日本公衆衛生雑誌に、本人通知制度の実態と住民票を用いた予後調査への影響を検討した論文が掲載されました(永井・井上・武藤)

2018/06/15

特任助教の永井亜貴子です。このたび、日本公衆衛生雑誌に下記の論文が掲載されました。

永井亜貴子、武藤香織、井上悠輔
「本人通知制度の実態と住民票を用いた予後調査への影響の検討」
日本公衆衛生雑誌 2018; 65(5): 223-232.
DOI:10.11236/jph.65.5_223
https://www.jsph.jp/member/docs/magazine/2018/5/65-5_p223.pdf

日本には学術研究のための生存確認に使用できる死亡統計データベースがないため、コホート研究や疾患登録などで研究対象者の生存に関する情報を収集する場合、住民基本台帳法に基づき、住民票照会が行われています。第三者による住民票の写しの請求については、近年、一部の市町村において住民票の写しや戸籍謄本などを代理人や第三者に交付した場合に,交付の事実を本人に通知する制度(本人通知制度)が導入されていますが、同制度の導入状況は明らかではありませんでした。本稿では、全国の市町村を対象とした調査により本人通知制度の実態を明らかにし、バイオバンク・ジャパン(BBJ)で実施した予後調査の結果とともに分析することで、本人通知制度が学術研究を目的とした住民票の写しの利用に与える影響について検討しました。

本人通知制度に関する調査の結果から、約3割の市町村が本人通知制度を導入していること、学術研究目的の住民票の写しの交付について、ほとんどの市町村が一定の判断基準を持っておらず、担当者ごとに住民基本台帳事務処理要領をもとに交付可否の判断をしていることが分かりました。本人通知制度の導入とBBJの予後調査で行った住民票の写しの交付請求の可否の結果の間には有意な関連はありませんでしたが、交付不可とした市町村の理由の一部に、本人通知制度の開始に伴う判断基準の見直しが挙げられていました。

日本では、これまで多くのコホート研究や疾患登録が住民票照会により予後情報を取得し、有用な成果を得てきました。今後も疫学研究や行政情報の利用の意義や成果について、社会に向けて情報発信を行うとともに、学術研究目的の住民票の写しの交付判断に必要な基準を示すなどの市町村を支援する取り組みを行う必要があると考えられます。