ヘルシンキ宣言改訂に関する短報、Science誌に掲載(井上)

2013/09/26

世界医師会によるヘルシンキ宣言は、研究倫理に関する最も重要なガイドラインの一つです。この宣言は現在、改訂作業中です。井上はウプサラ大学の仲間と議論のうえ、世界医師会の意見募集に応じてコメントを出しました(2013年7月)。その後、このコメントの一部をレターとして組み直して投稿したものが、サイエンス誌の今週号に掲載されました。

Forsberg J, Inoue Y. Beware side effects of research ethics revision. Science, 341(6152), 1341-1342, 2013.

医薬品の試験におけるプラセボ使用の可否や倫理審査の質の課題など、研究倫理において従来取り上げられてきた論点が、今回の改訂をめぐる議論にも多く登場しています。ただ我々は、これまであまり論じられてこなかった試料・データの取り扱いに関する項目の変更にも関心を持っています。

2000年の改訂以降、ヘルシンキ宣言には、その射程とする医学研究に「個人を特定できる試料・データを用いる研究」が含まれることが明記されるようになりました。一方で、既存の試料・データを集合的に管理し、解析する研究形式の発展と、これらが由来する個人の自己決定権を尊重する観点とを考慮して、同意原則の適用のあり方をめぐる多様な議論が展開しています。

現在の改訂案では、同意取得要件の例外として認められてきた、「倫理審査により、研究の妥当性に深刻な影響があることが確認された場合」に関する記述が削除され、個人からの事前の同意取得の履行をより前面に出したものになっています。我々は、リスク・ベネフィットの比較衡量の観点から、この改訂作業の動向に注目しています。個人の身体に大きな影響を伴う臨床研究では、その参加に際して個人から事前に同意を取得するべきであり、またその撤回の希望は最大限尊重されるべきでしょう。しかし、既存の試料やデータを用いる研究は、個人に及ぼす害の防止や軽減、研究者や倫理審査委員会の責任ある判断を前提として、多様な参加・収集形態があっていいと考えてます。影響力が大きい文書ですので、用語の詳細な定義や解説の充実などが期待されます。

なお、井上が滞在しているウプサラ大学研究倫理・生命倫理センターのウェブサイト(9月22日記事)、週刊ブログ(9月25日記事)でもこの短報が紹介されています。

井上:ウプサラ大学にて在外研究中/スウェーデン王国)