日本公衆衛生雑誌に論文が掲載されました。(永井・李・藤澤・武藤)

2022/06/21

永井です。地方自治体が公表した新型コロナウイルス感染症の感染者に関する情報について調査した結果をまとめた論文が公開されました。

永井亜貴子、李怡然、藤澤空見子、武藤香織
地方自治体におけるCOVID-19感染者に関する情報公表の実態:2020年1月~8月の公表内容の分析
日本公衆衛生雑誌 早期公開(第69巻第7号に掲載予定)
DOI: https://doi.org/10.11236/jph.21-111

厚生労働省は、地方自治体への事務連絡で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を含む一類感染症以外の感染症に関わる情報公表について、「一類感染症が国内で発生した場合における情報の公表に係る基本方針」(基本方針)を踏まえた適切な情報公表に努めるよう求めています。しかし、自治体が公表した情報を発端として生じた感染者へのスティグマへの懸念が指摘されており、新型コロナウイルス感染症対策分科会の偏見・差別とプライバシーに関するワーキンググループのこれまでの議論の取りまとめにおいても、地方自治体による公表がCOVID-19感染者等への差別的な言動の発端となった事例があると報告されています。

そこで、本研究は、地方自治体におけるCOVID-19の感染者に関する情報公表の実態を明らかにすることを目的として、都道府県・保健所設置市・特別区が2020年1~8月に公式ウェブサイトで公開していたCOVID-19感染者に関する情報を収集しました。収集した情報について、厚生労働省が基本方針で参考とするように求めている「一類感染症患者発生に関する公表基準」(公表基準)で示されている項目の公表の有無、感染者の個人特定につながる可能性がある情報が含まれていないかを確認し、公表時期による公表内容の違いがあるかを分析しました。

その結果、公表基準で非公表と示されている感染者の国籍・居住市区町村・職業が公表されており、2020年4月以降では居住市区町村・職業を公表する自治体が増加していることがわかりました。また、公表内容に感染者の勤務先名称や、感染者の家族の続柄・年代・居住市区町村などの個人特定につながりうる情報が含まれている事例があることも明らかとなりました。

COVID-19患者の国内発生1例目から2年以上が経過し、その特徴や感染経路などが明らかになってきた現状において、感染者の個人情報やプライバシーを保護しつつ、感染症のまん延防止に資するCOVID-19に適した情報公表のあり方を検討することは、喫緊の課題と考えられます。また、検討により決定した情報公表の方法や内容については、市民や報道機関に丁寧に説明し、理解を得ることが必要であると考えています。

本研究が、COVID-19に関する情報公表の基本方針の見直しや、今後の新興感染症に備えた議論の一助になれば幸いです。