「医学のあゆみ」の研究倫理特集(丸、井上)

2013/09/20

雑誌「医学のあゆみ」で「臨床研究と倫理」という特集が組まれました(国立循環器病研究センター・松井健志氏の企画、詳しくはこちら)。本教室の丸、井上が、それぞれ「臨床研究におけるインフォームドコンセントと”治療との誤解”」「ヒト試料の取扱いと研究倫理」という単元を担当しています。

「インフォームドコンセント」(丸)の単元では、「研究目的での侵襲」に関するインフォームドコンセントが果たす役割と注意点を紹介しました。被験者からの同意の取得は、研究倫理における基本的な要件ですが、単に同意を得たという事実や被験者が同意したとおりに研究を展開するというだけでは、被験者保護として十分ではありません。研究による侵襲が正当化されるためには、研究に伴う危険やリスクに照らして、科学性・倫理性を担保するための倫理委員会における評価の充足や被験者との必要なコミュニケーションのあり方を考える必要があります。また、研究の趣旨とは異なる被験者の期待やニーズが、患者・医師関係の中で「治療との誤解」を形成し、結果的に被験者の自律的判断を歪める危険性もあります。狭義の「同意取得」のみならず、被験者が研究参加によってもたらされる(もたらしうる)利益の性格や危険性について理解できているか、研究者は注意する必要があるでしょう。

「ヒト試料」(井上)の単元は、研究目的での試料の取扱いをめぐる問題をテーマとしています。既存の試料を用いる研究では、医薬品の臨床試験などと異なり、個人の身体に直接的な害が生じることは少ないといえます。一方、医療への還元には長い年月を要する場合が多く、健常者・非罹患者の協力を求めることが多いこと、解析結果は大きな集団レベルで示されることなどの特徴があり、また試料は研究の素材として共有、蓄積されたりすることも多いです。個々人と研究結果との関係は相対的に希薄で、試料の提供や維持は、研究方針に包括的に共鳴した人の支持に依拠することになります。解析技術が進歩し、当初想定していなかった用途や情報の発生への対応が求められる中、試料や情報の個人性への配慮と科学研究の素材としての運用との均衡をめぐる議論が浮上しています。前半ではこうした特徴の概要を、後半では試料の取扱いをめぐる自律と無危害をめぐる議論に関連の深い、直近の論点を紹介しました。