公衆衛生倫理に関する著作の無料公開について(井上)

2021/01/18

勁草書房より、公衆衛生の過去の制度の展開に関する拙著の一部が、無料で公開されることになりました。

現在、新型コロナウイルス感染症への対応をめぐって、国会で法改正に向けた議論が始まっています。歴史は、過去の反省をするうえでも、今後の中長期的な論点を考えるうえでも、多くの検討材料を示してくれます。この公開された部分は、「伝染病予防法」や「エイズ予防法」、「らい予防法」など、今日の感染症法の議論の前身や背景になった、法律やその経過を紹介した部分になります。なかなか類書がない中、執筆には苦労した記憶があり、無論、まだ未完の作業であるとも思っています。

過去の法律には強権的で今日では許容されない内容も多くあります。ただ、公衆衛生の倫理として考えると、どの価値に重きを置いていたか、どの価値を優先して考えていたか、という整理が重要になります。同様の視点は、今日の感染症法についてもいえます。また、過去の議論に学ぶならば、感染症対策における「予防」対応にどのような手順を設けるか、個人への差別的な対応について実際にどのように取り組むのか、感染症法の成立時に抜けていた論点もあるように感じています。今ちょうど感染症法や検疫法、新型インフルエンザ等特措法のあり方が議論されていますが、いま議論されている課題、あるいは議論されなかった課題が、この後の数十年にわたる社会を規定するかもしれない、そのような思いで日々の出来事に向き合うつもりです。

https://keisobiblio.com/2021/01/28/atogakitachiyomi_nyumoniryorinri3_2/

その他、この章では予防接種、「優生」、精神衛生をめぐる諸制度の展開が検討されています。

https://www.keisoshobo.co.jp/book/b210750.html