加部 一彦(埼玉医科大学医学部特任教授)
2.家族の立場から
櫻井 浩子(東京薬科大学薬学部教授)
【第3部】総合討論
座長
髙橋 尚人(日本学術会議第二部会員/東京大学医学部附属病院教授)
笹月 桃子(日本学術会議連携会員(特任)/早稲田大学人間科学学術院
お問い合わせ先:新生児生命倫理研究会事務局 neonatal.bioethics@gmail.com
主催:日本学術会議臨床医学委員会・健康・生活科学委員会合同出
主催:新生児生命倫理研究会
特任研究員の河田と渡部です。
研究における「患者・市民参画(PPI: Patient and Public Involvement)」を、実際の経験談を通して学べるインタビュー動画と動画プレイリストが公開されました。本動画は、厚労科研PPI班*およびAMED吉田班*の成果の一つです。

「患者・市民参画(PPI)経験者へのインタビュー動画リストを公開しました」
https://genomeppi.jp/topics/20260123.php
インタビューの実施と動画の作成は、神奈川県立保健福祉大の中田はる佳先生が中心になり、武藤先生、河田と渡部が参加しました。編集の過程で大学院生の松山涼子さん、島﨑美空さんにも作業をサポートして頂きました。
本動画は、下記のPPIプロジェクトに関わられた14名の方々のインタビューです。
- エコチル調査(環境省)
- RUDY JAPAN(大阪大学)
- AIDEプロジェクト(大阪大学)
- 患者・市民パネル(国立がん研究センター)
- 患者・市民パネルでのリスク層別化がん検診に関する検討会(国立がん研究センター)
「患者・市民」「研究者」「運営者」というそれぞれの立場で、PPIに関わった経験や思いを語ってもらいました。
研究者と患者・市民、そして両者をつなぐ運営者がどのように関わり合い、協働を進めているのかを具体的に知ることができる内容です。それそれの立場から、これからPPIを始めよう、取り入れようと思っているみなさんへのメッセージにもご注目ください。動画は PPI JAPAN のYouTubeチャンネルで公開されています。
まずは、プレイリスト1本目の「ダイジェスト版」をぜひご覧ください。
▶ プレイリスト(PPI JAPANのYouTubeチャンネル内)
https://www.youtube.com/playlist?list=PLc9nF-yV2x963A3az8oRWjtTOJg9HCDfC

*厚生労働科学研究費補助金行政政策研究分野政策科学総合研究(倫理的法的社会的課題研究事業)「人を対象とする生命科学・医学系研究における患者・市民参画の推進方策に関する研究」研究代表者 ・武藤香織(東京大学)
*国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED) 研究倫理・社会共創推進プログラム「医療研究における社会共創を推進するPPIプラットフォーム構築に関する研究開発」研究開発代表者 ・吉田 雅幸(東京科学大学)








